第65話:阿修羅④

阿修羅は金成の力に気付いた。

将来彼は大物になる、この手で今摘むべきかどうか生殺与奪の命に掛けられている。

だが、武術大会での殺しはご法度である。それはいかなる理由であれ、十分承知しなければいけないのだ。

もしやるならば別の場所か、否たとえ自分が黙認していたとしてもこの様子を見ている素戔嗚は再度金成に手をかけるだろう。

だが、しかし・・・阿修羅は焦っていた。

一つの疑念がそこにあるからだ。王国制度の再建は彼も考えているものであるのは事実である。彼が昔銀行員を努めていた時もそうであったように、国民年金の感慨深い非情な少子高齢化の重荷が年金だけに留まらず医療費助成制度にまで発展が困難であることについてだ。


「ブラックホール」

金成は阿修羅に向けて放つ。

四次元空間を描き、それを飛ばそうと考えたが、

「さすがに俺の能力でもブラックホールは異空間に飛ばせないか」

物理的なもの、魔法や科学は飛ばすことが出来ても、空間に対して空間は飛ばすことが出来ないものであることは阿修羅も重々承知しているのだ。

テレポートしてあの技を交わす以外に術はないわけである。

「阿修羅、あんたのその能力すごく便利だな」

金成はいつの間にかバトルを楽しんでいた。

「俺が勝ったらその能力俺に分けてくれよ」

「ふん、私に勝ててから言うんだな」

阿修羅は瞬間移動した。しかし周りにブラックホールが纏っているため、迂闊に修羅の旋律を使うこともできない。

「攻略困難極まりないな」

王直属の戦士が押され気味である。

「一つ思ったんだが、あんたのその空間を移動させる能力についてだが」

「?」

「それを使えば宅配業者にでもなれるんじゃないか?」

「君は何も知らないようだな」

「なにがだ?」

「今や少子高齢化の時代。宅配業を営むドライバーの数が減り、今や人手不足だ」

「だからこそ、あんたが自宅まで荷物を運べばいいだろ?」

「馬鹿をいえ。通販サイトはごまんといる。委託販売にどれだけの労力と契約が必要か分かっているのか。それに先日、大手宅配請負業者が有名通販サイトのあまりの注文数に応じて対応できなくなり、数十年ぶりに送料の値上げに踏み切ったんだぞ。いかに人件費の高騰と書留の困難さが今の首都である東京国では難しいのかは分かっているだろ。私に過労死しろとでも言いたいか?」

「あんたの強靭な体力ならそれぐらいお手のもんだろ」

「なら君が私に勝って、私の能力を使って宅配業でも請け負うがいい」

阿修羅はテレポートした。頭上にはブラックホールが掛かっていない。

修羅の旋律をしようとした。


スキルマスター発動:トレード


右親指と中指をパチンとならし、阿修羅と場所を入れ替えた。


「なに?」


ファイヤー&グラヴィティ合技:メテオ


岩石はないものの、重力と炎を圧縮させた一つの火の玉が阿修羅を襲う。

「間に合わない」

阿修羅は修羅の旋律を使いガードした。

阿修羅は体中焼かれてズタボロだ。服がビリビリに破れた。

「おのれ・・・」


スキルマスター発動:ライジングサンダー


蹴りを入れる。阿修羅は反応しきれていないようだ。

「どうした阿修羅?動きが鈍くなってきたぞ」

「どうかな?」

阿修羅はテレポートした。

金成はライジングサンダーを解除した。


ナイトメア&グラヴィティ合技:ブラックホール


周りをブラックホールで囲った。

「ぐっ・・・」

阿修羅は急いで闇から脱出。防戦一方である。

「あのブラックホールがある以上、近づくことが出来ないな」

金成はスキルを解除した。

金成も体力に限界が近づいてきたようだ。

「阿修羅!今のうちに叩け」

素戔嗚が叫ぶ。しかし阿修羅はそれに耳を貸せるほどの余裕はない。

「あの小僧、阿修羅をここまで追い込むとは・・・。阿修羅はAランクの中でも『AAランク』に所属する、精鋭部隊だぞ。王直属の戦士を束ねる程の実力者、いずれは王最強の盾に加わる程のものが、こんな小僧に・・・」

