第7話:原宿
ピチャピチャ
地下通路を歩く度に地上から滴り落ちてくる水の音が一行の足音と共に奏でる。火元を手に灯しながら金成が先頭を歩き、渋谷が次いで2番目、3番目に原宿が地図を持ち道を確認し、最後尾に池袋が周囲をキョロキョロしながら歩いている。
「さすがに50年以上も前の地下通路だと歩きにくいといえば歩きにくいが、意外とそんなに荒れ果てた通路というわけでもないな。整備はされていなくとも、道としてはすんなりとしているし、問題はこの先に果たして魔物がいるかだな」
金成が真っ直ぐ歩きながら話をしているうちに他の3人も緊張が少し解れたのか
「まあなんにしても無理だけはしないことだな。この地下通路によると奥の通路を真っ直ぐに進むが突き当り2つの通路に分かれそこを左手に曲がり、階段を登り奥通路4番目の牢にいるということだ。」
原宿が指で現在自分達のいるであろう通路を指でなぞりながら目的のところへ指した。
「なんか意外と簡素化している隠し通路って感じだな」
渋谷が余裕そうな感じで物申す。
「そうでもないさ、簡潔に見えて意外とくねくねした道だぜ。それにもし既に人の手によって触られていたら通路を塞がれているという可能性だってあるんだ」
原宿は再度警戒したように周囲に気を配った。
「まあなんにしてもこの通路の奥にいる魔物と戦ってスキルを身につけねばならないというわけか。まあ出来る限り交換条件を交わしての交渉をしなければなかなか意味はないけどな」
しばらくの間歩いていく。
歩くこと30分、不気味なぐらい何もなかった。
強いて言うならば「キナ臭い」埃の臭いが4人の嗅覚を鈍らせた。途中池袋が咳き込むぐらいで後は何事もなく、一行は目的の場所へと進んでいた。
階段を登り終えたところで天井の蓋をずらし、国会議事堂に潜入した。
中は蛻の空であった。しかし議員席など壊れたところが数か所あり、かつての王の大きな顔写真を貼った壁紙は顔半分破れた状態で色も日に焼けた状態で橙色と茶褐色に交じった色に変わっていた。
「ここが当時政治とカネと言われた舞台か。今は国王が城に移転しちまったが、東京国の中心とも言われた当時の議院か」
「ほんと昔ここで何があったんだろうな」
奥の通路4番目の牢を目指して進む。太陽が昇り始め、議事堂の中も自然と明るくはなってくる。しかしそれでも目指す牢は幽閉されたところに位置するため、光が遮られてくる。自然とまた地下を歩いていた通路のような暗い道に差し掛かった。
その時であった。奥から声がする。
「隠れろ」
金成が咄嗟に指示した。こっちに人が来る。
「全員俺の近くに寄れ。身を隠す」
原宿が3人を囲むようにして手を拡げ
「ナイトメア」
そう唱えた。
辺りに黒い煙のような靄が発生し、4人の姿を包んだ。まさに闇に乗じている状態だ。これでは姿は視認することは困難であった。
「全く国王陛下も困ったものだね。今度の事件をあいつが脱走したことにして犯人としての濡れ衣を着せようなどとお考えとは」
「しかし奴はなぜ50年間もずっとこの牢にいるんですかね?」
「さあてね、罪滅ぼしかなんかじゃないのか」
2人の男が歩いて議員席に向かっていく。そのまま2人は姿を消した。
「なんだ今の話?脱走させる気でいたのかあいつら」
渋谷が疑問な表情でいる。金成はそれより感心していたのは原宿のスキルだ。
「ああ、俺のナイトメアは闇に乗じることが出来る能力だ。周りが薄暗いとさらに闇が濃くなり、さっきみたいに姿すら認識することは難しい。戦いに於いて煙幕のような役割を果たすことが出来るんだぜ。ただこれには欠点があってな。範囲が広いと俺にも相手を視認することができない。ただ黒い靄は自分自身の体の一部みたいになるから、相手の居場所は特定することは可能だから不意打ちなんかには持って来いだぜ」
「便利そうだな、なあ原宿。今度飯奢るからこのスキルを俺にも分け与えてくれ」
「え~、飯奢ったくらいで俺の一生もののスキルをよこせってか。安く見てくれるなあお前」
「まあそういうなって、分かったよ。今度何か望むことがあれば教えてくれ」
「そうこなくちゃな、金成にはいいことしてもらわないとな」
「さて2人ともいいかな?それより奥に行ってみよう。奴はもう近くにいるはずだ」
2人の話を遮るように池袋が間を挟む。
「そうだな、どんなやつなんだろうか」
ついに4人は4番目の牢の前に近づいた。ただならぬ気配である。
「先に行ってくれ、俺は後で行く」
池袋が3人と別行動を行った。これには何か理由があるのか?トイレかなんかか?
多くは疑問を持たなかった。3人で牢の前に立ちはだかったのだ。
鬼が出るか蛇が出るか。
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