第107話:財布
部屋の周りには多くの武器が張り巡らされている。
どうやら武器庫に来たようだ。しかし、奇妙な光景が一つある。
それは本来ならあるはずのものである。なぜこんなところにこんな不自然なものが落ちているのか、誰もが疑問に投じたが、最初に口を開いたのは金成だ。
「財布だ。財布が落ちてる」
金成は財布を拾い上げた。黒い長財布だ。
「中身入ってるのか?」
中を開けると万札が2枚と千円札が5枚、それに小銭、保険証など。
「てか、なんでこんなものが武器庫に落ちてるんだ?」
「何かのトラップじゃないのかこれ?」
「分からん。しかし忘れ物というよりかは落とし物のような気がするな」
「なあ気になったんだけどよ金成」
「何だ渋谷?」
「お前もし財布拾ったら警察に届ける派?それとも持って帰る派?」
「持ち帰りは犯罪だぜ。渋谷は持って帰るのか?」
「いや俺は中身の金だけ抜き取る派」
「お前それ窃盗じゃねえか…」
「まあまあそんなことはいいからよ。それよりこれどうするんだ?」
「拾得物というのは基本的に拾得者に権利が発生するものだ。有権と棄権、それに落とし主が見つかった時に受けられる報労金もしくは落とし主が見つからなかった時の所有権の権利の二つが選択肢としてある。だが、保険証からしてこれは個人情報にも成り得るから、この場合は所有権は放棄だな。落とし主が見つかったらお金が多少貰えるかもな」
「何真面目に議論してんだよ。だいたい城の中だぜ?トラップじゃなきゃこれは何の演出だよ」
「もしかすると噂の『ヨーチョーバー』の企画とかかもしれないぜ?あいつら動画配信して金を儲けようとする奴らだから、今こうやって俺たちが財布を拾ったらどういう行動に出るのかを撮影しながら待ち構えてるかもしれん」
「おいおい戦場だぞここは。そのぐらいにしとけよ、そんな財布置いとけよ」
高校生と言えばやはりこういった財布を拾った時の行動パターンの選択肢というものはどうも気になるものであった。
「みんな!何か来るよ」
国語の先生が叫んだ。
「なんだ?」
「全員この場から離れろ!」
大きな鉄球が落ちてきた。
ズシン!!
砂煙が舞いながらも全員間一髪で避けた。
「あぶねえ」
「何でこんなものが降ってきたんだ?」
「やっぱ財布が仕掛けだったんじゃねえのか?」
「さあな。とりあえず先を進もう」
一行は先を進んだ。扉をいくつも潜り抜けた。
特に罠は張り巡らされておらず、兵士もいないのでスムーズに進んでいく。
途中宝箱みたいなものが置いてあり、開けてみた処、薬草が出てきたり布の服が出てきたりと、何かのRPGゲームを連想させられるつくりであった。
「金成君」
「ああ、わかります。中に誰かいるな」
「強敵よ」
「覚悟の上です」
扉を開いた。待ち構えているのは全身黒装束の男であった。金髪ミディアムヘア、それでいて眼が緑色と異人のように思える。金のブレスレット、チェーンアクセサリーなどをつけていて、派手な印象を持つこの男は、王直属の戦士十戒の一人「夜叉」であった。
「王直属の戦士のお出迎えってわけか」
「お前か?伊弉諾と伊弉冉を殺ったのは?」
「そうだ」
金成が一歩前にでる。
「あの二人はかなりの凄腕でな~、正直俺でも中々苦戦はさせられてたわけよ。だがまあ俺もだいぶ能力揃えてきたし、そろそろと思ってた矢先にお前に先を越されたわけだ」
「仲間割れでも起こそうとしてたのか?」
「いやいや、マジの殺し合いはしない。それは十戒の中ではご法度ってもんだろ。だがもう対戦相手がいねえ。天馬じゃ物足りねえ。なあお前話に聞くとよ、他人のスキルを自在に使いこなせるんだって?どうやってんだ」
「教える義理もねえよ」
「ああそうかい、お前のそのスキルの取り方によっては俺、奪いたいなぁ。なんせ王最強の盾の鳳凰の再生能力は喉から手が出る程欲しいからな。あいつにはまだ俺しか能力が奪えないことを知らないみたいだからな」
「何?お前も能力を?」
「へへへ、俺のはな。スキルハンターっていうんだぜ。相手のスキルを奪う、これ絶対的に最強。なのに、お前も俺と同じタイプってわけ?驚かされるねぇ」
「スキルハンター・・・?マジでそれ使える奴がいたのかよ」
金成は驚きだ。自分と同じタイプで他の能力を自在に使いこなせる特殊タイプに出くわすのは。
「ちなみにあんたのランクは?」
「俺は堂々のSランクだぜ!まあ阿修羅もいい加減Sランクに届いてもおかしくはないんだろうが、てめえの能力、殺して奪ったら今まで溜めこんだもの全部俺も使えるんかいなぁ?」
「殺して奪うだと?」
「ああ、俺のスキルハンターは相手の能力を聞き、見て、そして殺して奪う。至ってシンプルだろ?もしそいつにかなりレアな能力があったら殺すのを一旦置いといて事前に能力を見て使い方を聞き出さなきゃ殺せないのは面倒くせえんだけどな」
「何て恐ろしい能力だ」
「さて、てめえもそうだが。そこに連れてきた連中もちったあいい能力持ってるんだろうなあ?特にそこの女の人。あんたいい能力持ってそうだな」
なぜか国語の先生のスキルが事前にばれている。誰かスパイがいたのか、いずれにせよかなりやっかいな敵が王国側にいたことを金成は予想外の展開に巻き込まれてしまったことを痛感している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます