第55話:園児

「お断りします」

東京保育園の園長より固く拒否されてしまったのだ。

「理由としましては・・・?」

金成も頑張って粘る。

「高校生でボランティアとあっては、万が一お子様に何かあった時どう責任を取るのでしょうか?子供は無邪気です。一瞬目を離した隙にどういった行動に出るか分からないものです。親戚の子供とお遊びにするのとは訳が違うのですよ」

「そこをなんとか~」

「ダメなものはダメです。規則ですから」


プチンと金成はきてしまった。

表情はにこやかでありながらも彼の心の奥底にある渦巻くどす黒いものがついにあの能力を発動させてしまうぐらいであった。


スキルマスター発動:ジャッジメント


「まあまあそういわずに、今は保育士不足もありますし、特にお給料もいりません。それに私は子供の扱い手慣れております。ただ色々と子供と遊びながら社会勉強をしつつ、顧客である主婦の皆様よりご意見など頂戴したい処遇でございますので何卒よろしくお願いします。園長さんもこれを受け入れて、私を室内に案内するという名目でこのように文章を書かせてもらいました。他のスタッフからの申し出に関しても園長先生の一存でご案内したと申してくれればよいのです」

「何書いた文章読み上げながら、わざわざ私に説明をしているんですか?」

「あ!ゴキブリが!!」

園長の後ろを指さしながら金成は叫んだ。

園長は一瞬後ろを振り向く。

その隙に彼女のズボンに先程読み上げた札を装着させた。

視覚、聴覚、触覚は成立した。これで条件は満たされたわけだ。

「わわわ」

園長が突然立ち上がり、金成を室内奥へと案内した。

「なんだ、体が勝手に」

園長は操られてしまったのだ。金成もよくこんな考えが思いついたものだ。

他のスタッフとすれ違い、

「園長先生、その人は・・・?」

「ああ、彼!彼はね、ここで保育士不足で困っていることをききつけてボランティアにかけつけてくれたのよ」

「でも園長、保育園でボランティアって・・・高校生ですよね?学校の許可とかとってるんですか?トライアルウィークじゃあるまいし」

「うるさいわね!私がいいって言ってるんだから静かにしなさい」

「は、はい」

「ぷくくく」

金成は笑いをこらえながらそのまま園長の後についていく。


子供たちが公園で戯れている。

「ここが子供たちの遊び場です。お昼寝する子もいますが、くれぐれも無茶はしませんことよ」

「はい、わかりました」

金成は辺りを見渡した。

「かなりの数の子供がいるなあ」

ざっと見、200人ぐらいの子供がいるように思える。それに対しての保育士の数は10名程度、一人につき20人の子供が割り当てられている状態といったところか。

しかし見ていると危うい光景が目に浮かぶ。ジャングルジムで遊ぶ子供、鉄棒にまたがる子供、ブランコで遊ぶ子供。

「先生~みてみて~」

子供が華麗に空中移動しているが、何とも言えぬ光景だなと感じた。

それにこのジャングルジムは非常に高い、子供は体が小さいのにこの高さから落下すれば怪我じゃすまないぞ。

この保育園施設にもどうやら色々と欠陥がありそうであると感じたのだ。

子供の安全第一を目指すべきものであるが、何分数がそれでも比例するのでなかなか職員の注意も行き届かない部分は多々あるのかもしれないと感じた。

「あっ・・・」

子供が手を滑らせ、落ちた。

「危ない」

保育士が叫ぶが間に合わない。


スキルマスター発動:ライジングサンダー


足元のみ雷をつかい、そして移動した。あまり園児に能力がばれないようにしている。

男の子を抱きかかえ、窮地を脱した。

「うえええん、怖かったよ~」

「ほら泣かない泣かない、どこも怪我してないだろ?」

「うん、ありがとうお兄ちゃん」

「ああ、すいません。助かりました」

保育士も金成に感謝の意を表している。

「いえいえ、どうってことないですよ」

ブランコで遊んでいる女の子が気になる。もしかすると

「わーい、わーい」

振り子の幅が物凄く大きいものとなっている。

手を煩わすと・・・

次の瞬間、女の子が手を放してしまい、大きく空中ジャンプした。

「やはりか!」

そのまま金成はまた抱きかかえた。

「わーい」

「わーいじゃねえ・・・」

溜息をついた。

「全く、親もどういう躾してるんだか」

「まあ最近はモンスターペアレントも多いですよ」

一人の保育士が言った。

「成程な、ところでちょっと聞きたいことあるんだけど」

「なんでしょう?」

「女児の着替えを男性保育士にさせるなという意見はなかったかい?」

「ああ、ありましたよ。ほんと気性の荒い母親でしたよ」

「どんな感じの奴だった?」

「もうなんていうかギャル系というかお嬢様系というか髪が金髪でドレスきて、あれは絶対母子家庭ですよ。旦那がいたらあんな荒れませんよたぶん」

「まあ糞ビッチみたいなやつなんだろうか?ようわからんが」

金成は考え事をした。

「確か保育園落ちたとは言ってたけど、結局その母親はどうなったんだ?」

「なんせ結構な官僚な方なのかどうかわかりませんが、権力者でして結局入園されましたよ。文句言われながら」

やはりあの発言力からして大物だったか。金成の直感は当たったようだ。

「今日はその人の子供がこの保育園に?」

「ああ、来てますよ」


保育士に案内されながらもその例の女児のところに案内してもらった。

一人で砂場で遊んでいた。

「ちょっとあの子も変わってましてね。ネグレクトにあっているのか、たまに体に痣があるんですよ」

「まあちょっと話を聞いてくるよ」

「くれぐれもお気をつけて」

金成は女の子に近づいた。

女の子は金成に一瞬振り向いたが、また砂のお城創りに夢中になる。

「みんなと遊ばないの?」

金成は話しかけた。

「遊ばない」

「どうして?」

「遊びたくないの」

「楽しいよ」

「楽しくない」

「どうして?」

「わかんない」

子供は保育園に入園するぐらいから感情が徐々に芽生えてくる。

特に家庭環境、親の接し方次第では性格上、積極的になるか消極的になるかは左右されやすい。

だからこそ大人が接してあげなければ将来子供は社会人になっても引きこもりがちもしくは対人恐怖症に悩まされることもしばしばあるのだ。

「お兄ちゃんと一緒に遊ばないか?」

「いいよ」

純粋な心故、簡単に承諾してくれる。

「砂のおうちを作ってるの?」

「うん、ママがいつかこんなお城に住みたいっていうから」

「ママは大好き?」

「うん、パパはいないけど、ママは好き。でもママはいつも男の人に飢えているみたいで、派手な格好しているの」

「ママのようになりたい?」

「ママのようにはなりたくない。私を構ってくれないの」

「俺は金成っていうんだけど、お嬢ちゃんお名前は?」

「乙姫っていうの」

なんというか、源氏名というかDQNネームいやキラキラネーム・・・。

金成も絶句してしまうぐらいであったが、そんなものは気にならない。

「乙姫ちゃん、好きなことはお城作り?」

「ん~っとね、手品!」

「じゃあ俺と一緒に手品をしないかい?」

「いいよ」

金成は背負ってきたリュックサックを取り出すなり、トランプを取り出してカードゲームをし始めた。

ここの数字がこうで~こうで~と乙姫ちゃんのハートをつかみ取ろうとしている。

金成は単純に女児が好きであるが、所詮はそこまでであった。疚しい感情は特に持ちえないが、相手の心を開けることに喜びを感じる達なのであった。

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