第61話:神輿

「赤子の手をひねるより簡単か」

そうは言っても一度もダメージを受けない条件でやり、尚且つ相手を倒してはいけない状況。将棋であればまさに飛車角落ちであり、囲碁なら3石程置く程度の地合いである。

次に試しておきたいことはライジングサンダーの効力が切れてしまうことに対する懸念である。体力と違い、スキルはすぐに復活するわけではない。当然使いすぎれば使いすぎるほど、力の発動はしなくなるのが難点である。

それを補うためにあらゆるスキルをストックすることにより、その欠点をカバーしているのが金成特有のスキル『スキルマスター』である。

スキルマスター自体は発動時間がわずか数秒であるが故、ほとんど金成自身のスキル自体は消費されず、持ち弾のスキルが全て消化されてしまった時は当然どの発動条件も満たさない境遇である。

強いて言うならば、スキルの数が多ければ多いほど、そのスキルを使いこなせれば使いこなすほどに金成自身の体力と精神力が尽きない限り、時間は無制限になることを容易にする、

身体的ダメージを負えば当然、事後の活動に影響を与えてしまい、スキルの使いようもあいまい且つ、車のタイヤがパンクした状態でヨロヨロと走っている状態で長距離運転が困難なのも道理となるのだ。

だからこその今回の演習は「ダメージを受けない」「相手を倒してはいけない」である。


「渋谷、もうちょいあんた離れて攻撃しなさいよ」

「うるせえぞ練馬!お前がこっちに近づいてくるからだろ!」

「何言ってんのよ!私は遠く離れてたわよ!」

「おい、喧嘩するな!次いくぞ次!」

原宿が仕切った。刀を使うとはいえ、金成は余裕でかわしてくるだろう。

相手を傷つけてはいけない条件である以上、蒼天流奥義の『真空刃』はまず使ってこないものと考える文京であるが、それでも金成の成長には寛大である。

「そろそろ動きを拘束させてもらうぜ」

金成は余裕の笑みを浮かべた。


スキルマスター発動:ジャッジメント


「この札をつけられしものは全員、俺の前に土下座をする」

聴覚と視覚は全員に成立した。後はその札を相手の触覚に訴えるだけである。

「あれは池袋のスキルか」

「全員気を付けろよ。あの札をつけられたら動けなくなるぜ」

「そんな札、溶かしてやるよ!ウォーターフール」

勢いよく水が飛ぶ。

金成はアルティメットアイズを解き、足元にのみライジングサンダーを使った。

さすがにスキルマスターを3つ同時に発動することはまだ困難であると考え、未来の情報を捨て、スピードを重視したわけである。

超高速スピードを使いながら相手に札を付けるわけである。

「まずい」

「遅い!」

金成はわずか数秒間の間に渋谷、原宿、文京、練馬、江戸川に札をつけた。

「ううう」

皆金成の前に平伏し始めた。

「ふふふ」

金成はジャッジメントの能力を解いた。能力が解けても一度条件を満たせば15分間は言いなりに出来るのがこの能力の利点である。


スキルマスター発動:アルティメットアイズ


再び、究極の両目を開眼した。この眼をどこまで酷使できるのかも試さなければいけないからだ。戦闘中は常に未来の情報を頭に入れなければ格上相手には苦戦を強いられることになるからだ。

全員土下座をし始めた。

「よし残りは・・・」

金成の未来の眼に突然文京から蹴り上げられるビジョンが映し出された。

「何!?」

金成は咄嗟の反射神経で後ろに後ずさった。文京は1秒遅れて蹴り上げたが、金成はその光景を先に察知していたから、ダメージを受けずに済んだ。

「ちくしょう。やっかいな眼ね」

「どういうことだ?」

ジャッジメントの条件を満たしたはずがその言いなりには出来ない。今までにこんなことはない。確かに貼り付けして、それを剥がすことが出来なければ解除は難しいことは千葉国大戦に於いて錬金術師との戦いでそれを証明している。

