第2話:金成
「おい金成、どこにいくんだ?」
そう呼ぶのは親友の渋谷である。彼とは幼い頃から親しい中である。兄弟のように仲が良く、いつも決まった基地で遊んでいた。
それは今も変わらない。
「だから今から秘密基地に行くんだ?お前も来るか?」
振り向き様にそう言って背中を向けた。
「もちろんいくに決まっているだろ。それよりなんか嬉しそうだな。何か良いことでもあったのかよ」
そう顔を顰めながら近づく渋谷であるが、金成は
「別に何もねえよ。ただいっちょおもしれえことやってみてえなって思っただけさ」
「なんだよそれ」
頭の上に?を描く渋谷であるが、とりあえず基地についていけば分かることだろうと思い、渋谷はついていく。
険しい森の中、太陽が出ていなければ迷ってしまいそうな小さなジャングルのような場所。木々は折れ、それを誰も直すことなく、ただ木々は折れ果ててしまい、虫が湧き、茶色から灰色へと変わり果てた何十年何百年も立つ木々がそこに横たわる。誰もがそれに目も向けず放置されていた。
東京国は都会なイメージがあるが、実はこんな山が存在していたのだ。
そこにはよく自殺者も身を図る程の処で、たまに土の中や木に吊るされた白骨化した死体が並べられていることもしばしばある。
そんな中に入ること小一時間が経つ。それほどまでに迷路となっており、誰もその場所に辿り着けず、唯一その場所を知るのが金成と親友の渋谷、それに原宿や池袋と言ったところである。
基地は洞窟の中である。そこにはちょっとした寝巻やすだれのカーテンなどで仕切りをされており、中には薪が置いてあり、焚火が出来る。
近くには川が流れており、そこでたまに魚が釣れたりして、食事を取ることもある。
サバイバルにはまさに持って来いの場所である。
そこに二人が洞窟置くに入り、蝋燭に火を灯す。ゆらりと二人の影が光に照らされ、洞窟の天井に犇めく。
「金成、そろそろ聞かせろよ。何でまたこんなところに集まったのさ」
「実はニュースを見てな。大阪国が京都国を支配したんだ。でもそれを誰も覚えちゃいねえ。二つの国の境が無くなり、あたかも昔から一つみてえにだ。渋谷、お前は覚えてはいねえのかい?」
薬指で耳を穿りながら渋谷は左横を無性に見つめ出し、思い出すかのように答えた。
「いや、俺は最初からあの国は一つだったように思えた。国にしてはやけにデカイなとは思ったよ。まあ北海国なんてのも存在するぐらいだから、中央付近にあんなでかい国があってもおかしくないかな、なんて思ったりはしているよ。何でそんなこと思うんだ」
仕切りに金成を見つめたが、表情が険しく、しかし青ざめたような身震いをするような何とも言えぬ表情であった。こんな金成を見るのは初めてであった。彼の身に何があったというのだ。
金成は至って落ち着いている。しかし瞳の奥には何か禍々しい光が宿っている。何か野望を抱いているかのようであった。
金成が口を開いた。
「おそらく相手国の王を討伐することにより、自国の領土を広げられる。しかしそれは何故か人々の記憶から消されていく。まるで魔法のような神の御業だ。しかし俺にはその記憶がある。その理由はなぜかは分からない。だからこそ俺は知りたいんだ。何故人々の記憶からはその世界の理が消え去ろうとしていても俺自身はなぜその記憶が残るのか」
渋谷はなるほど、と頷いた。昔からの親友であり、ちょっと変わったところがあることも重々承知の上である。腕組みをしながらうんうんと頷く。
しかし彼に答えは見えてこなかった。こいつの父親は至って普通だし、どこにでもいる銀行員だ。何か特別な血筋というわけでもあるまいし、母親も普通の薬屋だ。自営業を営んでいるし、何も変わっちゃいねえ。
だが、こいつの思考が既に何か別の者に支配されているようにも思えるが、俺の思い過ごしであろうか。いやしかし、昔からこいつは変わり者であった。今回もきっとそうだろう、そう考えたのである。
外の日が落ちてきた。辺りが暗くなるにつれ、外も肌寒くなってきた。丁度夏が終わり、秋に差し掛かる9月頃である。
金成はおもむろに呟いた。
「この世界では一人一つのスキルが身に付くんだよな?俺って強欲なのか分からないが、能力は多いに越したことはねえ。だからスキルを一つ覚えるならばそれは「スキルマスター」を目指したいと思うんだ」
渋谷は目を点にした。
「お前まじかよ、そんなこと出来ると思うか?系統なんてのも多く存在するし、いちいちそんな多くの能力どうやってメモリーするんだよ。無理に決まってるだろ、超人じゃあるまいし。一国の王ですらも能力の上限は限られているんだぜ?俺ら凡人にはせいぜいスキルが身に付いても戦闘系のスキルが身に付くかもわからんし、対人においては王直属の十戒、そして側近の『東西南北』4人の王最強の盾が王の周りを守っている。彼らのような特別なスキルを身に付けない限りは、そういったメモリー能力も無理なんじゃねえのか」
呆れた感じで渋谷はそう話す。しかし金成は
「確かに俺みたいな凡人には難しいかもしれない。しかしやってみないことには何も前には進まないだろう。まずは鍛錬してみるさ。そしてそれをどう使いこなせれるか、やってみるさ」
金成はそれ以上は語らなかった。自信と不安の狭間でそう確信していたのだ。渋谷もいつもそういった蟠りに付き合っている。長い付き合いだ。応援してやるか。そう渋谷は思ったのだ。
この日は明朝まで共に過ごした。寝巻は2人分あったので、寒さを凌ぐのには困ることは無かったのだ。
朝日が差し掛かり、鐘の音色が森の中にまで聞こえてきたのだ。
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