第8話:武藤
「誰だ、俺を笑いに来たのは」
ドスのきいた低い音を醸し出す声で3人に放たれた。
「あれ、魔物ていうか人間じゃねこれ?」
金成は唖然とした。
「てっきり魔物ていうから異世界人か何かかと思ったけど、意外だな~」
金成がキョトンとした。
「さっきの王護衛の2人組といい、貴様らといい。そんなに犯罪人が檻の中にいるのが珍しいか?」
「いや珍しいっていうかさ、あんた能力者だろ?なんでも相手の動きを止めることができるんだって?」
金成が男に質問した。
「それがどうした?」
男は金成に質問を質問で返す。
「ならあんたの望みを叶えてやるから、ちょっとその能力わけてくれねえ?」
「意味が分からねえな、俺が誰だかわかっているのか?」
「A級犯罪者だろ?確か20人はやったんだっけ?」
「30人だ。33人に増やしてやろうか?」
突然空気が重くなり、牢屋の中から物凄い強烈な覇気が漂いだした。地鳴りが激しく、建物に罅が入るくらいのオーラが放たれている。
「ぐおおおおおおおお」
「来るぞ金成、気を付けろよ」
牢屋の鉄格子が男の蹴りで折れ曲がり、その風圧で3人が少し押された。
出てきた男は長髪白髪で髭が長く白い、そして茶色のボロを着た状態であった。顔には皺がひどく、既に70は超えている状態であった。
「お前たちは俺に近づくこともできねえ。」
「あっそ」
金成は簡単に移動し、あっという間に男との間合いを詰め、一気に拳を顎に突き出す。男はそれを食らうが、あまりダメージがない模様。
一瞬金成の拳が重く感じた。それと同時に殴るスピードが格段と落ち、ダメージは最小限に留まったのだ。
「今一瞬重力を感じたがこれは・・・?」
金成がそう疑問に思っている間に、男が今度は間合いを詰めて金成を蹴り飛ばした。そのまま吹き飛ばされるが、原宿が金成を受け止める。
「いてえ、爺の癖に中々元気だな」
金成はなぜか戦闘を楽しんでいた。初めて戦う相手、しかも相手が殺人鬼であろうと格上の相手であろうと自信に満ち溢れていた。金成もまた戦闘狂なのかもしれない。彼は向かうことに些かの躊躇も無かったのだ。
渋谷がライターで火を出し、着火させた。
「てめえを丸焦げにしてやるよ」
渋谷のスキル「ファイヤー・フレイム」が発動し、炎の渦を描きながら男に勢いよく向かっていった。
しかし男は手のひらを3人に向け
「ふん、小僧共が」
突然炎の渦が地面へと吸い寄せられ、そのまま下に叩きつけられ、地面を燃やした。男まで届くのにあと3mは間合いが必要だ。
「なんだ?突然俺の炎が下に行ったぞ。どういうことだ。奴も炎操作系能力者なのか?」
「いや違う、奴は相手の動きを止める力を持ってるんだろ?だとしたら人だけでなくモノや魔法までも止めることが出来るんじゃないのか?」
炎が勢いよく消えた。それと同時に男は今度は両手を3人に見せ、眉間に皺を寄せた。
「もう逃げられねえぞ小僧共」
突然、3人に100㎏以上の重力が課せられた。身動きが取れない。
「これがお前の能力か・・・、確かに動けねえな。重すぎて」
金成は膝をつきながらそう言った。
「俺の能力はグラヴィティ。一定空間の重力を支配する。たとえ火だろうが水だろうが銃だろうが、俺の支配する重力の前では全て地に伏せるだけだ」
3人は身動きが取れない状態だ。かろうじて微動だに出来るのは金成ぐらいか。
「なかなかやるな小僧、その身のこなしからしても只者ではないな。だがこれはどうだ」
地面に落ちている小石を右手で持ち、空高く投げた。それに向け、重力をかけて金成の真上に落とす。
ギリギリでかわして頭上への落下は避けれたが、左手の甲に当たる。小石は砕けたが、同時に左手の甲から血が流れた。
「なんだこれ、まるで隕石みたいに衝撃つええぞ」
金成は左目を瞑りながら、冷や汗を少しかいた。
「当たり前だ、俺の支配する重力は力学的エネルギーが働きかけ、その力は通常の何倍もの威力を発揮する。たとえ小石だろうが隕石の力と同等する程の威力を出すことも出来る」
「隕石ねえ、笑わせてくれるぜ」
「ほう、まだ無駄口叩く余裕があるそうだな小僧。なら次はこれはどうだ」
破損した鉄格子を持ち、先の尖った棒を上空に向けて男は投げる構えをした。
「おいあれはやべえぞ金成」
渋谷が叫んだ。
「くそ、動けねえ」
「さらばだ、小僧」
その時男の頭に小石がぶつかった。
コツン
鈍い音が鳴った。男の動きが止まった。
小石が落ち、鋭い音と同時に男の後方から足音が聞こえてきた。
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