ならば理由は・・・。

「金成、言うのを忘れていたが、このジャッジメントの効力。事前に何者かに操られている場合はその間、上書きは出来ないぞ」

物陰から池袋が登場した。

「池袋・・・。お前が先に全員にジャッジメントをかけていたというわけか?」

「ああ。如何なる相手の命令にも従わず自由に行動しろと最初に全員に俺から札を貼っておいた」

眼鏡を持ち上げながら池袋はそう答える。

「さあ。ここからは以前『偽りの神話』について話した仲だ。互いのマーケティング論を今ここで語りつくそうではないか」

「うまく従業員全員を一丸となって攻め立ててみな」

金成は少し冷や汗を掻いた。

「渋谷、上空に炎。練馬は下に水!」

「よっしゃ!」

前半戦は皆が皆自由に行動し、目標に対してバラバラな行動であったが、後半戦は指導者が加わり、それに従って行動する。まさにビジネスの世界に於いて一致結束した連携がここからは垣間見れるものである。これには金成も驚きだが、互いの経営戦略がどれほどのものか見物である。

「上空は逃げれないな。ならば・・・」


スキルマスター発動:ウォーターフール


水には水で対抗し、互いの水で押し寄せた。

池袋はスマホを取り出し、耳に当てた。

「まだ待機だ」

誰かに指示を出している様子だ。

「文京、金成との距離を10m以上あけるんだ。トレードはきかなくなる」

「了解!」

離れたところから何をする気だ?金成は疑問に感じた。

「蒼天流奥義:真空刃」

「おいおい!お前も使えるのかよ!」

既に左手はウォーターフールで塞がっている。真空刃同士で相殺したくても片腕では使えない。ならば・・・


スキルマスター発動:グラヴィティ


右腕に重力を掛け、地面をたたき割る。押し上げた地面が盾となり、真空刃の技を打ち消す。

これも以前警察ハントをしていた時に「クロコダイル」を使う相手との戦いで使用したりしていたものである。経験が実践に生かされている状態だ。

「江戸川!木の分身!」

「おうよ!」

「原宿!ナイトメア!」

「あいよ!」

江戸川はマジカルトリックでその辺に生えている木を分身させた。次々と金成に襲い掛かる。当たっても消えるだけだがちょっとした目くらましにはなる。

次いでその間に原宿がナイトメアを使い、視界を遮る。

「葛飾、俺との距離を取って待機!」

「あいよ!」

「このままじゃ視界が見えなくなるな」

「江戸川の下で待機!」

池袋が誰かに指示を出している。

辺りが闇を覆う。その前に・・・

距離からすると江戸川が一番近い。


スキルマスター発動:トレード


右親指と中指をパチンとならし、「トレース」を唱えた。

金成は江戸川と場所を入れ替えた。そのままウォーターフールも解除されたが、練馬のウォーターフールは続く為、そのまま江戸川は水に流された。

「ぐあ」

「品川、今だ!」

突然金成の足元に手が出てきた。品川がずっと江戸川の地面の下でスキル「スイミング」を発動し、待機していた。スマホで指示を出していたのは地面の中では声が聞こえない為であった。

金成はそのまま地面に引きずり降ろされて、半身状態になった。

「ぐっ、しまった」

金成は万事休す状態だ。

「この札を付けられし者は動くことは一切許されない」

池袋が金成に近づくなり、その札を見せて読み上げた。

後はつけるだけで、金成の動きは止まってしまう。

「まずい・・・」

池袋と葛飾は互いに歩み寄ってくる。

トレードは一度使うと10秒間は使うことが出来ないのが難点だ。この状況を脱出するには・・・。


スキルマスター発動:スイミング


地面を自由に自身も泳ぐしかないのだ。

そのまま金成は地面の中に潜った。

「葛飾!今だ!」

「トレース」

パチンと音を鳴らし、金成と葛飾の場所を入れ替えた。金成は池袋の隣に立った。

金成に札を取り付けた。

「ジャッジメント発動」

「やべえええええ」

「金成、拘束完了」

葛飾は地面に埋もれたままだが、すぐさま品川がスイミングで回収した。


「よっしゃあ、金成に勝ったぞ!」

全員祝杯を挙げるかのように歓喜を挙げた。

「お前らの連係プレイ、見事だったよ・・・」

「でも実際お前はよく一人で戦い抜いたよな。すげえよ」

「金成、自身の力を高めるのもいいが、俺たち仲間をどんどん頼ってくれよな」

「ああ、お前らの強さ。認めざるを得ない。感服致す」

全員ニコニコしながら帰っていった。

「頼れる仲間か・・・。そうだな、俺一人で出来ることなんてたかが知れている。皆で力を合わせるからこそ祭りの神輿も持ち上げれるんだな」

自身の力の無さを僻むことより、仲間のいる心強さに感銘を受ける一日であった。

しかし、それでも武術大会では1対1での戦い。一つの自信をつけて挑みたい金成であった。

戦いはいよいよ明日。どんな一日になるか楽しみである。

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