別れの系譜・2


 だらしない寝正月。

 お昼近くに起きると、両親はすでに初詣から帰ってきていた。


「今年こそ、麻衣にも素敵な人が現れればいいんだけれどねぇ」


 母の一言に、私はため息をつく。

 おそらくそのような願をかけてきたのだろう。


「私は仕事に生きるって言っているでしょう?」

「……まだそんなことを……」

「父さんったら、新年からやめてくださいよ。それよりも、年賀状」


 初めに話を振ってしまった母が、慌てて父をたしなめ、年賀状の束を差し出す。

 退職してから減ったとはいえ、年賀状はどっさりきていた。つまり、それだけどっさり出しているのだろう。

 一人暮らしをはじめて五年ほどたったとはいえ、私の年賀状も数枚混じっている。

 ただし、かなりご無沙汰な人ばかりで、年賀状だけの付き合いになっている場合が多い。そうでない人は私の家宛にするからだ。

 皆、結婚して名前が変わっているので、しばらく考えないと誰だか忘れてしまう。旧姓を併記している人もいるが、子供ができるころには、それもやめてしまう。



「あぁ……矢田さん、また旧姓に戻ったよ」


 父が一枚のはがきを見て苦笑した。

 どうやら職場の元部下だった女性だが、まめに年賀状をくれるらしい。


「初めての結婚は、職場結婚だったからね。父さんが仲人を引き受けたんだけれどもねぇ……いい娘さんだったけれど」


 父がはがきを机の上においた。


「いい娘さんでも、やはり育った環境が悪すぎたんだな。家庭が不和だったから。両親離婚していただろう? そういう人は、離婚しやすい。仲人のときに引っかかりはしたのだけど、やはりね」


 私は少し父の言葉に抵抗を覚えた。


「何で両親が離婚したら、子供も離婚するって思うの? なんか、差別的だなぁ」


 父は、差別という言葉に機嫌を損ねた。


「差別じゃない。経験上のことを言っているんだ。麻衣はわからないかも知れないけれどな」


「……父さん」

 母が再びたしなめるが、父は言葉を続けた。


「麻衣、覚えておきなさい。どんなにいい人でも、家庭に問題があった人は、やはり家庭に問題を作る。だから、お見合いのときなど、皆、そういうことを気にしているだろう?」


「まさか? 遺伝じゃあるまいし」


「遺伝のようなものだよ。親に愛情を受けられなかった子供は、大人になっても愛情をもてない。その人が悪くなくても、そうなってしまうんだ」


 私は腹立たしさを覚えた。

 父のこの決めつけが、いつも私を不快にする。


「ナンセンス!」


 そういうと、私は居間を出て部屋に篭ってしまった。

 


 父の言葉が正しいとは思わない。

 でも、親の影響というのは、やはり子供に伝わるものだ。


「結婚できないと半人前」


 父の言葉を否定しながらも、その言葉に縛られて家を飛び出した自分がいる。


 ——親に愛情を受けられなかった子供は、大人になっても愛情をもてない。


 ぞくっとした。


 親が離婚したという渡場のことを思い出していた。

 彼のあまりにも薄情な愛のあり方を思い出してしまった。

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