第119話:自持思想論④
祖父が書いた本『自持思想論~2つの世界』は目に見える世界と見えない世界の2つについて論じている。特に自持思想論第14小節に「お金に関すること」についての記載があり、それについては資本主義のことについても描かれている。だが、お金の魔力にかかったものにはそれ相応のリスクとリターンが生じ、やがて費用対効果が生まれることも記載されていたのだ。
お金に流されてしまう。収入に流されてしまう。役職につきたい、でも仕事量が増える。そんな日々、本当に望んでいるのか?しかし、断れば人事で不利になるのではないか?生活に不安がある、仕事を失えば家族を養えなくなり、路頭に迷う。
日本国全体が既に混沌となりつつあり、持つべきものは努力をせずとも、資本格差社会によって優位性を持ち、貧困層は少ない椅子を取り合う「椅子取りゲーム」に参加せざるを得ない。
生への執着。だが、先日ある1つの決断をした男がいた。今の職場環境に流されていては、このままではいつか自我を失い、判断力を失って自殺するかもしれない。そうなる前に、自己啓発として、以前学生時代に「メンター(師)」であった心理学者の本を手に取り、漫画形式であり読みやすく、そして久しぶりに感動をしたのを覚えたのだ。
「世界は広いな」
そう感じた。男は決断をし、人事部に異動のメールをした。幸いにもすぐに電話連絡がきて、取り繕ってくれた。勿論担当の上司にも何があったのか事情を説明していただくべく、連絡のやり取りがあり、男は職場環境を変えることに成功した。
ブラック企業でないという心からの信頼、会社への信頼、そして上司への信頼。
自身の決断力、判断力がまだ鬱になっていない状況であれば強固としてゆるぎない覚悟を持って挑むことにより、自身の人生を取り戻した。
それこそが「自持思想論」の醍醐味である。ただの宗教染みた名前を売っているだけではない。あえてこの名前を打つことは、怪しい意味を持つかもしれないが、分かる者には分かる。それが祖父の願いでもあるのだと、金成は悟ったのだ。
金成は静まり返った。
「さあ、金成。近くに来い。金は目の前だぞ」
「はい、秋葉王様」
金成は下をうつむきながら、トボトボと歩き、秋葉王の前に行く。
「ダメだ金成、目を覚ませ」
渋谷が声をかけるが、金成に応答がない。
「いい子だ。金成、君に報酬をやるから今すぐあの2人を殺せ」
「報酬は何が貰えるんですか?」
「一生困らないぐらいの金だ。この世は全て金なんだよ」
「金…ですか?」
「おお、もう働かなくていいぞ金成」
金成は下をうつむいた。
「どうした金成?」
「秋葉王、悪いが…」
スキルマスター連携:アリストテレス&グラヴィティ
万有引力により秋葉王の身体を至近距離で引き寄せ、拳に重力をかけ、パンチ力を高めた。
「俺は資本主義より経済民主主義なんでな。金より時間。時は金なりだ」
「何!?」
「秋葉王様!」
執事が振り返り、叫んだが遅かった。既に金成の拳が秋葉王の腹に一撃を入れていた。
「ぐほおおおおおお」
秋葉王は勢いよく吐血した。肋骨が数本折れたであろう鈍い音が城内に響いた。
パンチと共にアリストテレスの逆、「斥力」を使い、勢いよく吹き飛ばし、城壁へと秋葉王は背中を叩きつけられた。
「経営学を学ぶ上で一つ重要なことを教えてやろう。それは心理学。どんな人間にも心の悩みというものがある。そこにつけこみ、詐欺師は騙し取る。あんたは過信しすぎたようだな。俺が数多くの能力を手に入れていることによって、資本主義者であると。だが生憎俺は資本主義はただの名刺交換レベルにしか考えておらず、本当の欲しいものは金ではない別のモノだ。つまり俺の欲するものは目に見える世界には存在せず、目に見えない世界に存在するもの。それがスキルマスターの根源であり、経済民主主義を掲げる俺の力、基本理念は昔から決まっている」
ローリスク・ハイリターン
どれほどのリターンを得ることができようともリスクが高ければ絶対に応じない。例えば「あることを10秒間耐えれば1億円差し上げます」と言われたらどう考えるだろうか?たった10秒で1億円は怪しいと感じるか、10秒ぐらいなら平気と考えて1億円を取りに行くかの違いである。
ちなみに内容は「電子レンジの中に10秒間入ってもらう」という10秒生身の人間が電子レンジの中で生き抜くことができるのかどうかという実験だ。パン袋などを10秒温めるだけでも既に高温を出すあの電子レンジに10秒人が入って果たして無事で済まされるかどうか。最悪命をも奪うであろう。
それでもやるかどうか?1億円に目がくらんでしまう人間は、10秒間電子レンジに耐えるというリスクを考えずにやってしまう。
だから学歴重視で「一流大学」を目指す者、将来の為に「資格取得」をするもの、今が楽しければいいと高校を中退してバイクで爆音を深夜に鳴らすもの、高校生同士でセックスを楽しみ妊娠してしまうもの、就職後に大企業に勤めた者の3日目でバックレたもの。全てがリスクとリターンの繋がり。そして時間とお金のバランスを考えていないからこその結果としかいいようがなく、それを国が悪いということの原因にしているのが今の若者の現状だ。
「リスクが高けりゃとらねえよ」
金成は鼓舞した。
「俺は自分自身の力で解決する。あんたからポケットマネーなんかもらったところで、何の喜びも感じやしねえ」
「ならば協定決裂だな。げほげほ」
血を吐きながら秋葉王は立ち上がる。
「よもや政治家達ですら踊らされるアキバミクス第1の矢「金融政策」が通用せぬ小僧がおろうとはな。全く金目のないやつがやっかいなスキルを身に着けると後々やっかいだ。だがしかし…」
秋葉王はにやりと笑みを浮かべた。
「ならばその心意気、試してやろう。アキバミクス第2の矢をもってしてな」
アキバミクス第2の矢が初めて始動される。
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