第86話:化学兵器
「あんた思想に死相出てるね」
「ん?」
金成と男が一触即発であった。
「どういう意味だ?」
「世の中は皆さ、個体あるものしか求めやしないのさ」
「見える世界……」
二人が会話を続けている間にも、今にもなお会場の人が一斉に逃げ出している。それがニヤニヤ超会議で生報道されている。
「あんた止める気がなかったんだろ?この俺を」
「何故だ?」
「分かってるんだろ、あんたも死んだ方がいい人間がいるってことを」
「倫理観の違いだろそれは、そんなことを言っているとこの人間世界では生きてはいけないぞ」
「では何故各国の戦争は無くならない?何故北の国の核保有を指を銜えて待つ必要がある?」
「それは……」
「誰だって自分が一番なのはいいさ。だがみんな目に見える金に群がるんだよ。野球賭博や相撲賭博は誰が儲かる?堂本か?みんな必死にスポーツしているアスリート達、そんな金儲けの大人達に阻害されて、何を持って真剣勝負なんだ?観客を愚弄するだけの行為に誰の理念が動かされるというのだ」
(こいつはやっかいな奴だな)
金成は心境そのように感じるが、しかしこの男の考えは世間には通用しないのも一目置くしかない。だが裏社会などに不満を持つ勢力にあるのは間違いないだろう。そもそも呪術を使うということは、既に「あっちの世界」を意識しての行動原理であることは重々理解しないければいけないことであるからだ。
「金成!」
副生徒会長の明治が近づいてくる。
「明治さん、近づかないように!」
明治が立ち止まった。
「何故だ?」
「こいつはやばいです」
「近づかなければいいという判断かい?」
男は手を振りほどいた。
「三流記者め」
「身体が動かない……」
金成に既に毒を盛られていた。
「解毒は此方、しかし君に問題だ。彼らは君を助けようとしてくれるだろうか?」
「何……」
「うぉおお」
靖国が動いた。次いで陰陽師5人衆もかかる。
「あれは陰陽師。呪術対策で連れてきたようだね。だが、呪術に対応は出来ても」
全員動かなくなった。その場で麻痺が発生している。
「俺の発生させている化学兵器『猛毒ヘヴン』を吸ったものは麻痺する」
「こいつ……呪術は囮で、メインは科学者ということか……」
「元々理系専攻だった俺は学者になれなかった。女の方が学者になれたよ。教授にいいよってね。成績は俺の方が上なのにね」
「……理由はだいたいわかる」
「何だと思う?」
「援助交際の女や金を狙うところからすると、おそらくセックスが原因なんだろ?」
「君、中々頭冴えてるね。その通りだよ、女は自分の身体を武器に使った。教授は女を気に入り、俺の学者への道は閉ざされた。こんな隠れた得点ってある?つくづく思うよ。俺は最高で100点しか取れなかったけど、女はテストの答案用紙以外の+αを使って120点獲得したんだろうなーって」
「だが会社でもそんなもんだろ?業績以外でも飲み会などで上司と席を交えて、気に入られたものが出世する」
「気に入らんよね。真面目に生きるの馬鹿らしいよね。だから俺はこの見える世界に興味をなくしちまった。まああんたはすごいな、俺を犯人に見立てられることができるなんてね。遠隔操作の呪いだから犯人を捜すところまでは中々難しいと思っていたけど、こうもあっさり捕まっちまうとはな。でも残念、俺の方が一枚上手だったね。呪術はあくまでそっちメインに思わせて隠し玉というものはしっかりと残しておくべきものだということ」
「隠し玉ね……」
「さて、どうする?俺の解毒剤6人分しかないけど?あんた入れてさっき倒れた奴ら入れると7人だから1人は確実に死ぬよ?」
「心臓を差し出せってことかい?」
「うん、出来れば君の死が見てみたいな。まあ呪術かけるまでもなく、君はもう死ぬだろうけど」
「どうだろうかね?」
「強がっていても君はもうすぐ死ぬんだよ」
男はニコニコとしながら、金成の死にゆく姿を見ている。
「最後に聞きたい」
「何だい?」
「お金についてどう思うよ?」
「人間の創るものに興味はない」
「だよな、じゃあ何を求める?」
「退屈しない世の中かな?」
「退屈は凌げたか?」
「全然~」
「そうか、もう少し長く生きていれば世界の見方も変わったかもな」
「そうだね、死にゆく者にふさわしい言葉だね」
「ああ、そうだな」
スキルマスター発動:ヤマタノオロチ
「え?」
男は口から血を流した。
金成は十束の剣で男の身体を貫いた。そして、腰につけていた解毒薬を6本奪い取った。
「ぐほぉ」
血を吐きながら、男は膝をついた。
「俺も金には興味ねえが、時は金なりって奴だな」
「俺の毒、効いてないのか?」
「ああ、俺には効かない」
「何で……?」
「隠し玉は何もお前だけじゃないんだぜ?俺には……未来を見据える力がある」
「未来か…」
「あんたも少し長く生きていれば、未来は変わっていたかもしれないな。世界を変えることは何も人を殺すことだけではないんだぜ」
「よく言うぜ。俺を殺しておきながら」
「自分で言わなかったか?死んでもいい人間がどうとか」
「けっ」
「お前は呪いで人を殺しすぎた。飛行機や電車の事故はお前の感情論で巻き込み過ぎだ。裁判にかける気はない。そんなものを待っているようでは、お前の身柄は終身刑並の長さになってしまうのだからな」
「神のみぞ知るわけ……か」
「全て世は事も無しだ」
人間の心とは関係なく季節は移り、日は巡るということであった。生命が途絶えたとしても、また新たな生命が生まれるだけであった。
男はそのまま倒れ込み、息を引き取った。
金成は急いで解毒薬を使い、6人ちょうどであったため、助かったが一歩間違えれば犠牲者が出るところであった。直ぐに解毒を行った結果、後遺症なども特に残ることはなかった。
「金成君、よく相手の呪術に打ち勝ったね!」
「陰陽師でもない君がどうやって?」
「いや~、そんなもの、修練の末に辿り着いた強靭的肉体って奴っすよ」
この世の中は分からないことばかりである。しかし金成にも隠し玉はあるわけであった。金成の隠し持つスキル「デスティニー」は自分の起こり得る1週間先の未来までも映し出すことが可能なぐらい強力な運命を握る最強スキルであるからだ。
そして未来を切り開いていくのもまた、その本人次第ということだ。
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