第94話:伊弉冉②

 閃光のように放つ輝きは一瞬で伊弉冉に犯人であることを諭した。

だが腑に落ちないことは、天馬からの連絡によると西高校にいたということである。能力が2分離されることはほぼあり得ないことも承知の上である。たまたま能力が似ているだけか、それとも奪ったのか。だがいずれにせよ伊弉冉は考えたのだ。

「あんたが主犯というわけね。決定的ね、これは都合がいい。早速知らせないとね」

「誰に何を知らせるかは分からんが、俺はお前ら王直属の戦士を許しはしない」

「王国転覆を計っているわけね」

「別にそんな大それたことは考えてないさ」

「ならば何故我々に牙を向く」

「さあな」

 金成が光を放つと同時に、動き出した。物凄い速いスピードである。

「アリストテレス」

 明治が引力を使い、伊弉冉の足元を崩す。

「電光石火」

 思い切った蹴りを伊弉冉に入れる。

「うっ」

 そのまま吹き飛ばされる。しかし引力により、再度跳ね返り、引き寄せられる。

それに対して金成は何発も伊弉冉に蹴りを入れまくる。

「げほげほ」

 伊弉冉は喉を詰まらせたように咳き込む。だが、

「恐ろしく速い攻撃ね。こりゃ素戔嗚もやられるわけだ」

「女でも恐ろしく強靭な体だな。今の攻撃を連発してもほぼ無傷とはな」

「そりゃあ鍛え方が違うものでしてね」

「妙だな」

 明治は考える。いくらなんでもかすり傷一つつかないことに違和感がある。こいつも伊弉諾と同じ無敵なのか?

「金融庁を装って詐欺をしたくなるぐらいの気分だわ」

「こいつらよくわからない体質だな」

 金成は攻撃を続けた。

「蒼天流:螺旋拳」

 伊弉冉に一撃入れるも、伊弉冉に痛覚はないようにも思える。

連続技を入れたとしても基本的にはダメージは無いと言っても過言ではないようだ。やはり伊弉冉の正体に迫るためにはいくつか情報を得なければいけないわけだが、敵が素直にそれを認めるとは思えない。

 まさしく相手が油断した時こそ、千歳一隅のチャンスとも取れるのである。

「あんたも無敵なのか?」

「そこは想像にお任せするわ」

「あっそ」

「でもやられてばかりでは此方も面白くないわ。そろそろ私からもやらさせてもらうわ」


 伊弉冉は大きく見開いた眼を金成と明治に見せた。

すると、金成と明治が少しずつ石化し始めてきた。

「なんだこれは?」

「足の指先が重い……」

「ふふふ」

 伊弉冉の眼を見た瞬間から突如二人は石化が始まった。

「私のスキル『ゴルゴーン』は眼を見た者に対して石化を促す能力。私が死ぬか、能力を解除する以外に助かる術はないわよ」

「おい金成やばいぞこれは」

「完全に石化する前にお前を叩く!」


ナイトメア&グラヴィティ合技:ブラックホール


「くらいな」

「え?」

 伊弉冉を超吸引力で一気に体を引きちぎろうとした。

「うええ、これはきついわね~」

「?」

「なんか超吸引力の掃除機に腕を突っ込んでいる気分。気持ち悪い」

「効いてないのか……?」

「うっとおしいわね!」

 金成に蹴りを入れた。

「ぐはっ」

 腹を抑えながら金成は後ずさる。

みるみるうちに金成は石化していき、既に左足がくるぶしまで石化した。

「さあ早く私を殺さないと、石化し続けるわよ」


スキルマスター発動:ファイヤー


「炎の戦士」

 炎の剣が伊弉冉を襲う。しかし火傷はおろか着ている服すら燃えない。

「こいつは絶対的不死身ってやつか?しかし石化能力といい、こいつはやばいな」

「さあ早くしないと、あんたら動けなくなるわよ」


スキルマスター発動:グラヴィティ


「重いわね」

「さすがに女のお前はいくら王直属の戦士と言えど動けなさそうだな」

「お互い動かなかったとしてもあんたの石化は止まらないよ?意味ないよ?」

「ああそうだな、ところであんた空気は吸って生きているよな、さすがに」

「酸素でも無くすことできんの?」

「まあな」


スキルマスター連携:ウォーターフール


 大量の水を出し、伊弉冉の顔を水で埋め尽くし、呼吸できなくした。

「これならさすがに死ぬだろ?」

「ごぼごぼ」

 伊弉冉が苦しそうにもがく。じたばたじたばたしている。

金成と明治の石化も進行し続けている。

 

 数分が経過したところで伊弉冉は動かなくなった。

「おい、死んだんじゃないか?」

「いや、まだ死んでいない。俺たちの石化が止まらない」

「狸寝入りしたつもりなんだけどな~」

 伊弉冉が起き上がった。

「もうちょい付き合ってもいいけど、飽きたわ」

「こいつやはり強いな」

 既に二人とも下半身の両足が動かなくなってきた。

「あと5分もすれば完全に石化ね。あんたら二人とも庭に飾っておくにはいまいちだから石化したら伊弉諾に破壊してもらうわね」

「おい金成!やばいぞこれは」

「……」

 物理も効かない、魔法も効かない、酸素を欠乏させても意味がない。まるで伊弉諾と伊弉冉は共に無敵ではないか。

 金成は自分の読みが外れてしまったのかと考えてしまうぐらいであるが、だが伊弉冉を倒さないことには伊弉諾にも勝てないと考えている。

「能力が分からないことにはな、この石化も十分強力だが」

「くそっ」

「ああ伊弉諾~そっち順調?とりあえずすぐこっち来てくれない?犯人見つけたよ。うん、大丈夫。早く来てね~」

 伊弉諾に電話をして呼び寄せようとしている。どちらにせよタイムリミットは迫っている。

「大切なものを守る力の勝利って奴か」

「ん?」

「あんたにとって伊弉諾は大切な仲間なんだな」

「ああ、そうだよ」

「ほかにもそういう仲間はいなかったのか?」

「さあね」


 金成石化まであと3分を切っていた。

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