不平等恋愛・3
「男と暮らしてるぅ?」
煙草をふかす祥子の顔がやや歪んだ。
「しっ、静かに」
私は慌てた。
職場の休憩所は広くて人が一杯だ。
がやがやしているので、かえって誰も人の話など聞き取れていない。
それでも、やはり前後をきょろきょろ、小声で話す話題だろう。
「悪い。でも、またなんであんたが? 結婚するまでけじめはつけるタイプだと思っていたから、おったまげたよ」
私もそうだと思っていた。
勝田祥子には、本当に隠し事が難しい。
最近、付き合いが悪いことをあやしまれた。しかも胃腸が悪いとかなんとかいって、宴会でも酒を飲まなくなった私を、おかしい怪しいと、探ってくる。
情報を引き出すのは、祥子の得意技だ。
でも、いたずらに吹聴するタイプではない。口の堅さは一級品だ。
工藤以外の恋愛は、すべて祥子に相談もしてきた。だから、渡場のこともついに白状してしまった。
恋愛事の勘が鋭い祥子であっても、さすがに衝撃だったらしい。
「で……? ちゃんと生活費とか、入れてくれているの?」
顔を近づけて祥子が聞いてくる。
「ううん、別に貰っていない」
渡場が住み着いたところで、私の経済状態はさほど変わったわけではない。
家賃も電気代も水道代も、すべて私が払っている。
ただ、食事代は渡場が払っているし、スーパーで一緒に買い物したときは、すべて渡場が出している。
私のパソコンを買ってくれたのも渡場だし、携帯電話の通話料も向こうが払ってくれている。
「麻衣、それまずいよ。そのうち、金がなくなった……とか言われて、少しずつ買い物のときも金を出さなくなってくるよ。まさに『ひも』っていうやつ」
私は目を丸くした。
渡場が私のひもだなんて、考えたことがなかった。
「一緒に住むなら、きちんとしておいたほうがいいんじゃない?」
祥子が煙たそうに煙草を吐き出した。
「……なかなかいい男だと思ったんだけれどねぇ……」
「うん、中味は最悪かもしれない」
渡場の評価が地に落ちて、私はまるで自分が落第点をもらったように落ち込んだ。
「で? 結婚とか、考えているの? もちろん、それが前提なんでしょうね?」
「……まぁ、そうと言えばそう……かも……」
歯切れの悪い私の言葉に、祥子の瞳がギラリと光る。
「まさか? 不倫……とか、言わないよね?」
うっ、と言葉に詰まってしまった。
不倫といえば不倫なのだが、私と渡場の間には、あまりにも似合わない言葉のような気がしていた。
「ちょっとぉ、麻衣。あんた、いったいどうしちゃったのよ?」
祥子がせわしく煙草をもみ消す。
「見かけしっかりしているように見えて、けっこうふらふらしてはいたけれど、けじめだけはしっかりつけるのがあんたじゃなかったの? まぁ、もう大人なんだからいいんだけれどさ……」
痛いところを突かれて、私は反論できなかった。
「まぁ、いいけれど。早く目が覚めてほしいものだとは思うよ」
何かあったら相談に乗るよ、と祥子は肩を叩いてくれた。
でも、やはり応援はしてくれないらしい。
当たり前といえば当たり前だけど、頼りの祥子にも呆れられて、私はため息が止まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます