第9話:池袋
「何者だお前は」
白髪男が振り向いた時に、メガネを右手で持ち上げながら呟く一人の男。
「俺に危害を加える行為をすれば、お前の体は電気で痺れ動けなくなる」
そう言いながら、先程述べた言葉が記されている札を男に見せた。そしてそれを瞬く間に男の体に付けた。
「なんだこれは?外せねえ」
男はすぐさま取り外そうとした。しかし取り外すことが出来ない。
特殊な魔力でそうなっているようだ。続けて言う。
「俺は池袋。この札は俺の魔力『ジャッジメント』お前は今、俺の能力により一部行動に制限が入った。俺の述べた判定以外の行動を取ると、裁きが下る」
「ほお、どんな裁きだってんだよ」
右手を池袋に翳し、スキル「グラヴィティ」を発動・・・しようとした時。
男の全身に電流が走り、呻き声と共に男は地に平伏した。ゴロゴロと転がる処を池袋は上から見下し、その光景をメガネを光らせながら見物していた。
それと同時に金成、渋谷、原宿にかけらていた重力が解除され、身動きがようやく取れるようになったのだ。
「全くお前か池袋。ひやひやしたぜ」
原宿が胸を撫で下す。
「ああ、お前達3人がやれているところを見ていてこのタイミングだと思い、助太刀した」
「てめえ、もっと早く助けにこいや。マジで死ぬとこだったわ」
渋谷が蹴りを入れようとするが、池袋はそれを避ける。
「まあなんにしても助かったぜ、ありがとな池袋」
金成が感謝の言葉を池袋に述べた。池袋は頭を掻きながら「どういたしまして」という態度であった。
「さてと、このおっさん。何でこんなにつええのに50年もずっとここにいたんだ」
「うむ、それは彼の望みにあるんじゃないのか」
池袋が新聞を拡げた。
「これは国会議事堂の書物の中から発見した。当時50年前に虐殺を繰り広げたことにより現行犯逮捕。派手に暴れまわったらしいな。一体お前はなぜこんなことをしたんだ?」
白髪の男は痺れが少し和らいだ。そして座り込むように呟いた。
「俺はこの世界に絶望したんだ。そう、国境が出来てから故郷に帰ることが出来ないんだ。俺は元々『愛知国』の出身者らしく、父親が東京国に移住したんだ。しかし外交からの手続きから免税など、とにかく税金での負担が大きい。俺の家庭は昔貧乏でよ、そんな大金は払えなかった。政府は何もしてくれない。俺はこのままじゃのたれ死ぬかと思ったんだ」
4人は黙って男の話を聞いていた。
「しかし一人とんでもねえ政治家が現れたんだ。名前は太郎って言ったかな。あいつはこの不均衡な世の中を変えるために大きなウネリを持って政治に挑んだんだ。福祉撤廃と生活保護の廃止を強く言ってはいたが、本音は誰もが平等に挑戦出来る社会進出、男女雇用機会均等などを求めていた。だが、左翼連中ときたら税負担を国民に押し付けることを躊躇うことが出来ず、何とか太郎の出馬を棄却させようと考えた。その時に思いついたのが裏社会を利用した『裏政府』の連中だ」
金成が口を挟んだ。
「しかしよ、出馬を棄却させるにしてもそういう連中が来ることはその太郎って奴も分かっていたことだろ?なぜプロの護衛を雇わなかったんだ?」
「雇ったさ。だが奴らが一枚上手だったんだ。奴らは裏取引にもよく仲介させられる『忍集団』を雇った。隠密、暗殺は奴ら手練れが数段上。太郎の娘が人質に取られ、出馬棄却を余儀なくされたんだ。全て裏金ルートによって横流しされた左翼側の陰謀だ」
唇を噛みしめ、男は口から血を垂らした。男の無念さが4人に伝わってくる。
「その後、太郎は自殺したんだ。奴は俺の親友だった。くだらない話をよくしていた。俺が王になったら、税金を巻き上げても国民一人一人に分配する。無駄に多い福祉や公共施設は使わせない。そして生活保護の不正受給をさせない。横領や着服はさせない。若者に未来ある世界の実現などと言っていた。しかしその夢は潰えた。初めから無理だったのかもしれない。娘のことを思って、この世を去った。」
男は拳を強く握りしめ、地面を叩きつけた。
「だから俺はあいつ等政府を許せなかった。俺の魔力グラヴィティは相手の動きを抑えることが出来る。何人たりとも俺を止めることは出来なかったんだ。だから俺はここ国会議事堂を攻め入った。しかし警察隊を止めるも機動隊を止めるも、俺には問題なかった。しかし問題があった。王率いる護衛戦士達だった。奴らは強すぎる。奴らの魔力の前では俺は無力だった。」
