第62話:阿修羅①

本日は月曜日。

西区の武術大会に招待された金成である。

そこで1対1の戦いを申し込まれた為、わざわざ足を運んだというわけである。

対する相手は阿修羅。王直属の戦士十戒の一人、十戒の中でも特に一躍置かれている相手である。秋葉王の信頼も熱い男である。

それ故に阿修羅との交戦は最も日本統治に近づけると考えた金成である。

勿論、その後に控える素戔嗚との再戦にも興味を抱く。次こそは必ず勝つという意気込みがあるからこそ、勝負を挑むのであった。


「てっきり怖気づいてしまうのではないかと思ってたよ」

赤い長い髪を掻きわけながら、阿修羅は金成に問う。

「こんな滅多な機会逃すわけないだろ」

「まああくまでも武術大会では殺しはタブーだ。だが手加減する気もない」

「そうこなくっちゃな」

会場には人が湧き上がっている。まるでスポーツ観戦に来たかのような盛り上がりだ。傍らには素戔嗚が見守る。

「それでは両者構えてください」

司会の女性がマイク越しに叫んだ。

阿修羅は片足を宙に浮かせ、腕をクロスして構える。

金成は前屈み気味に腰を落ち着かせた。

「はじめ!」

戦いの火ぶたが切られた。


スキルマスター発動:アルティメットアイズ


阿修羅の動きは5秒先まで見据えることが可能だ。

特に阿修羅はテレポートを使う。わずか1秒の遅れが命取りになる。この能力なくして阿修羅への攻略はないものと考えたのだ。


スキルマスター連携:グラヴィティ


手を掲げ、阿修羅に重力を掛ける。

「なんて重石だ」

しかし強靭な肉体からこみ上げてくる余裕の笑みは、その重力をものともせず真っ直ぐ前に近づいてくる。

「さすが」

金成も負けてはいられない。さらに両手を掲げ、重力を増す。

司会者の女性はリングから降り、退却した。巻き添えを喰らう可能性があるからだ。

「これなら常人ならまず地面に押しつぶされてしまうね」

阿修羅の歩く地面がひび割れながら、それでもなお真っ直ぐ進んでくる。

「動きを防ぐことは不可能ね」

グラヴィティを解除した。やはり中距離からの重力だけでなく、直接腕に負荷をかけて接近戦でダメージを与える以外に術はないようだ。


スキルマスター発動:ライジングサンダー


金成の体を全身の雷が覆う。

「いくぜ阿修羅」

電光石火で先手を打つ。超高速な為、わずか1秒足らずで阿修羅の顔面目掛けて拳を放つが、阿修羅の姿が消えた。

「瞬間移動したな。しかし」

金成の究極の両目には阿修羅がどこにいるかハッキリとうつっている。先読みして阿修羅の寝首を掻くわけである。

右足で重心を取り、そのまま背後に向けてバク宙し、一気に後方目掛けて放つ。

「疾風迅雷」

阿修羅がそこに出現していた。わずか0.5秒の出来事だ。

「速いね」

阿修羅は大きく円を描き、金成の放つ雷攻撃を打ち消した。

「あの技は確か」

金成は何かに気付いた。

阿修羅はニヤリとほほ笑んだ。

金成はすぐさまアルティメットアイズとライジングサンダーを解除した。


スキルマスター発動:スイミング


金成は突如地面の中に潜った。

「おや?」

阿修羅は先程の雷攻撃を金成目掛けて放つが、金成は既に地中の中にいる。

金成は考えた。闇雲に追いかけても相手に避けられるだけ。此方の超速度より瞬間移動能力のほうが勝っているのも事実。ならば、相手の瞬時に出来る反応を凌駕する困難なフィールドを創り出すしかない。そう考えた。

阿修羅に気付かれないように金成は指一本を地面からむき出しにし、


スキルマスター発動:ナイトメア


辺りのリングを闇が覆い始める。

「ほお、多彩な能力を持っている少年だなあ」

阿修羅は驚く余りに金成の多彩な能力に大変関心を抱いている。

素戔嗚もこの深い闇では目視することは出来ない。しかし金成が何かを仕掛けようとしていることは阿修羅も素戔嗚もお見通しであった。

「一度に発動できる能力は2つまで。トレードオフで行わなければいけないのと、出し入れが激しいと体力の消耗も激しい。長期戦は確実に不利と考えるべきだな」

金成は闇に乗じて阿修羅を狩るつもりであった。闇の中であればある程度の位置が金成には闇を通じて把握することが出来るからだ。

「さあ、少年。次は何を見してくれるんだ?」

「ナイトメアを解除し、次の2つの能力を使うまでに闇が晴れるまでの時間は10秒程度とみておいた方がいいな」

金成は考えた末、ナイトメアの解除を行った。その間に次の技を繰り出す。


スキルマスター発動:ジャッジメント


一度池袋にジャッジメントの応用編、視覚と聴覚を無視した「ジャスティス」について千葉大国開戦で見してもらったことがあった。それを実践しようというわけである。この闇の中では相手の視覚に訴えるジャッジメントは成立しないからだ。

ならば触覚だけに訴えるのみであった。

「阿修羅との距離6m」

距離を次第に測り、ジャスティスの札を5枚程自分の宙に払った。

金成の体に付着しようとしたその時に


スキルマスター発動:トレード


「トレース」

パチンと指を鳴らし、阿修羅と立ち位置を変えた。

阿修羅の周りの闇はだいぶ晴れてきてはいるが、ジャスティスの札が5枚、ヒラヒラと舞う。それに阿修羅に付着しようとしたが

「テレポーテーション」

阿修羅はすぐ金成の背後に回った。

「くっ・・・」

「いい手だな」

阿修羅の手刀が金成を襲う。

「蒼天流奥義:真空刃」

零距離からの互いの拳を交えた。鈍い音が会場に鳴り響き、互いに空気圧が生じ、互いに距離を取った。

阿修羅の右腕は擦り傷が多くついた。

金成の右手は手刀により裂かれ、血が流れた。

「やっぱ十戒相手にこの手順じゃ捕まえられないな」

阿修羅はまだまだ余力があるという感じだ。

「手の内はそれだけか?そろそろ此方から攻めるとしよう」

阿修羅の防戦から攻戦への合図が促された。

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