第17話:十戒
銃撃が繰り広げられた。辺りはまるで戦場である。
たまに月に1回の外交を狙ってマフィアが動き出す。相手側は侵略を目的とする「麻薬組織」云わば縄張りの強化であった。埼玉国の3分の1は既に彼らの支配下に当たる。しかし彼らは「麻薬」を単なる覚せい剤としての使い道ではなく、より強固な、より強靭なる肉体を手に入れ、この世を支配しようと企んでいる連中であった。
屡魔法やスキル、科学、忍術といったものは生まれつきの天性により身に付くものでもあり、個として習得することは極めて困難であることも重々承知の上である。そこで登場するのが麻薬であり、個の極限状態までの力を100%発揮させることにより、倒れることのない24時間動き続ける「狂戦士」を創り上げ、組織の拡大を目論んでいるのであった。
老若男女問わず、それぞれ銃撃に巻き込まれ、惨劇を生み出している。
敵の数総勢30名。黒スーツにサングラス、手には機関銃のようなものを持っている。
金成は巻き込まれたものの、まだ姿は見られていない。
さすがの金成も銃の速度には追い付けない。彼に勝ち目はないものである。金成はただ物陰に隠れるしかなかった。
「俺の力では、まだ銃を持った一般人すら相手に出来ねえ」
彼は自分の状況をこの上なく知っていった。そして悟った。
如何にしてこの場を脱するのか。
彼は自持思想論の存在を思い出していた。
自持思想論第1条「君はいつまで歩兵でいる気だ」
頭にそう過る。歩兵10人はと金1人に勝てない。
歩兵は真っ直ぐしか歩くことが出来ない。ただ前を進む。
そういった選択肢しか与えられていない。
しかしと金は斜めや左右、後ろに下がることも出来る。
つまり選択肢が多いことは幸せなことである。
金成は自分の弱さを悔いていた。
「今の俺は戦うという選択肢もなく、助けることも出来ず、ただ逃げることしかできないのかよ」
うっすらと涙を浮かべた。悔しい、もっと力が欲しい。
しかし今出ていくと確実に殺される。俺の手札のカードではせいぜいチンピラを相手にするぐらい、プロ相手には太刀打ちできない。それに相手は30人、王直属の戦士でもない限り、勝ち目なんて・・・。
「おや少年。こんなところで何をしている?」
金成は後ろを振り向いた。後ろには赤髪で目の鋭い男が立っていた。
「あ、いや。隠れています。危ないですよ」
金成は冷や汗を流しながら伝えた。しかしその声は聞こえていない様子である。この装束、もしやこいつは・・・。
「少年、さすがに私が誰かは悟ったようだね」
そう、こいつは王直属の戦士十戒の1人「阿修羅」
以前雑誌の特集で見たことがある。奴はとにかく「速い」
目にも止まらぬ速さで事を終える、まさにスペシャリスト。文句なしのAランク。
「下がっていなさい。上手く隠れておかないと人質になるよ。私は王を守る者、市民はその過程に過ぎないのだから」
そう言って門近くに向かった。金成は顔を物陰から少し出して様子見をした。
「助けてー」
「おい待て女、お前いい女だな?俺の女にしてやろうか」
長い黒髪を掴みながら、スキンヘッドの男がそう言った。
「お願いやめてー」
女性が泣き叫ぶ。暴れる中、男の顔を足で蹴った。
「このアマ!」
右拳で女を殴り飛ばし、
「もうこんな女いらねえ」
銃で12発女に打ち込んだ。体からは血が流れ、動かなくなった。
「ゲヒヒヒヒ、最高のショーだぜここは」
周りの男女も皆、やられ放題である。警察隊は既に銃撃戦により数名死者が出ている。
なぜここまで警察隊の数が少ないのか。
それは今まで「外交」というものは貿易取引のようなもので、特に今まで影がひっそり蠢くことが少なかったからである。つまり「油断」から今回の事件を引き起こした。
