第12話:江戸川
担任の先生が最初にこう述べたのだ。
「昨日正午頃、国会議事堂に潜伏していたとする重犯罪人が脱獄したとのことです。皆さんもくれぐれも気を付けてください。周りに警察官は配備しておりますが、細心の注意を払って下校してくださいね」
金成はそのことでふと思い出したのだ。そうだ、自分は昨日脱獄の協力をしたんだった、しかし共犯者が誰かなのかはばれてないようだなと感じたのだ。
「では出席を取りますよ」
だが、実際話を聞く限りではそんな悪い人物のようにも思えなかった。やはりこの国は何かとおかしい。何か裏事情があるのではないかと考えてしまうのだ。
それにしても江戸川の勝ち方といい、何か腑に落ちないものがあるな。
金成は次の休み時間に江戸川を呼び出そうと考えた。
「江戸川。ちょっといいか?」
「なんだい?金成」
男子トイレに二人きり、個室にも誰もいないのは既に確認済みだ。
「お前、どうやって革命を起こしたんだ?」
「ん?」
「いや、さっきの大富豪だよ」
「ああ、あれはたまたまさ」
「たまたまにしては6人で対戦して1人に4枚同じカードが揃うというのは明らかに出来過ぎていないだろうか?」
「何が言いたいんだ?」
「お前、何かスキルを持っているんじゃないか?」
江戸川がピクっとした。微笑し
「金成、相変わらずお前は目利きがいいな。なぜそんなことが分かったんだ」
「なんとなくだ」
「なんとなくかよ!」
思わず江戸川は突っ込んだ。
「なんとなくって、じゃあ俺のスキルには別に気づいたわけでもないんだな」
「何か如何様でもやったのか?」
「まあ如何様って程じゃないんだけどな。ちょっとしたトリックさ」
「どんなトリックだ?」
江戸川はズボンの右ポケットから10円玉を取り出した。
それをおもむろに宙に浮かせ、コインを両腕でサッと取り、拳に隠した。
「今俺が10円玉を持っている手はどっちだ?」
金成は反射神経がいい。左手で取ったのは明白であった。
「左だ」
江戸川は左手を開けた。中身は空っぽだった。
「残念、外れだ」
「くそ、じゃあ右だ」
江戸川は右手を開けた。しかし此方も中身は空っぽである。
「え?10円玉どこいったんだ?」
「俺の左胸のポケットだよ」
江戸川はそういうと右手で左胸のポケットに突っ込み、それを取る。すると10円玉が出てきた。
「なんでだ?いつの間にそこに入ったんだ?」
「ん?俺は最初から10円玉なんて宙に飛ばしてないぜ?」
「どういうことだ?」
右手に持っていた10円玉がいきなり手のひらの中から溢れてきた。
「わわわ、なんだこれ?」
すると右手から10円玉が落下した。しかし音は何もせず、地面に着くと消えていった。
「なぜ音が鳴らない?」
「俺のスキルはマジカルトリック。実物のないモノを作り出すことができる。溢れてはいるがこのように実物がない。だから落ちた時に音は出ないんだ。創り出して消すのも自由自在。しかしこの10円玉のように強い衝撃を与えてしまうとトリックは消えてしまうんだ」
「それでどうやって革命を起こしたってんだ?」
「気づかなかったか?あれは俺が用意したトランプ。元々ある数字のカード4枚だけ事前に抜き取っておいた。その4枚のカードを自分の手元でリリースして4枚同種のカードを創り出したというわけだ。まあ別にただの遊びなんだから詐欺にはならねえだろ?」
「確かにな、それならあの状態で勝負しても絶対に負けることはないな」
「まあ他にもトリックアートは色々と出来るんだが、それ以外大したことはできないんだよなあ」
「例えばだけど、その能力で自分の実物コピーは創れたりするのか?」
「可能だぜ」
江戸川はすぐ真横に自分の実物そっくりのコピーを創った。
「ただこれは俺の手元から離れると、このように形は固定してしまう」
静止した江戸川もどきがそこには立っていた。
金成が軽く触ってみた。
江戸川もどきの体を腕がすり抜けた。しかし消えない。
「優しく触れれば実体はまだ残る。衝撃を与えなければな」
「この能力いいな。俺に分けてくれないか?」
「どういうこと?」
「俺の能力はスキルマスター。相手の能力を分けてもらい、自分でも扱えるように出来るんだ。」
「へえ、すごい便利じゃん。じゃあ100種類ぐらいスキル使えたりするの?本来人は1つか2つまでしかスキルは使えないはずなんだけど」
「まあ上限は分からないが、たぶんそれぐらいは使えるんじゃね?俺の器量次第だと思うが」
「どうやったら金成も使えるようになるんだ?」
「お前の望むものを俺が一つ叶えて、能力を渡すことを承諾して握手してくれりゃ交渉成立だ」
「俺の望みか~、ねえけどなそんなもん」
「そうか、でも何か叶えねえとな」
「なら、俺に今まで貰ってきた能力見してくれ」
「ああ、お安い御用だ。2つしかまだないがいいか?」
「なんだまだ2つなのか」
「このスキルマスター、便利なんだけど、序盤何の能力も使えないし、強力なスキルがないから、強い相手と戦う時など、俺は丸腰で挑まなければいけないのが不利なんだ。今は2人協力者がいるんだけどな」
「そっか、まあ2つでいいや。見してくれ」
「いくぜ。まずは炎のスキルを見してやるよ」
ライターをポケットから取り出し、着火。それをスキルで操る。
「おお~、かっこいい」
「どうだ?」
「なあ俺にもライター貸してくれ」
「ん?ああ、いいが」
江戸川はライターで火をつけた。すると江戸川も炎を自在に操りだした。
「え?何でお前も炎操れるの?」
「くくくくく、よく見てみろよ」
笑いながら金成の顔面目掛けて炎の渦を飛ばした。金成は腕でガードするが、熱くない。
「これは俺のマジカルトリックで創り出した、いわば嘘の炎だよ。マジックさ」
「なんだビックリした」
「でもよ、この俺のマジカルトリックで偽の炎を出したり、お前のその炎のスキルで実物の炎操ったりしたら、敵相手だと見分けつかなくね?」
金成は閃いた。
「そうそう、それ!そういうのあるとかなり便利だよな」
「へへへ、じゃあ最後にもう一つの能力も見してくれよ」
「ああ、いいぜ」
金成は江戸川に右掌を向けた。
「?」
江戸川は思わずキョトンとしてしまったが、次の瞬間
「うお、なんだこれ」
突然江戸川の両肩に物凄い重力を感じた。まるで巨漢の人間をおんぶしているかのように、ずっしりときた。
「これがグラヴィティ、重力のスキルさ。相手の動きを拘束する。勿論重力支配を可能としているから、俺の投げた石は隕石のように強固な武器になるぜ」
「やっぱお前はすげえな。既に2つのスキル持っているけど、どれも強そうだな。これなら王の護衛を務める十戒にも入れるんじゃね?」
「ああ、十戒か。まあ興味はねえが、戦ってみたい気もするな」
「まああいつらつええからな、1つのスキルと言っても金成とは別の意味でマスターしてやがるからよ」
「俺は質より量で攻めるぜ。勿論最終的には質にも拘るがな」
「まあ俺のマジカルトリックでも使って、嘘と本当で塗り固めてくれや」
「交渉成立な」
お互いに握手を交わした。金成は3つ目のスキル「マジカルトリック」を手に入れた。
その時丁度授業の鐘が鳴った。
「教室に戻るか」
「ああ、次は体育だからな」
2人は教室に戻っていった。
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