落陽・2


 私は本当にばかだった。


「麻衣は、何着ていく? 私、服ないから困っているんだよね」

「え? 何?」

「えって……。工藤君の結婚式だよ。まさか、あんたのところ、招待状来ていないの?」


 売場が違う……でも、仲良し仲間だから、きっと麻衣のところにも来ていると思って……同僚の声がフェイドアウトしていく。



 招待状なんて来るはずもない。

 かわりに今夜もニコニコしながら、工藤は私の部屋を訪ねてきた。

 おおっぴらな付き合いが好きな私に対して、工藤はこそこそするのが好きだった。


「だって、照れるだろ……」


 照れじゃなかった。

 人に知られたくない理由がちゃんとあったのだ。

 蒼白なまま彼を向かい入れた私の異様な空気を察して、彼はご愛嬌を振りまくる。

 山が好きで、スポーツが好きで、笑顔が爽やかなこの男が、こんな不誠実な男だとは見抜けなかった。


 本当に、私はばかだ……。

 男を見る目がまったくない。


 シャイすぎたのかも知れない。

 真直ぐすぎたのかも知れない。

 甘く見られたのかも知れない。


「……俺、麻衣が一番好きだ。でも、彼女とは腐れ縁なんだ。五年も付き合って……彼女もいい年になって……」


 彼はいきなり泣き出した。間違いなく嘘泣きだ。


「周りがすっかりそうなってしまって……俺がもらってやらなきゃ、ダメな状況なんだ。仕方ないんだ。もう、適齢期過ぎているから……」


 そんないいわけ聞きたくもない。

 さらによせばいいのに、彼の心を暴くような質問を重ねてしまう。


「私は、彼女より二歳も年上だよ……。私には同情してくれないの?」


 こんな男に、未練たっぷりな自分が悲しい。

 そしてさらに男の勝手な言いぐさを聞かされる羽目になる。


「何言っているんだよ。君は年齢よりも充分若いし、綺麗だよ!」

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