そしてもう一つはトップがこの事態を想定せず、本来潤沢に回さなければいけないはずのキャッシュフローをここぞとばかりにケチったのであった。これらの要因が今回の惨劇を招くことになるとは、誰も想像もつかないことであった。
しかし、各箇所で必ず「十戒」はその場に居合わせる。今回は「阿修羅」が居合わせたのであった。
「あん?なんだお前は?」
茶髪の男が阿修羅に銃を突きつけた。
「下衆共め。これから行く黄泉の世界は安楽ではないぞ」
阿修羅がニッコリと笑顔を見せた。
「は?」
男がそう一言述べた時であった。
ズボッ
男の体を阿修羅の手刀が貫通した。男は血を吹き出しながら倒れ込んだ。それを阿修羅が払いのけた。
一瞬、時間が止まったかのように思えた。
しかし次々と阿修羅は近くにいたマフィアの総勢を10人足らずをモノの数秒で骸へと変えた。
「このガキがあああああああ」
銃を乱射させた。阿修羅が右指で大きく円を描いた。
銃の弾は瞬く間に消えた。
「あれ?あれ?弾どこいった」
男がよろめく。次いで阿修羅は左手を大きく広げ、男に翳した。
男の周囲に突如、4次元空間のようなものが現れた。そこから突如先程男が放った銃の弾が男の周囲5か所からそれぞれ乱発され、男に鉄の雨が降り注ぐ。男は血まみれになり、そのまま倒れ込んだ。
金成はその光景を凝視していた。強い・・・、これが十戒の1人「阿修羅」の強さなのか。銃をモノともしない。まるで彼にとっては赤子の手を捻るぐらい簡単な処遇だと言うのか。金成は唾を飲み込み、阿修羅の動きに釘付けとなった。
「残り15名」
阿修羅の眼は一層夥しくも、そして冷たい空気が放った。この間およそ20秒でのやり取りである。
突然、阿修羅の姿が消えた。まるで瞬間移動したかのようだった。
あっという間に車の近くにいたマフィア5人の首を飛ばした。彼の手刀は素手であるにも関わらず、切れ味が抜群で捕らえた獲物は簡単に分解することが容易であった。
阿修羅の顔にも鮮血が飛ぶ。ニヤリと笑いながら、獲物に向かってとびかかる。
皆一斉に阿修羅に向けて銃を放つが、誰も阿修羅の動きを止めることは出来なかった。
次々と腕、足、首とバラバラにされてしまい、その間この辺りは血の海となっていった。残り1人となった。
「お前が親玉か?」
スーツを着た白髪の男が汗を流し、倒れ込んだ。
「まて、金はやる。だから、見逃してくれ」
阿修羅に命乞いをした。阿修羅は手を差し伸べた。
「私が欲しいのは金じゃなく、あんたたちの死だ」
一瞬で親玉の首が飛んだ。総勢30名のマフィア武装は1人の十戒の手により瞬く間に壊滅したのであった。
「衛兵たちよ、仕事は終わった。さっさと片付けよ。外交は24時間しか毎月許されないのだからな」
外交箇所は多く存在するが、この場だけは阿修羅との戦闘により一時外交は止まった。しかしものの見事に1時間後、外交は再開したのであった。
「阿修羅、つええ」
初めてみる恐怖感を金成に襲った。
しかし同時にワクワクしてきた。いつかあんなつええ奴を超えれたらと思うと、彼の今まで退屈だった心が一層「執念」へと変わった。
俺が必ずあいつらの上に立って、日本を統治してやると。
だがその為にはやはり強力な能力がいる。その為には歩兵が真っ直ぐ歩く道をたとえ誰かに塞がれようとも、敵陣に乗り込むまで時間をかけてゆっくりと進み込み、いつか「と金」へと変われるよう育成するしかないと考えた。
焦りは禁物、学習すること、負けることもまた成功への道。
彼はまだ若い。限りない「時間」というものを活かし、自分の可能な限りの「スキルマスター」への道を少しずつ歩んでいくことを今日の戦いで知ったのであった。
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