第11話:自持思想論
トボトボと歩いて電車に向かった。
電車というものは嫌いになることが多い。通勤ラッシュは勿論のこと、金成にとって「待つこと」は退屈を促進させる。首都である以上、人はそこに烏合の衆の如く群れを成し、それはある一時の感情に身を委ねるしか術がなかった。
ゴトンゴトンと揺れる。金成は本を読んでいた。
家の屋上から祖父の大事にしていた書物を整理していた時であった。
古びた本ではあったが中は新しく、色々とページが捲られ、それは既に何度も読みつくされたように本の中身に皺が多い。
「自持思想論~2つの世界」自分の持ちうる思想を論じることをテーマにしている。冒頭を金成は黙読した。
「この世には2つの世界がある。一つは見える世界、もう一つは見えない世界である。人間は屡見える世界にばかり着目しがちであるが、最もやっかいなのは見えない世界である。光と影の世界、それらが交じうる時、あなたはどちらかの選択に迫られるであろう。リスクとリターン、果たしてこの世には誰もが望むローリスク・ハイリターンはあるものだろうか。私はそれを探す旅に出かけるとする」
冒頭にはこういった内容が金成の目に映った。世界は2つの視点から物語は創られている。明らかに自分が生きている世界は「光」の方であると悟った。では「影」はどういう世界なんだろうか?
リスクとリターン?そんなものは等価交換ではないのだろうか?
金成の頭の中に疑問が浮かんだのであった。
「俺のスキルマスターは相手からスキルを分けてもらう代わりに相手の望むものを1つ叶えなければいけない。これがリターンに対してのリスクだとすると、これはローリスクなんだろうか?相手の願いがもし自分に叶えることの出来ないものだとしたら、俺はそのスキルを諦めなければいけないのだろうか?」
電車に揺られること1時間、金成はそういうことを考えていた。
もっとスマートな相手から頂けるものなどこの世に存在するか?いやしかし、リターンがデカい分リスクもデカいのは承知の上ではないか、そう感じたのであった。しかしもしこの等価交換が不条理であるのであれば、俺はこの「影」の世界を支配することで、リスクを最小限に、リターンは最大限に稼ぐことが出来るのではないか?と心で思ったのだ。
何にしても、分からない話である。そうこうしている内に学校に着いた。
なんだか久しぶりに行く気がするな。
教室に着くなり、金成は自分の席を探した。窓際の最後尾であった。机は綺麗なまま、掃除当番が気を遣ってくれて机には埃一つなかった。
「よお金成、久しぶりだな」
最初に話しかけてきたのは同じクラスメイトの「足立」であった。
後ろには「荒川」「板橋」「江戸川」「大田」の4人がいた。5人でトランプの大富豪をしていたようだ。
「お前もやるか?」
足立が金成を誘った。
「まあ、まだ時間あるし、1戦やるか」
6人で大富豪を始めた。
ルールは大貧民は大富豪に対して強者のカードを2枚渡さなければいけない。そこからスタートする。
カードをシャッフルする。そして配られる。
金成は配られているカードを見つめながら、考えていた。
「貧富の差、それは決して埋めることができないものであろうものか。もしここで負けようものならば常に大富豪にカードを2枚渡し、ますます不利な状況が生まれよう。いわばトレードオフのきかない人生において果たして革命というものは現実に起きうるものか」
カードが配り終わり、スタートした。
金成は自分の手札を見た。JOKERがある、それにこのゲームで強いとされている「2」と「♠」もある。これは勝てると考えた。
要は最後に手札のカード全てを無くせばいいんだ。最後の方にJOKERと♠上がりで戦略をっと。
他の5人も勢いに負けずとどんどんカードを減らしていく。
終盤に差し掛かる時、そろそろだなと思い、金成は温存していた2を出し、JOKERからの♠で決着をつけようとしていた。しかし江戸川が
「4カード、大革命」
全員唖然とした。
「あちゃー、ここで革命かよ。これじゃあ『3』が強いな。」
「はい、上がり!と」
江戸川が5を出して終了した。つまり彼が大富豪である。
次いで足立が先に上がる。残り4人。金成は考えた。JOKERはあれど、最弱と化した2と♠をどう生かせばいいんだ?
彼が生き残るには「革命返し」が起きなければ再起不可能に近い状況。まさに虎視眈々と迫りつつある中で、極限状態の個の窮地に立たされていたのであった。
結果として金成は大貧民であった。
「くっそ~、あそこで革命はねえわな」
金成はカードを置いた。JOKER、2、♠がみんなに見えた。
「金成、お前の持っている手札がいつまでも強いとは限らないんだぜ?この世の中には必ず相性ってものが存在するんだ。いくら火が人間を焼き殺したり、家を燃やしたりすべてを燃やし尽くしても水は燃やせない。水の前では火は消えるしかないんだ。だからお前がすべきことは2と♠を残すことじゃなくて最悪の状況を考えてJOKERと3と♠を持っておくべきだったな」
江戸川が解説を入れてくれた。最悪の状況か・・・
つまり手札は多ければ多いほど有利になるというわけか。今自分が持っているスキルも相手からいただいた「炎」と「重力」だけ。やはり必要とあらば水や風など色々と持つべきだろうと悟ったのであった。
そうこうしているうちに授業のチャイムが鳴った。みんな席に着き、担任の先生が教室に入ってきた。それと同時に号令が掛ったのだ。
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