第10話:家族

金成、渋谷、原宿、池袋、武藤の5人は原宿の持つ地図を元に再度来た道を通り、無事国会議事堂前に脱出した。近くには傭兵もAI知能ロボも誰もいない。今のうちだと考え、5人は一斉にその場を離れた。

時は既に朝10時頃、太陽は真上に差し掛かろうとするところまで昇っていた。

「太陽を拝むなんて何年ぶりだ」

そう武藤は呟いた。4人は微笑んだ。

「金成さん、あんたのことはずっとテレビで見ておくよ。いつかあんたがニュース番組に出てくるところをな」

「ああ、しっかりと見ていてくれ。それよりもあんたはこれからどこに行くんだ?どこか行く当てでもあんのか?」

髪を搔きむしりながら武藤は答えた。

「そうだな、まあ覚えちゃいねえかもしれねえが。家族の元へ帰ってみるさ。俺は重罪人かもしれないが、最後に頼れるのは家族だけだからな。もう会ってはくれねえかもしれない小さな希望だども、俺にはそこ以外に帰るところはねえんだからよ」

「そっか、じゃあ元気でな」

「ああ、ありがとな」

こうして4人と武藤は別れた。そして4人も歩き出し、それぞれの家へ帰ろうとした。

「なかなかな冒険だったな。しかし脱獄したってこと、すぐにばれたりしねえだろうか?そしたら俺たちってお尋ね者か?」

渋谷が自分を指さしながら3人に聞いた。

「それはないだろう。確かにニュースにはなるが、俺たちのことはばれないんじゃないのか?なぜなら屋敷にはカメラなど設置されていなかったし、秘密通路を通ってきたんだから気づかれないとは思う」

「なら安心したぜ。明日から学校に行けなくなるかもしれねえと思ったからな」

渋谷がホッと胸を撫で下した。

「学校か、そういやつまんねえって言ってから行ってないな」

金成がボソッと呟いた。

「金成、お前も久々に来いよな。一緒にサッカーでもしようぜ」

「まあ考えておくよ」

そういって3人に手を振り、帰路に着いた。


家の扉は開いている。中に入り、自分の部屋でそのまま倒れ込んだ。

金成は暇さえあればよく眠るタイプの人間だ。酷い時には昼夜逆転も儘ならない。一日中ゲームをしては寝て、お菓子を貪りつく。そんな普段どこにでもいる普通の学生よりちょっと変わっている彼が果たして日本を統べることが出来るのか、この時は誰にも理解し難いものがその行動と態度から見て取れる。


金成はそのまま眠りについた。太陽は既に真上にあり、午後を迎えた。


「金成!ごはんよ!」

階段の壁をドンドンと叩く母親がいる。金成は目を覚ましたが、動かない。動きたくない、そんな反乱分子が彼の頭を過る。

「金成!」

ドンドンドンドン。壁の音が一層五月蠅い。金成は枕に顔を蹲り、体を丸めている。携帯を取り出した。既に夜7時を回っていた。

「なんだ俺はこんなにも眠っていたのか」

ポチポチと携帯を触っていたら、いきなり母親から着信がある。

携帯を取り出し触っていたので、ワンコール以内に出ることが可能であった。しかし出たくないはずの彼が無意識に出てしまったのは、この着信はおそらく10秒以上鳴ることを彼は知っていたからだ。だから耳障りなこの着信音を早く切らねばいけないと考え、ワンコール以内に出た。

「なんだよ、うるせえな」

金成はキレていた。しかし母親はもっとキレていた。

「ごはん!!早く降りてきなさい」

「うるせえババア」

「なんだと!!?」


ブチッ


携帯を切った。

溜息をつきながら渋々とベッドから起き上がり、部屋のドアを開けた。

そして階段をゆっくり降りていき、リビングルームへと向かった。

母親はキッチンで忙しそうにしている。降りてきたタイミングを見計らい、味噌汁の準備をしているようだ。

今日のメニューは好物のハンバーグにブロッコリーマヨネーズ付け、ミニトマト、鶏肉と蓮根と椎茸に佃煮、鹿尾菜、南瓜の煮付、味噌汁、ポテトサラダ、納豆、白ご飯であった。

いただきますを言わずにそのまま黙々と食べていた。テレビを見ながら食べていると母親が

「そういえば金成、あんた学校またサボったんだって?先生から電話あったんだけど、学校だってタダじゃないんよ。しっかりいって勉強していい大学行かなきゃいいとこに就職できないよ」

「うるせえな、学校とか行っても退屈なんだよ授業が。言ってること理解できねえし、何より学校で学んだことなんて社会で通用すんのかよ」

金成は母親相手にはやや反抗気味である。

「まあそうだけど、それでも優秀な成績を残しておくに越したことはないよ。しっかり勉強しないと後で後悔するんは自分よ」

「ああもうわかってるからその話はすんな」

金成は親から学校のことや勉強のことについて聞かれるのが嫌いであった。だから常にこの話をすると金成は早く話を終わらせたくなる。


ドス、ドス、ドス、ドス。


父親が帰ってきた。

「ただいまー」

「おかえりー」

父親と母親は仲良しだ。俗に言う円満夫婦という奴である。

「おお金成、ドヤ最近は?学校でも成績一番か?」

「うるせえ、一番じゃねえよ」

「お前程の奴が一番ならんでどないする。しっかり今のうちに勉強しろよ。でないと将来自分が苦労するんやぞ」

(もうこの話はさっき聞いたし、なんかもう毎日聞いてる気がする)

金成は何も言わず、心の中でそう思った。


楽あれば苦あり、苦あれば楽あり。


父親の名言はいつも決まってこれである。

「んじゃあ飯食ったし、風呂行ってくるわ」

「はーい、着替えそこに置いてあるから」

ソファーの上に置いてある自分のパジャマを手に、そのまま1階の風呂場へと向かった。

金成の家は4階建て。1階に風呂と父親の寝室があり、母親の薬の商品が棚に陳列されている。

2階に洗面台やキッチン、寛ぐスペースの炬燵などが置いてあり、また母親の服などを収納するスペースが畳張りで置いてある。

3階に金成の部屋があり、各階ごとにそれぞれトイレも用意してある。3階にはシャワールームもあるが、誰も使用しないとのことからそこには服とか壊れた掃除機などが置いてある。埃が被っても誰も気にはしなかった。

仏壇が置いてあり、金成はあまりに宗教には無頓着であった。

4階は倉庫となってある。祖父の遺物などが置いてあったりするが、あまり立ち寄ったりはしなかった。4階は天井のようなもので、窓も取り付けられていない。屋上に出ると海を見渡す景色がそこにはある。

金成の家は海沿いにあったから、割かし波の音など就寝中にも聴こえることが屡あったのだ。


金成は考えた。

「まあとりあえず、明日久々に学校にでも行ってみるか」

そう考え、部屋の電気を消し、またそのまま眠りについた。

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