第67話:転校生

金成はテレポーテーションで通学した。

しかしなんだか卑怯な気がしてきたので、最初の頃だけ使用し、後半はあまり使わなくなった。どうしてもピンチの時だけに使用するに越したことはないと考えたのだ。

何はともあれ今日は転校生が来るということで渋谷から携帯に連絡が入った。

どういった人物なのやら、と思いながらも内心可愛い女の子でも入ってこないかなどとちょっとした期待感を持ち合わせながらも金成は向かうわけである。


教室に入るなり、金成は席に着く。

「金成、武術大会はどうだった?」

「負けたというかなんというか、まああれは引き分けなのかな?」

「お前すげえな、相手はあの王直属の戦士だろ?」

渋谷がテンションを上げる。

「いやまあ、1度や2度の戦いではまぐれ勝ちってのもあるだろう。お互い初戦だったし、それに相手の方が百戦錬磨なわけだしよ。こっちは数多くの技で挑んでも既に手の内がばれているんじゃあ、なかなか相手に2度同じ手は通用しないとは思うぜ」

「そんなことないだろ?お前は色々な技を使うんだ。逆にどんどん他の能力も使えるようになれば、相手は底知れぬ恐怖に逆に怯えちまうんじゃないか?」

「そんな恐怖など微塵も感じないのが王直属の戦士なんだがなぁ・・・」

「全員席に着け!」

先生が入ってきた。隣には転校生と思われる男がいた。

「なんだよ、男か」

金成は期待を外した。

「僕の名は富士と言います。山梨国から此方の東京国に引っ越してきました」

「え?」

クラスがどよどよとした。つまり異国からの転校というわけである。

異国からの移動はパスポートなどを交わし、その人物の素性を調べる必要がある。テロ対策などにも用いられるわけだが、とにかく他国からの移民というのには厳しいものがあるのだ。当然異動してきたものはその環境や文化になれる必要性はある。しかし同じ日本国内である以上は、唯一の救いは「言葉」が共通言語だからである。それでも他の宗教は未だに風習として残っているので、言葉の訛りだとか地域ならではの流行語というものにはどうしても敏感にならなければいけないところである。

しかしそんな固いことは置いといて・・・

「まあ全員仲良くな。それじゃあ授業を始めるぞ」


昼休みのことだった。

「なあ富士」

金成は話しかける。

「ん?」

「そのさ、山梨国ってどんな国なんだ?」

「ああ、俺の国では何といっても日本国最大級の山が聳え立っているんだぜ。国の象徴として観光客も多いんだぜ」

「富士山だよな。俺はてっきり静岡国に富士山があるのかと思ったよ」

「確かに観光での見栄え的には静岡の方がいいかもしれないけどな」

「何か名産地とかあったりするのか?」

「葡萄や梨、桃などの果物が豊富なのと、ミネラルウォーターが新鮮かな。静岡国ならお茶などが有名だろうな」

「やっぱり文化の違いってのを感じるだろうな~」

「そりゃそうだろうよ。宗教の違いはどうしてもあるさ。それに郷土料理なんて『ほうとう』もあるんだぜ」

「うわ~、なんだよそれ、聞いたことないな」

「うまいもんだよ南瓜のほうとうってな」

クラスメイトは富士の転校により、異国の話に興味津々だ。外交を行ってはいるものの、こうして転校することも中々ない例であるからだ。特にこういった魔法や科学を中心とした学校に入学すること自体珍しい話であるからだ。

「富士は何か能力があるのか?」

「能力って・・・スキルのことかい?」

「ああ」

金成は異国の力に興味がある。千葉国との戦いで錬金術や破天流を目の当たりにしたので、実際の処どうなのかが気になって仕方ないのだ。

「俺はこれといった能力はないんだよ」

「そっか」

能力なしでこの学校に入学できるのも妙ではあるが、まあ深くは今は掘る必要はないかと考えるわけである。


この日はそのまま下校した。

金成、富士、渋谷、原宿、池袋の5人で『若人成程』でハンバーガーを食べていた。

「なあ皆に聞きたいことがあるんだ」

富士が最初に口を開く。

「ん?」

「1+1=いくらになると思う?」

よくありがちな質問だが、何を聞きたいのか意図が分からない4人であった。

「そりゃ2だろ?」

「俺もそう思う」

「俺も」

「金成はどう思う?」

「ん?」

金成は考えた。

「2になるとは限らない」

意外な解答だった。

「理由は?」

「常識にとらわれないというか、誰が決めたんだそれ?」

「・・・」

「1+1=2というのが正解なんてことはないだろう。3にもなるし1のままか、もしくは組む相手次第では1以下になることだってあるんだ。数字であればそれは2かもしれないが、もしその1と1が『人』だとしたら信頼関係や人間関係次第では数字は大きく変わるだろう。よって1と1の答えはその人それぞれだ。そこの3人は解答は『2』みたいだが、俺は違うと思う」

「へえ」

富士は金成に感心した。

「そんな難しい話なのか・・・この問題。よく小学生とかでもいきなり突っ込み入れてくるレベルの質問だぜ」

「まあこの解答には正直人の考え方が出てきますからね。何も考えなければ2と解答するし、逆に『なんでそんな質問をするんだ?』と言って質問を質問で返す人もいる。答えなんて人それぞれだと思うよ。正しき、そう、誰に聞いても同じく2なんて答えを求めていたらそれこそ組織としてもまとまりもないし、面白味も無いからね。色々な文化や宗教、血液型や人種がいるからこそこの世界は面白いものだろう」

池袋がブラックコーヒーを飲みながら相変わらずの哲学を物語る。

「いや~ごめんごめん。そんな深堀して聞きたかったわけじゃなかったんだけどね。でも面白い解答だね。国によってはボケ突っ込みが好きな国もあるらしいし、人間らしい性質はどこの国に行っても根本は変わらないと思うんだよね、俺は」

富士は何かを考えているようにも思える。金成は富士に何かあるようにも感じたが、そこは深く考える必要もないだろうと感じた。

「まあせっかく知り合えたんだ。仲良くしようぜ富士」

「ああ、よろしくな」

ここに新たな友情が芽生えたのだ。


1と1を足して2になる。数字であればこれは間違いないが、状況や人によってはこの常識は覆されるということを、普段から考える必要性もあるのではないかと思うのだ。特に学校ではなく、社会においては常に正しきマニュアルは存在しないのだと肝に銘じるべきなのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る