第13話:試合
金成は体操服に着替え、運動場に移動した。
そこには26人のクラスメイトが一堂に揃った。東高校学年1組男子18人、女子8人からなるクラスであった。
女子は女性教師に連なり、そのまま体育館へと移動した。種目はバレーをするそうだ。男子は18人、各9人ごとに分かれ、サッカーの試合形式でやることになった。
Aチーム:金成、渋谷、原宿、池袋、足立、荒川、板橋、江戸川、大田
Bチーム:葛飾、北、江東、品川、新宿、杉並、墨田、世田谷、台東
サッカーのルールの基本として足のみでボールを蹴り、相手側のゴールに決めるだけ。手を使用したり、相手を暴行したりしてプレイの邪魔をしてはいけない。
ただしスキルを使用して相手の動きを封じたりすることは可能ということだ。
ただのゲームなはずが、いつもこのサッカーの試合には全員命懸けで挑むかのような熱意と殺気が湧きたっている。審判である教師もまた、目を離すことが出来ない試合というわけである。
試合開始
全員が能力者、というわけではない。しかしごく一部、その能力を試合中に発揮してくるのだ。
足立が序盤攻める。次いで荒川、大田、板橋、江戸川の5人フォーメーション。
一気に相手ゴール近くまで迫る。板橋がシュートを決めた。
しかし世田谷によってそれは阻まれる。Bチームの攻撃は杉並、墨田、新宿が交互にボールパスを交わし、そして攻め立ててくる。だが、合間を金成の身体能力によって即座にボールを奪うことが出来た。3人避けるのに訳は無かった。しかし一人やっかいな男がいる。
葛飾であった。
「金成、俺の横を摺り抜けてみろよ」
「上等だ」
金成はフェイントを入れつつ、葛飾の横を摺り抜けようとした。
葛飾は邪魔はしなかった。しかし余裕の微笑みを一瞬金成に見せたことを、金成は見逃さなかった。
葛飾は右親指と中指を重ね、そのままスライドさせて「パチン」と音を鳴らした。
「トレース」
金成は突如、右足で蹴っていたはずのボールを失った。
気づいた時には既に葛飾の足元に置いてある。
「ちっ、それがお前の能力なわけね」
「俺のスキルの前ではお前の速度も無力」
葛飾は品川にパスをした。
「まあ、でもゴールはやらねえよ」
金成も踵を返す。
「さあ、全員視界を奪わせてもらうぜ。ナイトメア」
原宿が辺り一面を闇で覆った。これには誰がどこにいるのか分からない。勿論原宿本人にも視覚を奪われているので、分からないが触覚で正確な位置は把握出来ている。
一度Aチームが原宿の出したナイトメアの中に集う。そしてナイトメアを解除した。
「ああん?」
Aチーム全員頭の上にボールを乗せていた。
「ボールが9個?」
「俺のマジカルトリックを使えばボールの増殖など容易い。」
江戸川の能力が発動した。これではどれが本物か分からない。
「野郎、舐めやがって」
葛飾が1人1人と場所を入れ替え、ボールを奪う。
「奴のトリックは確か衝撃を与えれば消えるはずだ」
ボールに衝撃を与えた。ボールは消えた。
「これもハズレか」
5人分入れ替えたが、ボールは全て消えた。
「怪しいのはやはり金成の頭の上のボールか?しかし距離がもはや届かないな」
金成は相手陣地に入り、ゴールを目指していた。
品川が突如、金成の足元から飛び出してきた。
「うお、なんだこれ」
「俺のスキル『スイミング』を使えば土だろうが何だろうが泳ぎ切れる」
品川は金成の頭のボールを蹴り落した。消えなかった。
「やはりあいつが本命を持ってたわけね」
バレた以上はトリックは無意味。江戸川はトリックを解除した。
新宿がボールを奪う。しかし金成は新宿に向けて右掌を翳した。
「グラヴィティ」突如、その場にいた3名が身動きが取れなくなった。
足立がボールを奪い、そのまま世田谷の待つゴールへと向かった。
世田谷は構えた。ゴールを死守する守護神と化した。
しかしいつの間にか背後に池袋が立っていた。
「お前はこの札を付けた3秒後に土下座をしたくなる」
後ろを振り返ると池袋が札を見せていた。その瞬間世田谷の額に札をペタッと貼り付けた。
「な、なんだこりゃあ」
世田谷は土下座し始めた。
「おい世田谷、何やってんだ」
葛飾が走って向かっていった。
「ゴールは貰ったぜ」
足立がシュートした。
その瞬間、葛飾が右手と中指を合わせ、パチンと音を鳴らした。世田谷と葛飾は場所が入れ替わった。
「トレード」
そのまま飛んでくるボールをヘディングで弾き飛ばした。
「くっそ~、惜しいな」
「そう簡単にゴールはやらんぜ」
「どうかな?」
金成がその飛ばされたボールのところに瞬時に移動し、ボールを取った。
「くそ、俺のトレードは一度発動すると、10秒間は使えん」
葛飾は構えた。金成は呟いた。
「トリックボール」
ボールを蹴る瞬間、サッカーボールに江戸川から分けてもらったスキル「マジカルトリック」を唱えた。
サッカーボールは5個に分裂し、そのままゴールへと向かった。
「おいおいどれが本物のボールだ」
葛飾目掛けて飛んできたボールはダミーであった。その瞬間、葛飾の横を摺り抜け、ボールはゴールした。
葛飾は思わず冷や汗をかいた。
「どうだ?お前の横を摺り抜けてやったぜ?俺の勝ち」
ワアアアと歓声が起こる。まるでサッカーの公式試合のようであった。
審判の先生は溜息をついていた。
「相変わらずこいつらの試合はもはやサッカーなのかどうかわからん」
あっという間に40分という時間は過ぎていた。
「くっそ~、お前も江戸川の能力使えるようになってたんかよ!やられたぜちくしょう」
「まあそういう能力だからな。それより望み一つ叶えるからお前の能力トレードも分けてくれよ」
「ああ?そう簡単に渡すかよ」
「何でも言ってくれりゃ、叶えてやるぜ」
「ああ、そうかい。なら俺とバンドを組め」
こうして昼の休み時間になったのであった。
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