第66話:自持思想論③
阿修羅との戦いを終えて金成はテレポーテーションを取得した。
「これってトレードの上位互換だよな」と考えたが、いいものには必ず悪いものがある。光が当たる処に影があるのと同じであった。
日本国は現在47ヵ国に分離されている。正式には大阪国と京都国は1つとなり、現在は46ヵ国となっている。各国ではそれぞれに文化があり、宗教があり、そして民族が存在した。当然郷土料理も存在し、名産物もある。近隣にある静岡国では「茶葉」が有名であり、静岡国の民族は皆「茶道」を愛している。西よりにある愛媛国に於いては「みかん」が名産、愛媛国は他国の者がみかんの皮を捨てる者がいたら全力でそれを非難し、場合によっては犯罪にまで発展するぐらいのものであった。
金成は久々に祖父の残した書物を手に取った。
「自持思想論~2つの世界」である。
宗教の自由が許される中、色々な思想はある。100%正しい答えなどは誰にも分らないものである。自分のことは自分でなんとかしろ、である。
他人の考えに依存するあまり自我を失うようではいけないものだと考える。
その為にも自分の思想は自分自身で持つべきである。いい面もあれば必ず悪い面も存在するからだ。
祖父は人生の教訓に於いて次のような文面を残している。
自持思想論第19小節「通知表を2枚受け取った男」であった。
金成にとって通知表が2枚というのは訳が分からなかった。次のように記されている。
『学校では学期ごとに通知表を渡される
5段階評価もあれば10段階評価もある
それは学校によって条件は変わってくる
たいていの子供が受け取るのは1学期ごとに通知表1枚
これは当たり前の話と言えば当たり前の話である
しかし世の中には1学期で通知表を2枚受け取る者もいる
何かのミスではなく、教師が意図的に渡しているのである
学校内で常識を覆す行動が取れるかどうか
それによって社会でももしかすると旋風を巻き起こせるかもしれない』
横社会と呼ばれしところであえて縦社会を実行する・・・か。
事実祖父は通知表を2枚受け取った。たった1学期で。そこに何の意味があるのかと問いたいが、改めて自身の能力にも疑問を感じたのである。
「爺ちゃんも俺と同じ考えなんだな。2つ貰えてるんだ。俺と同じく、能力を2つ使う連携をしたり、2つの能力を合わせた技を使ったり」
自身のスキルマスターへの鍵はここに存在していた。世界は最初から2つ存在していたんだと考えたのだ。
火と水、二つを合わせれば火は消え、水は蒸発する。しかし間に鉄の板でも挟む者ならそれらは相殺されず、水は沸騰してお湯に変わる。
その間のクッションが大事なのか。水と炎だけでは駄目だ。自分の『スキルマスター』というバイブルこそがクッション材になり、合技を可能としているとでもいうのか?そこまではこの自持思想論を読んでみてもまだ答えは出てこないものである。
「ローリスク・ハイリターンか」
良きクッション材も最初は渋谷のファイヤーから始め、そこから徐々に能力を集めてきた。今となっては多彩に使えるようにはなってきた。しかしこれらのスキルには必ずいい面もあれば悪い面もある。どこかで誰かが補わなければいけないのである。それをほとんど自分一人で実行出来てしまう能力には本当にローリスクであるかどうかも考え物であったのだ。
「何も自分一人で抱え込むものでもないんだが」
そう、迷ったら誰かに振るのもいいわけである。振り返ればそこに信頼できる仲間がいれば、自分の欠点を補ってくれる。そんな仲間が大事である。
以前学んだのは「神輿は自分一人では抱えれない。皆で担ぐものだ」そう学んだ。
仲間のいる大切さを教えてくれたのもまさにこの自持思想論というわけであった。
本書を閉じた。
スキルマスター発動:テレポーテーション
四次元空間をなぞり、異空間へと自身を転送させた。
不思議な感覚ではあるが、まるでパラレルワールドに迷い込んだように、一瞬にして空間移動ができる。今のうちに実験しておかなければいけないわけである。万が一外が危険になった時にこの異空間に身を隠すことができるのかどうかだ。そして出口はどこにマーキングできるのかどうかも確かめる必要があったのだ。
金成は非常に慎重であった。
スキルマスター連携:アルティメットアイズ
自身の飛び出す外の世界がもし、車道でありトラックが走ってこないことも考えられない。そして外の世界が崖ならば異空間から出たら即座に命を落とす窮地に立たされるかもしれない。阿修羅には自身の体を目に見える範囲にテレポートするぐらいで、異空間を通じて超遠距離に自身の体を飛ばした試しはなかったからだ。異空間を通じる場合はある程度の範囲は決められて自身は飛ばせるが、正確な場所の指定が出来ないのが難点だからだ。
「ここだな」
5秒先まで未来を見据える究極の両目が異空間移動の欠点を克服した。
無事に外に出られた。ここは東京国の西区にある位置。一瞬にして東区から西区へと空間移動したわけだ。
どうしても出来ないのは壁の外へは異空間を通じても防がれる。これこそが神の創りし絶対的境界線というわけかと考えたのだ。
「出るタイミングさえ分かれば、この異空間を使って自分自身を安全地帯に運ぶことも可能という訳か」
ものにもよるのか、空間の大きさにもよるのかは定かではないが、人一人を運んだりする程度であれば、向こう側の空間ともつながっていられるというわけか。
いずれにしても便利な能力を引き継げたのだ。使うに越したことはないだろう。
金成は急に笑みをこみ上げた。
「これなら俺、学校まで1分かけずにいけるんじゃね?寝坊しても楽勝じゃん!」
非常に小さなどうでもいい悩みの解決の種に笑いをこみ上げる瞬間であった。
早速次の日はその能力を使って通学し始めた金成であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます