流れ星・4
私たちは別席で打ち上げをすることにした。
すすきので一席設けることになって、私が幹事をすることになった。
大まかな日程は、イベントの終わりに打ち合わせしたものの、渡場は先に帰ってしまって連絡していない。
「僕、メール打っておきます。白井さんに連絡するようにって。どうせ、今日の結果をメールする約束だったし」
電子メール・アドレスを持っている高井が、快く引きうけてくれたにもかかわらず、渡場からの連絡はない。
しかたがない。
私は、名簿から渡場の電話番号を調べて電話した。
RRRRRR……
「はい、渡場です」
電話に出たのは、女性の声だった。
「あの私、星の会の白井と申します。恐れ入りますが、直哉さんはいらっしゃいますでしょうか?」
私は、丁寧に話したつもりだった。
しかし、女性の声はまるで不機嫌で、何か棘があった。
「渡場は留守です」
「あ……あの……それでは、お戻りになりましたら、お伝えしていただきたいのですが……」
「わかりました。伝えるだけ伝えておきます」
ガシャ!!!
すごい勢いで電話が切れた。
????
いったい何か悪いことでも言ったのだろうか?
同僚でも奥さんがヤキモチ妬きで、女の人から電話があると不機嫌になる人がいる。
でも、私は、変な誤解をまねかないように、所属も名前もしっかりと名乗ったのに……。
今の……きつい声の人が、渡場の奥さん???
渡場が結婚しているらしいことは知っていた。しかも、子持ちだという噂だ。
しかし、結婚とか家庭とか、感じさせることはなかった。
渡場の、飄々とした空気に比べて、今の女性の張り詰めた空気は、奇妙にさえ感じた。
とにかく……伝言してはもらえるだろう……。
でも、なんとなく嫌な気分。
そう、ものすごく悪いことをしているような……。
その感はあたったらしい。
渡場は私に連絡せず、高井にメールで参加すると言ってきた。
高井から電話を受けて、なぜ、私に直接電話をくれないのかなぁ……と、不思議に思った。
理由は、打ち上げの席で明らかになった。
この時間、地下鉄・すすきの駅の前は、飲み会の待ち合わせの人たちでごった返す。
幹事でありながら、仕事上、私は走って遅刻ぎりぎりで、息を切らしていた。
全員そろっているかどうか確認していると、渡場と一瞬目が合った。
彼は、じっと私を見ていた。
なぜか焦って、私はすぐに目をそらした。
今まで、場渡と目が合ったことなんてなかった。
彼は、いつもニコニコ片エクボで笑っていて、じっと人の顔を見つめることなんかなかったし、いつも人の注目を浴びていて、私には何の興味もなさそうで冗談交じりの言葉しか交わしたことがない。
しかし、この時は、私が目をそらしたあとも、ちらちらと私を見る渡場の視線を感じた。
まただ。ほら……。
今、私が高井と言葉を交わした、ほんの一瞬だ。
それも、何かしらぎこちない……冷たさを感じる視線だった。
私たちはぞろぞろと移動した。
バブルに沸くすすきのは、観光客も多く、賑やかで毎晩がお祭りの賑わいだった。
私達は二、三人のグループに途切れて、時々入れ替わる隣の人と言葉を交わしながら、すすきのを歩いていた。
道端でパフォーマンスする人たちが、最近増えてきている。
ギターの外国人が、私の好きな歌を歌っていたので、私は思わず足を止めた。
その時、後から歩いてきた渡場が、私の耳元でささやいた。
「君は、ずいぶん大胆なことをするんだね」
え? 何?
私が振向いた時には、渡場はもう通りすぎていて、星野美弥と並んで歩いていた。
大胆なこと? 大胆なことって何だ?
私が渡場にしたことといえば、電話したことしかない。
家に電話をしたことが、渡場の言う大胆なことなのか? なぜ?
今度は私が小走りに走っていた。
「ねえ、ねえ、何が? 何が?」
桜田理子と星野美弥を両手に従えて歩く渡場の後姿に、私は質問を浴びせた。
「何がって、何が?」
渡場は振り返って、すっとぼけた。
片エクボが浮かび、作り物の白い歯が光った。
いつもの渡場だった。
さっきのは、私の聞き違いだったのかなぁ?
「いや、なんでもない……」
私は一人バカをやっているような気になって、質問を引っ込めた。
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