第5話:魔物

ボッ・・・。


手のひらから小火を灯す金成。それをすっと自在に操っている。

「いいか、金成。炎と言っても自分の繰り出す火では火傷を負うことはないが、別のモノから出す炎は火傷してしまう。くれぐれも火の扱いには注意することだな」

渋谷は以前自分がそのせいで左腕に大きな火傷をしたことを告白した。

「ああ、わかっている。最低でも10個ぐらいスキルは持つに越したことはないかな。出来れば回復の呪文とかも覚えてたら便利かもしれねえな」

金成は火を操りながら遊んでいた。出来れば魔法だけでなく、それ以外のものも欲しいな、と金成は心の中で呟いた。


「何やってんだ?金成、渋谷」

茶髪交じりのツーブロック男、「原宿」がそこにはいた。

その背後に隠れるかのように「池袋」もいた。彼は伊達眼鏡に黒髪、常によくわからない「聖書」を手にして、時折メガネを右手で持ち上げるしぐさをする。

「なんだお前ら、こんな時間に何してんだ?」

金成も渋谷も既に深夜になっているのに、まだ東京国の街をうろついている。

「いや~、実は面白いもの見つけたんだ。丁度お前らにも見せてやろうと思ってな。ここじゃあれだからちょっとそこのカラオケにでもいかね?」

原宿が右親指を立てながら、自分の背後にある「カラオケ」を指した。

「さして面白いものでもないと思いますよ。原宿君」

さりげなく池袋が突っ込むが、無視されてしまった。


4人はカラオケ屋に入り、ワンドリンクを注文した後に池袋が机の上に地図を広げた。

「この東京国の北部にある、国会議事堂なんだけどさ。うちの家のじいちゃんの部屋から発見したんだ。こないだ葬式挙げたばかりでよ、部屋の中整理してたら古い書物の中からこんな地図があったんだ。」

原宿は宝地図でも見つけたかのような喜びだ。

「それでこの地図には何が書いてあるんだ?国会議事堂前になんかあるのか?」

金成は疑問に思った。地形が少々古いからだ。おそらくこれは50年程前のもの。そう感じ取った。

「実は昔政府が活動していたこの記念博物館の地下に1匹の魔物が眠っているんだとよ。なんでもそいつと相対したものは突然動けなくなり、何もできないうちに死を待つしかないんだとか」

「金縛りの一種か?」

「分からねえな、昔じいちゃんがそいつを見たことあるらしく、そいつは何かを欲していたらしい」

「それはなんだ?」

「さあ、分からんな。地下に閉じ込められるまでのことは分からねえ。しかしそいつは当時30人殺害している。なのに、そいつはまるで悪く思わない。終身刑らしいぜ」

「なるほどな、話は分かるがよ?この地図は一体なんだ原宿」

渋谷が金成と原宿の話を遮るかのように割り込む。

「これはその地下へ続く道を記した地図ですよ」

ブラックコーヒーを片手に池袋は言う。

「昔、原宿君の祖父は議事堂の建設工事を担当していました。その時に設計された誰も知らない地下通路を作ったとのことでした。右翼側などの考えなどは分かりませんが、終身刑となったものを逃がすつもりでもいたんでしょうかね?わざわざそんな国王ですらも知らないような通路を作るなんて」

「だとしたら国王のいる城なんかもそういった秘密の地下通路とかあるかもしれねえな。まあいずれにせよこの魔物とかいうやつに会ってみようぜ」

「おいおい、やめとけよ金成。会ってどうするんだ?そいつから能力でも貰うのかよ?何の能力かもわからねえし、何を欲しているかもまだわからねえじゃねえか。それにそいつは30人殺害したのに何とも思わない凶悪犯だぜ?俺ら4人行ったところで殺されるかもしれねえじゃねえか」

「いや、行く価値はある。なぜならそいつはのぞんでそこにいる可能性もある。そんな凶悪犯が大昔から存在するというのであれば、会ってみるべきだろう。この国の悪の魂胆も垣間見れるかもしれんぞ」

原宿は聖書をパラパラと開きながら言う。

「ところで金成、さっき渋谷が言ってた能力を貰うってどういうこと?お前そんなことできるのか?」

「ああ、俺のスキルマスターは相手の欲すものを叶えると同時に了承を得ることにより、能力を共存することが出来るんだ。メモリー限度は今のところ分からんが、とりあえずそいつにもし静止させる力があるとしたらこれは相手との交渉の際などにも使える。どれほどの凶悪犯まで足止めに出来るか分からんが、こういったスキルを持つに越したことはないだろう」

「へえ、じゃあ俺のナイトメアも使えるようになるのか?」

「まあそういうことだな。渋谷の炎「ファイヤー」も使えるようになったんだ。」

2人で炎を手のひらに出してみた。

「器用なやつだな金成は。昔からそうだったか」

「僕のジャッジメントは不要ですね。金成君にはあまり向いてなさそう」

「そんなことねえと思うけどな。池袋のジャッジメントにかけられたら怖くて仕方ねえよ」

4人で笑いながら、カラオケ店を後にし、一時家に帰宅した。

決行は明朝6時、各々が電車で目的地に向かうことで一致した。

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