子宮で育つもの・2


 どうせ結婚なんかしないし、子供だっていらないんだ。


 私はそう思っていた。

 そう思っている……と思っていた。

 先生の説明を聞くまでは……。


 いくつかの細かい検査の後、母に付き添われて手術の説明を聞いた。

 この病院は、開腹せずに筋腫を取る技術がある。

 筋腫ではなく、子宮そのものを、取ることもできる。

 あわよくば、お腹に傷を残さずにすむかもしれない。

 そう思っていた私は甘かった。


 私の筋腫は子宮壁の中に埋まっている。かなり動脈に近い。


「切って見ないと、どれだけ動脈に近いのか、わからないのです。動脈を傷つけると命にかかわりますから、子宮ごと取らなければならない可能性もあります。その可能性はわずかですが……。了承していただけますか?」


 私は、平然とその話を聞いていた。

 平然と聞けるはずだった。


「俺さ、やっぱり子供ができないなら、結婚できないと思っていた」


 昔の彼の言葉が蘇る。


 いつのまにか、私の目から涙が伝わっていた。

 慌ててぬぐった。

 そうだよ……子供なんて好きじゃないし、いらないんだ。

 だから、子宮が無くたってかまわないんだ……そう思っていたんじゃないの?


 そう……。

 でも、それは女じゃなくなるということだ。


 悪意のひとつも持たず、笑顔を見せながら、彼は結婚できないと言った。

 その時、私の心を埋め尽くした影が、再び私を埋め尽くそうとしている。

 笑顔がはじけた。

 中から飛び出してくるものは……。

 もう、涙を留めることはできなかった。


「……それは、困るけれど……このままじゃあね……。麻衣……」


 母がおどおどと話しかけて、途中で言葉が途切れた。

 先生の顔にも戸惑いの表情が現われている。

 私は、もうボロボロになって泣いていたのだ。


「あの……成功するほうが可能性は高いんですが、万が一、了承しておいてもらわないと、そのままふさがなければならなくなりますから……」


 今でさえ、誰も私と一緒に生きようと言ってくれる人がいないのに……。

 女じゃない女を、いったい誰が認めてくれるとでもいうのだろうか?

 あんまりじゃないか……。

 大人になったら、みんな当たり前にありつけるだろう幸せに、どうして私は手が届かないのだろう?


 せめて、見てくれだけでも、美しくありたい。


「あの……お腹は横に小さく切ってもらえますか?」


 横に切ると、傷が目立たないと、誰かがいっていた。

 せめて、きれいでありたい。

 きめの細かい白い肌は、私のひそかな自慢だった。

 ところが、先生の言葉は無情だった。


「今は、子宮を残せるか残せないかの瀬戸際なんですよ! 皮膚を横に切っても、中は縦に切るんです。そうすると、かなりの死角になるんです。メスは縦に入れます。十五センチくらい切ります。見てくれをいっている場合ではありませんよ!」


 子供ができないなら、結婚できない。

 女としては認められない。

 そのうえ醜い傷を持つ。


 誰かが私をあざけ笑う……。


 真っ黒い顔に、真っ白い歯を見せて、よってたかって後ろ指をさす。

 そう、あの悪魔達だ。

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