正しい家族のあり方・2


 雪が積もった。


 あぁ、今年も冬が来てしまった、などと、憂鬱になる。

 だから、渡場に冷たい態度をとってしまうのかも知れない。彼がいつもニコニコと笑っていることをいいことに、途方もないわがままをいったりして、困らせたりもしてしまう。


 たとえば。

 雪道で渋滞だから仕方がないのに、三分遅れたのを理由に送らせるだけにして、家に帰ったり。向こうの都合で会えないことを、妙に責めたり。わがままがエスカレートする自分が怖い。


 私は……理想にも欲望にも、中途半端なのかもしれない。



 渡場がパソコンを買ってくれたので、メールというものができるようになった。

 星の仲間たちにも一部普及しつつある。

 世の中はすごい速さで変わっていって、昨日まで夢物語のようだったことが、今日にはできてしまうのだ。

『高井主催・年越しスキーツアー』なる企画も、メールで回ってくるようになった。

 メンバーは、高井・増沢・美弥と理子だ。杉浦は、里帰りしなければならないので、今回は不参加である。


「私もだめなんだよね。実家に帰らないと怒られてしまうから」


 クリスマスに帰って来いという電話を、忙しいから今年も正月だけ……と、断ったばかりだ。親には、売り場のローテーションで二十五日が休みだなんて、口が裂けても言えない。


「麻衣が正月に実家に帰ったら、俺は、どうする?」

「直哉もたまには里帰りしたら?」

「十年も帰っていない」

「じゃあ、ちゃんと、奥さんと子供と一緒に新年を迎えなさい」

「最近の麻衣、棘ない? 何か焦っていない?」


 そうして渡場は、すこし不機嫌になる。


「俺もスキーに行くかな……」


 私は呆れてしまった。

 渡場は、独身よりも独身貴族だ。家族とともに、などという頭はまったくないのだ。



 宴会シーズンの到来で、私は飲んだくれて帰ってくることが多くなった。

 祥子と女同士の個人的な酒もあった。

 今まで付き合ってきた人たちは、私の付き合いにとやかく言うことはなかった。心が広かった。

 その人たちよりも数倍優しい渡場は、自分自身が自由奔放。もっと心が広いのだろうと思っていた。

 というか、私のすべては渡場だけではない。

 星の仲間達ともよく飲み歩いた。

 杉浦の夕食にも、快く付き合った。

 都合が悪いと言えば、渡場はそれ以上会おうとは言ってこないので、おのずと渡場と会う時間は減っていった。

 なぜ、あ、そう……だけで、また今度……だけで、私を放っておくのか、苛々してくる。

 思えば、渡場は職場に電話をくれなくなった。

 会いたいといって電話するのは、一方的に私のほうなのだ。

 別に、私に会いたいと思っていないならば、それに越したことはない。

 こうして、少しずつ離れていくのも、自然の成り行きでいいのかもしれない。

 なんだか、そう思えてきた。そう思ったほうがいい。

 ふたご座流星群の観測は、渡場は参加しなかったが、よく晴れていたので朝帰りになった。

 渡場は、一言だけだった。


「晴れてよかったね」



 別に、何かから逃げていた……なんて、思ってはいない。

 棘もないし、焦ってもいない。酒を飲んで紛らわすことなんて、私にはない。

 楽しく飲んだり、おしゃべりしたり、遊びに行くのは……そう、私らしいことなのだから。


 と思いつつ、不安になるのはなぜなのだろう? 

 やはり、三十歳になるからかもしれない。


 決定的な事件が起きたのは、私の誕生日五日前の夜だった。

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