子宮で育つもの・4


 重いものは持たない……という条件付で、私は早々と職場に復活した。

 精神的にもだいぶ回復した。

 バリバリ働くぞ! 気合も充分乗ってきた。

 一日目は、快気内祝いのお返し配りでぐったりになった。

 かなり体力が落ちていた。

 七月の星の集まりは、さすがにいくことができなかった。

 やむをえず、お見舞い返しは郵送した。


 売場に私を訊ねて杉浦がやってきた。


「やぁ……」


 いらっしゃいませ……と声を掛けた私に、杉浦は照れくさそうに笑った。

 色白な顔に、赤みがさした。

 デパートがあまり似合わない男だった。


「なんだか働いていると別人みたいだね……」


 何度も見舞いに来てくれた杉浦は、私の素顔を何度も見ている。

 今の私は、きりっと眉を書き、人を食ったようなシャネルのローズのリュージュをしていた。

 デパートで働いていると、どうしても化粧が濃くなるようだ。


「ところで……星のほうは来ないの? みんな待っているよ」


 みんなか……。

 お見舞いに来てくれた人たちの顔が浮かぶ。

 渡場さんもかな? あの片エクボをかなり見ていない。


「流れ星の時だけでも来れないかな? お客さんでもいいからさ……」

「……それじゃあ、なんだか悪いよ……」

「じゃあ、受付! そうだ。受付してよ。それならいいでしょ?」


 杉浦は、意外に強引なところがあるようだ。

 私はちょっと面食らった。


「サボりまくりで……私にも出来ることかな?」

「もちろん! じゃあ、当日迎えに行くよ」

「エ?」

「もう決まったからね!!」


 杉浦は、ニコニコで決め付けていた。

 さらに売場をキョロキョロ見まわすと、商品を見始めた。


「あの……麻衣さん。僕って地味かな?」

「は? えっと……たぶん……」


 杉さんは、カクッと頭をたれた。


「君はやっぱり正直者なんだねぇ。そこを見こんで頼みがあるんだけれど……」

「はい? なんでしょう?」

「あの……自分の服を自分で買ったことがないんだ。親が買って送ってくるから……。で、ちょっと地味だろ? え、選んでもらえたらと……」


 ちょっとだけ、杉浦の本心を探ろうとして躊躇したが、お客様でもある。

 何よりも、同じ歳のくせしてこんなに地味なのは許せなかった。

 彼は明るい色のほうが似合いそうだった。

 イエローなんて着たことないだろうな……。

 遊び心が私の中で騒いでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る