第15話:秋葉王
東京国中央区。周りを壁で取り囲み、中の敷居は兵隊の中でもさらに幹部クラスでなければ住まいすら許されぬ居住地。その住宅に連なる500棟の中、一際目立った聳え立つ山のような台地。その上に国王陛下の住まう居城が建つ。
かつての政治経済は終わり、国王の生業をモノとする完全なる制度。王に貢ぎし者はその1割が貴族となる。その過半数を占めるものが農民、つまり街の市民。かつての奴隷制度程疚しいものではないが、それでも納税義務は既に国民の所得40%は課せられている。まさに彼らは生かさず、殺さずの合間を彷徨う守銭奴とされているのであった。
「秋葉王の帰還成~」
突如城門が開口になり、橋がかけられた。
周りには川が流れ、その鎖に繋がれた橋を下さなければ馬は愚か車すら走らせることは出来ないのだ。
現在の経済成長発展途上の最中、この城のゲームの世界を彩る風景、言わば首都を中心とする東京国の風景に些かそぐわないモノとも取れる。言わば古代、その他ゲームの世界に君臨するかの如く、その例を厭わない古城である。何故王がそれを好んだのか、それは彼の「性格」であり、「癖」である。彼の出身は元々「ヲタク」の街と呼ばれるところであった。彼は幼少期をそこで過ごし、何時しかその世界の魅了に取りつかれてしまい、現代にまで至るものであった。
「王様、奥の部屋にて会食のご準備整っておりまする」
彼はタキシード姿の執事である。白髭が自慢の、シルクハットを時折被っては右手の白い絹手袋を召された状態で高々と取り外しては、深々と頭を下げるのであった。
「ご苦労」
王は奥の部屋へと進んでいった。
長髪、眉は太く、整っている。顎髭も立派。
目の奥に宿る獣の、常に殺気立てた眼差しは常に相手にではなく、未来永劫を見据え、彼は律儀な上この上なく、負けず嫌い。その中で尚且つ数多にして難癖付けることなく、それでいて不可思議な行動を取ることは、彼にとっての生涯のパートナーとも言える「ソレ」との孤独なる戦い。
いかなる時も主君に乞うを及ばず、微塵にも彼は一切の時間の躊躇も厭わないものである。
「執事、例のモノ達をここへ呼べ」
「かしこまりました」
執事は仰せのままに、王の元から立ち去った。そして近くにいた衛兵に指で指示を出し、自分は急いで給湯室へと向かったのであった。
そこには給仕を担当する中年の女が白いエプロンとマスク、帽子を被り、王の食事を手配する幹事長であった。
すぐに例のところへと案内が入り、執事はいよいよ慌ただしい。
王が晩餐を終えること数十分後、その手配は慮りに施され、次第に足音が大きく城内の滑走路を甲殻なる靴の音が其々に響き渡るものであった。
「お呼びでしょうか?陛下」
そこに一斉に立つ10人の戦士。彼らは王直属の戦士「十戒」であった。
阿修羅、夜叉、伊弉諾、伊弉冉、素戔嗚、天馬、美姫、天照、月読、卑弥呼。
彼らは王直属の戦士達である。
さらに彼ら10人が仕えし、各4つの境を分かち合う首都の其々の支配者「東西南北」王の鉄壁の盾と成り得る4人の猛将の存在。
東部を任される「鳳凰」
南部を任される「入道」
西部を任される「牟田」
北部を任される「昴流」
彼らは中央の古城を守りしもの。Aランクを超える盾と成り得るものである。彼らは一戸団体をも攻め落とす程の実力の持ち主である。
一概に戦場に出ることは無く、その殆どが守りに徹する。
殆どの役目は十戒が担う。それが今日までの東京国の戦術戦略のシステムとなっている。その頂点に君臨するのが現国王の「秋葉王」である。
「阿修羅よ」
「はっ」
阿修羅が一歩前へ出た。右上でを心臓の高さに置き、そのままの姿勢で話を聞いた。
「先日国会議事堂地下に隔離していた例の男だが、奴が脱走をしたそうだな」
「兵の話によると如何様で御座います」
「何故奴は今まで措置に滞っていたのだ」
「奴は絶望していました」
「この国にか?」
「そのようでございます。奴は恨みこそはありましたが、徹底的に外界に出ようとは思いもしない処遇にございます故、何者かが助長したのではないかと推測致します」
「しかしあそこには表門が一つ、そこには兵が三交代制、知能ロボが15体程位置すると記憶して居るが、それらを搔い潜るには至難故、至極当然の真っ当なる理由で奴とそれに手を貸す手練れの追跡は見境なく不可能に近い処遇であるか?」
「録画されていたカメラで気配も追ってみたものの、何一つ微細の変動も御座いません故、奴の失踪は未だに未明且つ、このことは既に国全体にトップニュースとして既に漏洩極まりない中、それの対応に追われています」
「やつの家族はいるのか?」
「現在調査中であります」
「割り出したら刑に処せ。拷問でも尋問でも好きにするといい」
「はっ」
「そしてそいつから聞き出せ。王に立ちはだかるものは如何なるモノも罪と罰が下るのであることを。国民に知らしめるがいい。反逆は確固たる処遇に断ずると」
「御意」
そのまま阿修羅は頭を下げ、下がった。
美姫が前に出た。
「秋葉王、相手は1人でしょうか?」
「賊は複数名で動いているというのか?」
「いえ、いくら賊が魔物の味方だとしてもたった一人で乗り込んできますでしょうか?万が一戦闘が避けられないようならば、それぞれのフォーメーション、攻撃、防御、補助、回復。これら4点の視界は万物の戦闘経験にそれらが故に当てはまります。最低4~6人で助けに入ったと思うのが一番でしょう」
「解せんな」
「何がでしょう?」
「一番の理由はなぜ今脱獄したのかだ?目的はなんだ?」
「分かりません」
「復讐ならば結構。お前達の中で仕留めることが出来たものに褒美を与える。金貨10枚だ。(この世界での金貨10枚は1億円に匹敵する。つまり掛けられし賞金首は1億円)必ず捕まえてこい。」
「御意」
10人が一斉に立ち去った。
王は肘をつき、手に「ミルクココア」を持ち、それを啜った。
いつの間にか給仕の中年女が王の元へと運んでいた。話の後の王は喉の潤いを訴えるが、それは屡リラックスすることも求めることと、昔から好んで飲んでいたことからも王は「不動の精神力」と宥められることがあったのであった。
金成達の知らぬ間に、既に国の歯車が動いていた。
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