第97話:秋葉王③

 間一髪のところで明治とともにその窮地を脱した金成であるが、多少火傷を負うことは免れなかった。

 周辺地域はほぼ崩壊し、東区は大きなダメージを負った。

 その後、消防署などが駆けつけ、一気に消火活動を始めた。警察隊も乗り出し、その後は東高校に襲撃があった旨を伝えが、王国政府からの襲撃には警察も動きが鈍くなる。王国政府には絶対的な権力がある為、警察署長も迂闊な行動は取れないとふんでのことであった。

「明治さん、大丈夫ですか?」

「ああなんとかな。助かったよ金成」

 金成のテレポートで難を逃れた2人であった。


 瞬く間に城にまで伝令が入った。

「秋葉王。あの2人がやられました」

「ほう、あの2人を殺せるものがいたというのか?一般人の分際で」

「そうみたいですが、いかがなさいますか?」

「あの2人は将棋でいう龍と馬みたいなものだ。となれば此方は飛車角取られたというわけか」

「しかし我々にはまだまだ多くの手駒が用意されております」

「執事よ。将棋の世界では王というものはどこにいるのだ?」

「だいたい矢倉囲いなどして王に近づけさせないように金と銀が守りを固めているイメージですね」

「ああそれは一般常識的な戦略だ。だがRPGでもだいたい魔王というものは勇者を育成しているような気がしてならないな」

「と言いますと?」

「つまりだ。何故勇者が弱い間にさっさと魔王自ら出向いて、自分に牙を向く勇者を殺さないのだ」

「それは、自身が出向くまでも無く、中ボスなどの部下で十分とふんでのことではないでしょうか?」

「5つの心の病気を知らぬのか?」

「それはなんですか?」


 甘え、自惚れ、驕り、マンネリ、やっかみ


「組織のトップに立つ者に自惚れや驕りがある場合、企業は衰退するのだよ」

「ということはまさか……」

「ああ、ニヤニヤ超会議に出演できるぐらいのかつてないほどの広告収入が手に入りそうだな。まさか勇者がレベル10程度のRPGで、まさかのラスボスが出て来るとは思っていまい。そういう癖のあるゲームソフトを何故どこの企業も出さないのか、私はな、それが疑問で仕方ないのだよ。どこの馬の骨かは知らぬが、目にモノ見せてくれよう」

「秋葉王自ら出向かれるわけですね。それでは4つの盾も準備いたしましょうか?」

「いや構わぬ。執事君、お前だけで護衛は十分だ。4つの盾には私の主催するRPGゲームのボスキャラクターを演じてもらわねばならぬからな」

「東京国の王様でありながら、まるでゲームを楽しむかのようですな」

「ああ、楽しむさ。どういうやつなのか情報が事前に欲しいな。伊弉冉の奴はビデオを回して私宛に動画を配信しているはずだ。後でチェックしといてくれないかね」

「分かりました。では久々にコスプレをするのですな」

「ああ、俺のもう一つの城に行くとしよう。東高校か、丁度いい寝床が俺にはあるのだからな」


 各高校での招集が促されていた。

「夜叉、戦いは終わり。一度帰還せよとのこと」

「なんだよ、まだ一人しかぶっ殺してねえぜ」

「王の命令だ。従え」

「ああ、なら仕方ねえか」


 王直属の戦士ならびに王最強の4つの盾も招集されている。

次なるゲームステージでは何が起きるというのか、金成には想像もつかないでいた。しかしいずれにせよ、龍と馬を取ったことに対して、魔王自らが勇者の育たぬ間に根絶やしにしようというかつてないRPGゲームソフトの誕生になるかどうか、既に異次元崩壊の序章が始まっているのかもしれない。


 東京国で少なからず、うねりが生じ始めたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る