月のない夜・4


 星の集まりは、月に一回……。

 軽いお勉強会と、おしゃべりと、八月に行なわれる「流れ星を見よう!」というイベントのためのミーティングが行なわれる。

 七月だけは三回集まることになっていた。



 六月の集まりの時のことだった。

 スクーターを止めた時、渡場の車がないことに気がついた。

 今日はあの笑顔がないことに、私はちょっとさみしさを感じた。


 集会は静かに、だが和やかに進んだ。

 強烈な個性を放つ渡場の影に隠れていた青年たちも、徐々に自分たちの持ち味を出しはじめていた。

 特に杉浦は暗そうな外見に似合わず、楽しいことが大好きな明るい青年だということが判明した。

 星のことにも詳しい。


「……子供の頃から好きだったからね……」


 私はなれなれしくもこの青年を「杉さん」と呼ぶことにした。


 もう集会も終わろうとした時だった。

 いきなりドアが開くと、真っ黒な青年が飛び込んできた。

 白いTシャツに短パン……。真夏モードにはまだ早かった。


「いや、集会忘れていてキャンプに行っていた……」

「え? 渡場さん?」


 真っ黒で見る影もない。

 目だけがぎょろりと光っている。

 まるで少年のようだった。

 渡場は、テニス仲間とキャンプ中だという。

 車で一時間以上はかかる場所だ。


「晩飯食っていたら、思い出して今帰ってきた」


 にっこり笑った顔に片えくぼと、なんと白い歯が浮かんだ。

 一瞬にして、世界は渡場の支配するところとなった。


「あ、終わったの? じゃあキャンプに戻るか」


 渡場直哉は、唖然とする人々に、にっこり笑顔を見せつけると、っという間に姿を消した。


「なんだか……直哉さんって……噂には聞いていたけれど、ふしぎっすねぇ……」


 大学の天文サークルの後輩だという青年が、ぽつんと一言つぶやいた。


 


 集会後、誰が言い出したか忘れたが、みんなで食事をすることになった。

 杉浦は、急な提案にすぐ乗っていた。


「どうせ真直まっすぐ帰っても、僕はコンビニ弁当とビールだから……」


 みんなでわいわいお話をしているうちに、なぜか話題は渡場のことになる。

 今日の渡場の強烈な印象が、誰にでも強く残っていたせいに違いない。

 そのうえ、渡場の後輩が二人いた。


「僕が入学した時には、もう直哉先輩は「伝説の直哉さん」と呼ばれていましたから……。K大天文サークルの有名人物も有名で」

「そう、すごいパワフルで……。でも、卒業してからはOB会にほとんど来なかったから、僕なんて今回はじめてお会いしましたよ」


 私は、渡場の後輩の顔をまじまじと見た。

 高井は、確か私と同学年……増沢は二歳年下のはずだ。


「渡場さんていったいいくつ?」

「確か……三十三歳だよな? 増沢」

「そうです。わかいっすっよねぇ! 二十三歳でも通用しそうですよね。いや、とても子供がいるとは思えない」

「えーーーー!」

「渡場さんって、結婚しているの?」


 女性陣から声が上がった。

 それはがっかり……というよりも、生活感のない渡場の空気に、結婚の文字が浮かばなかったからだ。


「いやぁ……僕もわからないです。確か、しているはずだけど……天文サークルの同期の人じゃあなかったかな? 奥さんて」

「今も確か、大学で働いているはずだよ。でも、直哉さんって謎が多い人だよな……」

「生活感……まったく感じませんよねぇ」


 確かに渡場は不思議な男だった。

 掴み所がなく、考えていることがよくわからない。

 それでいてカリスマ性があって、いつのまに、場の中心に収まっている。


 男・三十三歳……。


 確かに結婚していて子供がいても不思議はないが、私には渡場に子供がいること自体、信じがたかった。

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