第82話:パレートの法則

「来てくれたね、金成」

「一体何の用です?俺は誰とも手は組みませんよ?」

「君は相変わらずの一匹狼と言ったところだな。何故群れをなさない?」

「めんどくさいです」

「しかし利便性はあるぞ?軍を率いることはすなわち、一国と戦いを挑めるものである。いくら君がAランクやSランクになろうともBランクが10人も20人も集まれば、数に圧倒されるだろう」

「まあそれはそうですけど、だからといって情が移れば人質に取られた時、迷いが生まれるでしょう」

「切り捨ての覚悟も大事ではあるが、やはり捨て駒には出来ないわけだな。いい心がけだ」

「……まあとりあえず拘りはないですね」

「とにかく昨日起きた事件について目を通してみてくれ」

 金成はインターネットを閲覧した。そこには大量虐殺について裏サイトで書かれていた。突然死が多いことから、変死など様々なものであった。そこから金成が推察するに、この犯人は……

「狂気の沙汰ですね」

「君もそう思うか?」

「ええ、そしてこの人物はあらかた人生を横臥しています。正直この手のタイプは王直属の戦士と同レベルでややこしいでしょう」

「この相手の殺し方からしてそう察するか?」

「まあそれもありますが、殺しが怒りも悲しみもなく、ただ自然体に特化しています。おそらく俺のような退屈を過ごしているものと違って、遊び感覚のような情が感じられます。ゲームを楽しんでいながらも、つまらなくなったものはすぐに壊してしまう飽き性も兼ね備え、尚且つ死を恐れないことながらもそれでいて死に興味があり、そしていつまで生きていけるのかをチャレンジしているようにも思えます」

 生徒会長の浅草、副生徒会長の明治は唾を飲み込んだ。たったこれだけの画像や情報からどこからそんな情報をひっぱり出してきたというのだろうか。犯人の癖もそうだが、驚かされるばかりである。金成は自分と違う何かを感じ取ったが、それでもちょっとした目的が犯人にはそれとなく、何か悍ましい中でも喜怒哀楽を映す殺害の仕方に意味深であった。

 風紀委員の靖国と体育委員の水天、補助係を担当としている沼袋、神田、日枝、八幡の4人がそれぞれ教室の中に入ってきた。

「紹介しよう。我々東高校8名からなる生徒会役員達だ。皆優秀な生徒だよ。お前もそうだが、彼らが学校では規律を守り、スキルの管理を行っている」

「確かに一人一人がすごいオーラですね」

 金成は全員の顔をじーっと見ていた。

「宜しくね。金成君」

 神田がにっこりと笑顔を見せた。童顔でありながらもさわやかそうで、髪の毛が少しさらさらしているような感じの美男子系だ。

 ほとんどが高校2年生か3年生の集まりであった。

「君はあの副生徒会長の明治を負かしたのかい?」

「否まで言うな、沼袋」

 副生徒会長の明治がややお怒りのようであった。

「あんまり図に乗るなよ金成」

 木刀を持ちながら靖国は怖い表情で金成に近づく。

「別に図には乗っていませんよ」

「明治に勝ったぐらいでいい気になりやがって。次は俺が相手しようか?」

「明治にってお前……」

「俺はいつでも勝てるわけじゃないですよ」

「なに?」

 

 金成の美談とも思わしきエピソードが始まった。

「野球の世界では打率3割を狙えと言われているじゃないですか?俺はだいたい10回戦って2回勝つぐらいです。残りの8回は負けているので、まあ正直な話、勝率は非常によくないですね。ただ、パレートの法則(80:20の法則)にもありますが売り上げの8割が全顧客の2割が生み出しているように、その2回の勝率にとにかく心血注いでいる感じですかね?」

「パレートの法則……なぜこのタイミングでそんな言葉が……」

「まあ仮にこれが賭け事だとして、1回の負けで1万円損失を出し、1回の勝ちで10万円の利益を出すイメージです。人間は必ず負けることの方が多いと考えています。ならば勝てるシーンを自分自身でコントロールすればいいだけの話ですよ。だから8回負けても8万円の損失であっても、2回の勝ちで20万円の利益が出れば、トータルで差額12万円の利益が出るといった感じです。最悪の負け方ではなく、いかにして損害を多く出さずに負けれるかが重要であり、残りの2回、絶対負けられない戦いにのみ集中するといった感じです。そうこうしていくうちにいつの間にか色々なスキルがみについてきましたよ」

 その場にいた8名全員が口をぽかーんと開けている状態であった。意外といえば意外であるが、簡単に言ってくれるが、意外とこれが難しい内容であったからだ。相変わらずよくわからない男だなーっと改めてその場にいた皆が悟ったが、それと同時に興味も沸いてくることであった。

「よくそんなこと思いついたな……」

「自分は常に過小評価なもんでして……」

「ふむ」

 生徒会長の浅草がホワイトボードに書き記していく。

「とにかく我々9名で南区で起きた怪奇事件の謎を解きに行く。その際に南高校の者とも合流するかもしれない。くれぐれも用心してくれ」

「了解!」

「あ、すいません」

 金成が手を挙げて質問をする。

「何だい?」

「あと3人程連れていきたい奴らがいる」

「あの時一緒に生徒会室に来た子達かい?やめといたほうがいい、危険が高い」

「いえ、こういう危険は問題ないですよ。あいつらならね」

「仲間を信頼しているんだね」

「はい」

「最初は一匹狼かと思っていたけど、意外と情があるんだね」

「余計なお世話っす」

「まあいい。ならそいつらも集めて、野外研修と行くぞ!」

 

 東高校の生徒会並びに金成を含める数名が南区を目指して歩んだ。

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