第112話:鳳凰③

 王最強の盾「東西南北」の一人、東の鳳凰と呼ばれるこの少年は自身の持つ「再生スキル:フェニックス」と「呪術:デスorアライブ」の二つを有する。この呪術はかなりの制約が重く、自身の命も犠牲にして多くの人の命を落とすことが出来る。だが、その短所を克服したのが自身の再生能力である。自分が死ぬことなく何度でも相手を呪い殺すことが出来る彼のこの緻密な能力は身なりが少年であるが故、誰もが油断してしまうところで、相手の呪術の発動条件を満たしてしまうのが難点であるのだ。

 発動条件は「鬼ごっこをする」それに対して対象者に触れるということ、この時対象者は「する」「しない」に関わらず、鬼ごっこは半径20m以内に行われる。別空間に死神が上空に現れ、これらはいかなる能力を使っても脱出は不可能である。そして3分以内に鬼である鳳凰を捕まえるのではなく、殺すことがこの鬼ごっこ攻略の鍵となる。しかし自身の再生スキルによって3分以内に殺すことが困難であり、当然ゲーム攻略が出来る状態ではない。もし出来るとしても連戦を行い、相手の再生スキルが使えなくなるまで戦い続ける必要性はあるが、範囲が広すぎるので、大抵の場合長期戦に持ち込むことは出来ず、相手のスキル持続を常に許してしまうが為、誰もが攻略できないでいるのである。

 もう一つ確実に終わらせることが出来るとしたらそれは鳳凰が相手を3分後に殺せなかったらである。自分も死んで相手も死ぬ、これがこの「デスorアライブ」の特徴であるが、自分も生きて相手も生きるでは死神の機嫌を損ねてしまい、鳳凰自身の魂が抜き取られるよう制約が掛かっている。

 鳳凰は夜叉と同じくSランクの危険人物。倒す方法は「再生スキルが追い付かないぐらい長期戦を強いる」もしくは「鳳凰が呪術で相手を殺せなかった場合」の2択に迫られるというわけだ。その攻略が出来ない場合は何としても鳳凰の呪術にかからぬよう避けるしかないというわけだ。


 上記の話を金成と渋谷に応対した瞬間に鳳凰は口走った。池袋が最後に命を懸けてつけたジャッジメントが、鳳凰の正直な告白を2人にするように促した、最後の情報というものだ。

「命より重い情報の話だ」

 金成はそう言った。これは祖父の本である「自持思想論~2つの世界」の中でも紹介されている「情報は時として命より重い」という話である。池袋は命を張って次に繋げたのだ。金成はこれに応える義務がある。

「あの眼鏡、俺の少年という油断の武器を使わせないでいやがったか。これじゃ強行突破するしかないじゃねえか」

 鳳凰はやや切れ気味であった。相手に警戒心を与えることなくゲームを始めることをウリにしているのに、ジャッジメントのお陰で台無しになってしまったからだ。

「どれだけ多くの人間を殺してきた?」

 金成は鳳凰に問う。

「分からないね。もうどれだけ殺したのかなんて覚えてないよ。最初は小学校の頃かな?クラス全員殺したよ」

 嬉しそうに答える鳳凰である。

「屑が。やはり王に纏わるものたちは生かしてはおけねえ」


スキルマスター発動:ライジングサンダー


 全身を雷に纏った。

「おお、それが銀行での騒動を起こした能力だね」

 鳳凰は常に武器を持たない。持っているのは大きなキャンディーぐらいである。

「金成気を付けろよ。相手に触れられたら発動してしまうぞ」

「ヒット&アウェイでいくさ」

「そんじゃあお兄さん達、俺と鬼ごっこしよ」

 ニコッと鳳凰が笑みを浮かべた瞬間、鳳凰が動いた。

「かなり速いぞこいつ」


スキルマスター発動:テレポート


 渋谷に触れて、渋谷を先に飛ばした。次いで自身は雷で応対した。鳳凰もかなりの速度で蹴りを入れてきた。

 それを交わす。鳳凰の話では最初に手で触れて、鬼ごっこをしようと言ってくる。足が触れた場合も発動するのかは分からないが、相手の手には要注意しなければいけない。

「しかしさずがにSランクってだけはあるな。動きが明らかに王直属の戦士並だな」

「人事を尽くして天命を待つ」

 できる限りの努力をしたら、あとは成り行きに任せる、そういいたいのだろう。

「戦いはいつだって非情」

 互いに力量を探り合う。渋谷は2人に近づかないようにする。

「金成はどう攻略をするんだ?長期戦は俺たちだって望んでいない。この後に秋葉王が控えているかもしれんのに」

 

 金成にも余裕はなかった。先程の夜叉との戦いもSランクとの戦い、そして今回の鳳凰戦もSランクとの戦い、秋葉王は恐らくSSランクあたりは覚悟しておかなければいけない。これではボス攻略の前に力尽きる勇者のRPGゲームでしかない。リセットボタンのない、一度きりの人生にどれほどのお金と時間を掛けなければ達成できないのかは、もはや論じるよりも苦難に示す以外に術がないものである。

 ここまでの道のりに割いたものは自身のスキル向上、量の多さ程度。しかしパーティースキルとして武器防具、ボス攻略のための得意不得意の魔法、そういったものを無視したらどうなるかは今まさに、現在進行形での体感を自ら実施する羽目になっている。

 それでも、この戦いはいつかは誰かが始め、誰かが終わらせなければいけない。この東京国で生き抜くためには政治への介入だけでなく、自分の身は自分で守れるだけの力が必要なのだ。


 1億人の幸せは実現できない。1,000万人の幸せは実現できる。だからこそ金成は自分の持つ「自持思想論~2つの世界」の本は「私の本はあなたに力を与えることができない」と称している。最初から1億人を対象にした「思想」ではなかったからである。

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