第126話:過去を視る者

 全国に指名手配されたものの、あまり周りの人は意識的に相手の顔をまじまじと見ているわけではなく、そのほとんどが素通りである。

 この国の治安では人が死ぬことについては日常茶飯事であるから、何が起きようとも別に何も感じぬことであった。

 昨夜、北の国で水爆と称して「核実験」を6回目の成功とうなづけていたが、人工的地震が発生。津波などの心配などはなかったが、放射性物質などが空中散乱していないかどうかを調べた結果、特にそういった物質は見つからなかった。

 しかし激しく抗議する必要があるが、お構いなしの行動には他国もうんざりさせられている。

 もしこの世の中に「神」が存在するならば、人道を外れた哀れな害に天罰を下すところであるが、それが行われないところからしてもやはり、所詮それは人間の創り出した「逸話」にしかならないわけである。

 霊も宇宙人も占いも、只の思い過ごしでしかないというわけである。しかし科学だけはしっかりと証明ができやすい。そして数字についてもデータでどうとでも言えるのである。だが魔法は少し違う。魔法は個々の能力によってそれは大きな差が生まれやすいからである。

 特に実践のある経験などによって戦場ではいくらでも有利不利は生まれやすいからである。


「記憶を辿るか」

 金成は心配である。自身の記憶喪失には何かショックを受けるようなことがあったからではないかと思うのだ。

「過去を受け入れ、次に進まなければ、彼らの命は無駄死になる」

 阿修羅はそう言葉を残し、後押しした。

「……」

 金成は無言でひたすらついていく。

「あれだ」

既に50人もの行列が出来ていた。


「あなたの過去を占います」

 もう宗教臭くて突っ込む言葉も出てこないぐらいである。

「相手の過去って見れるものだろうか?」

「でもそういう魔法があっても不思議ではないと思うよ。現に君には未来が視えるんだろ?」

「やり方が思い出せないです」

 金成はスキルマスターを忘れてしまっている。しかしきっかけさえあればメモリーの保存はきくので、後は使い方を思い出すだけである。


 一人、また一人と列に並ぶ人が少なくなっていく。

「しかし皆過去を見て何をしようとしているんだろうか?」

「さあね、忘れたくない過去だって誰にでもあるものだろう。まあ中には物好きもいるだろうけどね」

「それって俺のことかい?」

「ん?」

 阿修羅と金成が話をしていたら突然前に並んでいたジャニーズ風の男が振り返った。

「占い師の過去を俺が探って因縁つけてやろうとしているモノ好きって俺の事?」

「ええ?」

 阿修羅は困惑した。

「あんたはこの占い師に何か恨みでもあるの?」

「ないよ。ただむかつくんだ。こういうくだらない商売で金儲けなんてね」

「そんなのいくらでもいるんじゃないの?」

「ああだからこの国はおかしいんだ。痴漢をした男が線路を走って逃げていく。そんな世の中どう思う?」

「でもそれは痴漢した奴が悪いんじゃない?」

「痴漢してなくても痴漢扱いされるぜ?」

「それは冤罪じゃないの?」

「冤罪じゃないんだこれが。警察が無理やり犯罪者扱いしてくるんだ。この国の警察ってのは腐ってるぜ?」

「何で分かる?」

「だって俺、先日痴漢冤罪の現行犯で逮捕されかけたぜ。まあビデオに別アングルの過去の映像を流してやったら4人組の男女はそのまま連行されたけどな。あと俺を恐喝してきた警察官の過去を探ってやったらさ、そいつマニアだったわけよ。バキュームヘッドオナニーとかいう特殊な性癖持っていやがってさ、それ偶然妻に見られてやがるの。まじその映像視えた時は受けたね」

 阿修羅と金成はぽかーんとした。

「きみさ、もしかして相手の過去が視れるのか?」

「んん?視れたらなんだってんだい?」

「こんな占い師の過去を洗ってズリネタにするよりもっと面白い話があるんだけどさ」

「へえ、どんな話?」

「それは…」

 阿修羅は考えた。

「ここでいうのもなんだが、ちょっとついてきてくれないか?」

 ジャニーズ風の男はそのままついていった。


「あんた俺の過去が視れるんだろ?」

「まあ見れるけど?」

「なら見てくれよ、俺が何者なのかそれで分かるんだろ?」

「まあ別にいいけど」

 ジャニーズ風の男は阿修羅の過去を探った。

「あんた王直属の戦士を束ねる男だったわけかい?」

「ああ、元王直属の戦士十戒の一人、阿修羅だ」

「こりゃあ大物だねぇ。もしかしてあの内乱の時に国王と最後に戦ったっていう奴なのかい?」

「いやそれは俺じゃなく、隣の少年だ」

「へえ、君が王と戦ったのかい?」

「そうみたいです、でも俺覚えて無くて」

「そりゃ大変だ。どんな戦いだったのか見てあげるね」

 ジャニーズ風の男は金成の過去を視た。

「ああこりゃあひどいね。仲間と思った校長と教頭が突然裏切って国王と執事に変身したのか。変わったRPGゲームを考えるんだね~この王様。まあ俺は悪くないとは思うけど、こういう糞みたいな考え方正直胸糞悪いわ」

「何となくわかっただろ?俺たちがしたいこと」

「王国転覆ってとこかい?」

「占い師をつるし上げにするより、国王を失脚させたほうが面白いと思わない?」

「面白そうだな。俺も混ぜてよ」

「いいよ。仲間は1人でも多いと心強い」

「阿修羅、いいのかよ。今知り合ったばっかだぜ」

「まあ今日の友は明日の敵とも言うが、ここはいっちょ信頼し合おうぜ」

「だな、ははは」

 ジャニーズ風の男が仲間に加わった。

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