第99話:日本統治時代
静かな街に戻りつつある東京国であるが、それでも人口密度は多いわけであり、一度内乱が起きると一時的には緩和される。しかし、それも長期には続かず、必ずしも多くの人は今日の記憶を忘却することをせしめんとし、一個はそれに長きを経て時差共に空虚と並びぬく日が絶え間ないことにあると記す。
足並みを揃え、団体行動をする。まるで軍隊の行進、しかしそれを高校生が行うというのは体育祭なみならぬ恰好な光景であった。前人未踏の領域に踏み込む彼らの表情に狼狽は無く、皆が命を懸けて挑む時の本気の顔つきであった。
指揮陣形は校長教頭並びに、各高校の先生方が主席し、誘導をするのであった。
銀色の機械、フルメタル装備のグレネードランチャーを装着したようなAIロボットは既に城周辺に配備されている。その他多くの兵士達は既に近隣に配属され、禁酒されている地域で一部の兵士が酔って女に手を出す光景もある。
DQNであった。これでは20代の痴漢は無くならないわけである。
先生だから、警察だから、医者だから。関係はなかった。
ただの獣だったというわけである。それも圧倒的知能の低い、だが今日まで生きれたのはたまたまか?運が良かったのか?
そうは思わないのであった。これには何か「見えざる手」があったのではないかという右翼側の索敵も模範していた。これは「魔術か?」何かか?
今まで真面目に生きてきた大学生が、何故急に「性欲に負けたのか?」「何故借金に走ってしまったのか?」
操作されているのか?盤上を何者かが動かす悪手に惑わされているのか?
繁華街は白けていた。戦争が起きる前の冷たい空気。
ここは深夜であっても、暗い路上。鼠たちがゴミ箱の中のゴミを漁っている。それすらも誰も目を向けない。混沌とした世界。これが同じ東京国に存在していた。すぐ隣の町に。自分の街、いや、自分の隣にある民家だってそうじゃないのか?そういう疑問を持つことだってありはしないだろうか。
殺人事件、ネグレクト、DV。気づけば警察が、マスコミが取材にきていた。
それは偶然でもなければ必然でもない。皆空想の世界に思っていたことが現実に起こる。近年のテレビ取材におけるものによってはまさに「自分がまさか」であった。何故自分は今取材を受けているのか。何故この状況が生まれたのか?誰が予想できたのか?
普通…ってなんだ?
「おい金成」
「ん?ああ」
渋谷が話しかけた。
「何ぼーっとしているんだお前」
「わりい」
金成は名乗り出た。自分が突破口を切り開き、そして王を討伐すると。
この日本統治時代における、その主眼は本人の願望によるものから始まるのだ。誰かが手を挙げねばならない。誰かがやらなければならない。
たとえそれが、誰もが喜ばない行為であったとしても、時代は流れる。時は流れる。逆戻りはできない。この世界はずっと続いていくからであった。
金成は今日で死ぬかもしれない。
それを感じ取ったのかもしれない。自分の未来は見なかった。それを占えば怖かったからだ。目の前の未来にのみ専念することにしたのだ。
陣形は既に選定済みであった。多くの戦略を用いて挑まなければ「数」そして「質」には敵わないからだ。
よき理解者がいるとすればそれは、既に話し合いでの和解に繋がることだってある。だが、今はそれをすることが出来ないのだ。
人は皆争いたがる。競いたがる。だから貧困の差が存在するのだ。
本当は自分が欲しいものは誰かが持っている。だから奪わなければ、もしくは奪い取られれば死ぬだけだからだ。これには深い意味合いはない。ごく自然のことなのだ。誰かが手を汚すことをしている。自分の見ていないところで命を奪っている。
スーパーでパック売りされている「豚肉」「鶏肉」「牛肉」これらは色は綺麗だが、元の見た目はどうだというのだ。
肉を食べない宗教団体が現れるのは仕方のないことだ。命を奪っているからだ。しかし食物連鎖である以上、生きていくには必要な行動ではないだろうか?ただそこに誰も目を向けないからである。豚の命乞いに耳を傾けたことがあるか?飼育している豚は何のために毎日餌を与えられ、食べ続けていたのか?食肉にされるためなのか?裏切りなのか、親切なのか?
忘却はおろか、感じることすらもなかった。これが「死」を意識した時の感覚なのか?初めての体験で、既に緊張は愚か顔のこわばりも緩まない。
すべてが初体験。初めて女性をホテルに誘った時の緊張感とはまた違う、別の意味での緊張感。
全てはここから始まるのだ。
序章は既に近い。多くの命を失い、大きな歴史に刻まれるだろう。
多くの鮮血が飛び交おうとも、それはもう後には引けないことであった。
向かう道には、進む道にはもう自分の持つ「信念」これを貫く以外に自我を保つこと出来ないのだ。
金成は自分の持っている思想を論じた。「自持思想論~2つの世界」世界は2つに分かれている。光と影、時間とお金、男と女、陰と陽、科学と魔法。そして、「生きるか」「死ぬか」選択するしかないのであった。
葛飾はじゃらじゃらと小銭をたくさん袋に入れていた。小銭マニアであった。
「葛飾、その小銭はなんだ?」
「いやー、俺は死ぬときは小銭と一緒に死にたいなと思ってな」
「死ぬことをイメージして戦場に赴くな。それよりその小銭は何円だ?」
「ほとんど100円か500円だな」
「……」
金成は考えた。相手の兵士にもし手榴弾を持つ者がいたとするならば、これは使えるかもしれないと考えたのだ。
「悪い葛飾、その小銭を全部1円玉に変えてくれないか?1円玉を大量に抱いてお前は眠れ」
「はあ?何だよそれ」
「役に立つときが来るからよ」
「まあ別にいいけどよ」
袋いっぱいに1円玉を貯め込んだ。
「軽いな……」
「その軽さがいつか重みになるんだ。皆の命が詰まっている、大切な袋だぜ」
居城に近づいた。彼らは東から攻めていくつもりであった。
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