素戔嗚は目の色を変えて、金成を睨みつけた。


スキルマスター発動:アルティメットアイズ


金成は究極の両目で阿修羅の動きを先読みしている。

「目も酷使しすぎて、疲れてきたな。明日は肩こり腰痛だなこりゃ。あと神経痛もか?まあそんなこと言ってられないけどな」

阿修羅の5秒先、奴は動かない。そう確信した。


マジカルトリック&ジャッジメント合技:ジュリーマン


金成が分身した。

しかしただの分身ではなく、自動的に動き始めた。忍者が好む分身の術のようだ。

「juryman、直訳して陪審員(裁判員)とでも言ったところか?お前の命運を裁く」

「ほざけ、所詮は人形」

阿修羅は瞬間移動して、次々と捌き始めた。金成の人形の中から機動力の札が出てきて、次々と破いた。

「全く器用な子だな・・・」

足元が崩れ始めた。金成の分身からの攻撃を受けた。

痛みは無いが、動きが拘束された。

「ジャッジメントの応用、ジャスティス。あんたの動きは拘束した」

「やるねえ」

「これで最後だ」


ナイトメア&グラヴィティ合技:ブラックホール


阿修羅の体に思い切り、押し付けた。

「ぐほお」

阿修羅は血を吐いた。思い切った亜空間による締め付けが、彼の強靭な肉体を以てしても、それを防ぐことができないからだ。

まさに絶対防御不可避の技である。

しかしその能力はすぐに解かれた。

金成はそのまま倒れ込んだ。限界をとっくの昔に超えていたのだ。

「はあはあ・・・」

阿修羅は頭から血を流しながら倒れている金成を観ていた。

「あと数分あれば、俺は負けていたな」

阿修羅は空を見上げた。青々とした晴天だ。

「この試合は、引き分けとしよう」

審判には聞こえないように呟いた。


試合終了後、互いに病院に搬送された。

「動けるか?」

阿修羅は金成に問う。

「もう肩こりひどくて動けねえよ」

「はは、口を動かす元気があるならばよし」

阿修羅はニヤニヤとした。

「あんたの執念、すごいな。これが王直属の戦士と名を連ねる実力者なのか。俺とは抱えてるものが大違いだな」

「そんなことはない。君の野望には正直押し殺されそうになったよ」

素戔嗚は黙って二人を観ている。

「君はもし、王になったらどうしたいんだ?」

「別に何も。つまらない世界に干渉していてもつまらない人生で終わってしまう。そんな人生は俺はごめんだ。だからいっちょ面白いことをやってやろうと考えた、ただそれだけだ」

「それだけ?それだけでこんなむちゃな戦いをしているのかい?」

「何か文句でも?それとももっと世界を動かす指導者になるとかかっこいい理由でも用意しといたほうがいいのか?」

「いや別にそういうわけではないんだが、なんかあっさりしてるなーと思ってね」

「・・・」

2人はすっかり意気投合したかのようだ。

「金成君、君がもし秋葉王を討伐したら、何を始めるんだ?」

この質問をされた時、国会議事堂で出会った武藤のおっさんの話を思い出した。国会議事堂で世論に訴えかけた太郎という人の無念を、こんなこと考える彼ではないが、それを一つの施策としても考えていた。

「医療費高騰化のこの時代に終止符を打つため、セルフメディケーション制を導入したい」

「医師会に戦いでも挑む気かい?」

「そんなことは考えていない。他にもそうだな。保育園施設の導入も検討したいね」

「君はなんだか政治家って感じだね。でもまあ世間はそう簡単にはいかないよ」

「そうだな、そんな簡単じゃないさ。俺には努力が似合わないんだから」

「どうだろうね、しかしその多彩な力はいずれこの世界に必要とされる力かもしれないさ。俺の能力も活用してくれ」

金成は右手を差し伸べた。

「俺の能力はスキルマスター。相手の能力を自在に使える力だ。あんたの望み通り、俺は勝ったのか分からない。しかしそれで納得してくれるなら俺と握手してくれ。それであんたの能力は使える」

「まあ使いこなしてみな。俺の能力はそんな都合よく合技なんてものみたいにはいかないだろうけどな。合技は本来2人以上で行うものだ。それをたった一人で行うとは大した男だな」

お互いに握手を交わした。金成は阿修羅のスキル「テレポーテーション」を手に入れた。

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