「そんなに強いのか?秋葉王と護衛戦士というのは?」
金成が疑問を男にぶつけた。
「当時は秋葉王ではないがな。秋葉王の父、天野王だ。奴の魔力は甚大な力を誇っていた。止めれるやつなんかいねえ。王直属の十戒、奴ら護衛戦士10人は特につええな。ランクで言えば文句なしのAランクかBランクだろうな。俺なんてせいぜいDランクかEランクがいいものよ」
「なんだそのAランクとかって?」
渋谷が疑問そうにぶつけた。
「知らねえのか、まあだいたい強さを表すランクとでも言っておくか。正直まあ、俺は学者じゃねえから詳しくねえが、だいたいのスキルに見合った強さを表すんだ。一番はSSランク。この世界には10人ぐらいしかいないそうだぜ。」
「なるほどな、あんたぐらいの強さでもDランクなのかよ」
金成が疑問に思った。
「まあお前さんもなかなかの腕してんな。スキル次第じゃCランクぐらいはいけるんじゃねえのかい?」
男が金成の顔を見ながらそう言った。
「ああ、だがまだ無理だな。俺の能力は『スキルマスター』あんたみたいな強い奴から能力を分けてもらえない限りは、強くならねえよ」
「でもよ、お前さんさっき炎を使ってなかったかい。そこの坊主と一緒によ」
「ああ、そいつはこいつから能力を分けてもらったんだ。なあおっさん、よかったらあんたの能力を俺にも少し分けてくれないか。あんたの望みを一つ叶えるからよ」
頭を掻きながら白髪男は言った。
「お前さん、俺の望みなんかかなえられるのかよ?」
「ああ、その代り能力を分けてもらうぜ」
「ふん、構わねえぜ。そうだな俺の望みは太郎の言っていた平等な世界の実現、とでも言っておこうか。あんたにそれは出来るのかい?」
「ああ、俺が王討伐を成し得て国を統べることが出来ればやってみよう。俺自身王には興味ねえが、この日本国を統べることには多少の興味がある。王を討伐したときにはそういった世界の実現を果たして見せよう」
「約束だぜ。まあそれは俺の願望だが、今すぐやってほしい願いてのもある。さっきのは長い目で見てやってもらっていい。俺が生きている間じゃなくてもいいぜ、なんせ王はつええと思うからな」
「分かった。なら今すぐしてほしい願いは何だ?」
「俺をここから連れて行ってくれ。国会議事堂と言えど、なかなか鉄壁な牢屋でな。格子は砕けても奴らAI知能ロボ達の攻略は困難だ。すぐ留置所行きになっちまうんだ。てかお前さんらどうやってここ来たんだ?結局王の兵隊じゃないんだろ?」
「ああ、俺のじいちゃんの秘密通路を使ってきたんだぜ」
渋谷が地図を指さした。
「へえ、そんな通路があったなんざ、知らなかったな」
「まあいい。あんたをここから脱獄させるよ。俺があんたの言う世界を実現してみせる、それまでは悪いことはもうするなよ」
「ああ、わりいな。若いのに、こんな老いぼれなんかをな」
「そろそろ効力が切れるな」
池袋が呟く。
「俺のジャッジメントは15分間俺の言いなりに出来る、札は1人1枚まで。連続では使えないのが難点だ」
白髪男の服についていた札が消えた。
「あんたらすまねえことしたな。てっきりさっきの王の兵たちみたいに俺をあざ笑いに来たのかと勘違いしたよ」
「いいってもんだよ。俺たちもてっきり魔物がいるものと思ってきたんだからさ」
「それはそうとさっさと抜け出そうぜ」
渋谷が先陣を切る。
「久々に外に出れるな。どんな世界に変わっちまったんだろうか。この世の中は」
白髪男は目をつむりながら、少し微笑んだ。金成はその表情を見て、質問を投げかけた。
「俺は金成っていうんだ。あんた名前は?」
「俺か、俺は武藤。名前など何年振りに聞かれたことか」
「そうか、よろしくな」
金成は武藤と握手をした。そして5人で国会議事堂を脱出し、金成は武藤との約束を果たし、武藤のスキル「グラヴィティ」を手に入れた。
そしてもう一つの約束、この世の中を変えるということを目標に、王討伐への準備段階を進めていったのであった。
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