第73話:教育勅語
「乙姫、早く支度しなさい!遅れるわよ」
「はーいママー」
乙姫が東京保育園に向かう支度をしていたところだった。
美姫は炊事洗濯に追われていた。こう見ると至って普通の主婦層だが、稼業については東京王国を守る直属の戦士の一人であった。
支度が出来た処で二人で保育園に向かうのであった。
「ねえ乙姫?保育園は楽しい?」
「うん!」
「そう、よかったわ」
金成との一件もあり、すっかり周りに友達が出来たようであった。
園長の元へと行く美姫であった。
「そんじゃあ私の子預かってね」
「はいはいっと」
「くれぐれも、妙な真似はするんじゃないよ?」
「いえいえ、私どもはそのようなことは致しませんよ」
「疑い深いな」
「ただ・・・」
「ただ、なんだ?」
「今日は実は保育園のオーナーが来られる日でしてね」
園長がニコニコしながら答える。
「まさか!」
「あら美姫、お久しぶり~」
美姫が振り向いたところには王直属の戦士十戒の一人「伊弉冉」がいた。
「伊弉冉、あんたが今日ここに来るとはね」
「乙姫ちゃん元気?」
「ええ、お陰様でね」
美姫は伊弉冉を睨みつけていた。
「あらやだ、怖い顔して、どうしたの?」
「あんたの教育方針にはうんざりなのよ」
「どういうことかしら?」
「教育勅語よ」
「ああ、あれね。どうしてかしら?」
「王国制度については私も立場上従うわ。しかし我々人間は神の存在には近づけない。神に逆らいし者はそれ相応の報いを受けるわ。我々人類は現時点で「時の大罪」を犯し、国の境界線には壁を設けられた。そう、首都東京国は元々日本国の心臓とも言われるぐらいの大規模な人口を掲げている。外交も24時間しか儘ならず、貧困の差は続くばかりか待機児童の数も増えていく。私もここに入園など望んでいなかった。圧倒的に数が少なかったのよ。保育園と保育士の数がね」
「それで何が言いたいわけなの?」
伊弉冉は美姫に顔を近づけた。
「中央区のみヘリコプターマネーを行い、教育勅語をすることにより他国はおろか自国の区内ですら差別が出て来るって言ってるのよ。いずれ反乱が起きるわ、他地区でも勢力を上げてきている。均衡を保つためにも王国制度を見直すべきだと私は思うわ」
「あなたは国の原点を知らなさすぎるのよ」
「なに?」
「私の祖先はかつて国生みの神と称されたわ。最初は兵庫国の領土に位置する淡路島、次に四国。知ってる?女から男をベッドに誘うと未熟児が生まれるのよ。それで私の先祖は国生みに失敗したわ。だから昔から東京国でも男が女にプロポーズしないと上手くいかない風習があるからね」
「ただの言い伝えでしょ」
「どうかしら?この世界は輪廻によって創られている。呪術の最大級が人間の寿命というものでしょ?何故人は100歳までしか生きれないか考えたことある?」
「さあね」
「生殖機能があるからよ。男と女が交わると子が生まれ、そうやって人類は繁殖していったのよ」
「しかし争いが起きたと言いたいんでしょ?」
「そう、争いが起きたのよ。だから怒った神は壁を作り、国を46ヵ国に分けた。私はいずれこの国の壁は無くなると思うわ。もし壁が無くなった時、それをどう正しい道へ進める?また争う?殺し合う?」
「だからあんたの言う教育勅語だっていうの?」
「制度をただし、憲法を定める。皆が一緒の動きをする為には教育するしかないのよ。これは教訓よ。我々は人類がいつか大罪を拭いさり、一つの国に戻ることを夢見る。しかしその時、正せるのは教育勅語しかないのよ!」
「ふん、ばかばかしい。常識を植え付けるのは結構なことよ。子供に躾は大事。しかし考え方や文化や宗教は植え付けるものじゃない。人は生まれてこの方『揺り籠から墓場まで』その過程を決めるのは自分自身なのだから」
美姫は去っていった。
「ふん、相変わらず分からない女」
「伊弉冉様、園児たちを集めてきましたよ」
「みんな、おはようございます~」
「おはようーございまーーーーーす」
200名いる園児は皆笑顔で挨拶する。そんな中美姫の娘の乙姫だけが、無反応であった。
「みんなの笑顔を見れて嬉しいわ。それじゃあ朝の挨拶を始めるわよ!」
「はーーーーーい」
「教育勅語!」
「きょーいくちょくご!ちんおもうに、わがこうそこうをはじむことこうえんに~」
「秋葉王頑張れ!秋葉王万歳!」
「あきばおうがんばれ!あきばおうばんざい!」
美姫は後ろを振り返ることなく、園児の歓喜の声を聞きながら東京保育園を去っていった。
その頃金成は花見をしていた。
スマホを見ている様子だ。
「駅前のカメラ屋さんが仮想通貨の決済を導入か」
以前小谷社長と共にフィンテック革命が起きるということで銘柄を大量購入したのを覚えている。
「あのあと、あの人うまくいったのかなー」
そうこうしていると、
どかーん!
「なんだ?」
花見で屋台が爆発した。ガスボンベの使用中、無理に挿入していたようだ。
「怪我人がいなければいいんだが」
ざわざわと人が集まってくる。
「おちおちと寛ぐことも出来ないな」
自持思想論の本を閉じて、そのまま帰宅しようとしていた。
「ん?」
一人の男が金成を襲った。
「なんだ?」
咄嗟に後ろに下がった。
「いい動きだ」
「あんたは」
「副生徒会長の明治だ」
「その副生徒会長が俺に何の用だ?」
「お前の実力を見て見たくてね」
「はあ?」
「手合わせ願おう」
「いやですよ、こんな人が多い場所で」
「そうだな、なら場所を変えよう」
金成は明治に言われるがまま人気のいないところへと案内された。
それを追うように一人の男の影が2人を追っていたが、かなりの手練れの為、二人とも尾行されていることに気が付いていないのであった。
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