第120話:アキバミクス

 アキバミクス第2の矢は「機動的な財政政策」となった。

本来であれば王国側が財政を支出し、道路や医療の公共料金を提供し、税を増減させることにより格差の無い社会を生み出し、誰に対しても平等に設けることのできる政策の一つであるが、実際のこのアキバミクス第2の矢は少し違った。

 第1の矢が「金欲」であれば、第2の矢は「愛」であった。人間は誰もが愛を求めている。親は選べない、教師は選べない、上司は選べないなどよく聞く言葉があるが、そこの弱みに付け込み、人間をマインドコントロールし、我が主君に収める力。ほとんどの人間は金の魔力に溺れ、たいていは堕落してしまう。しかし、まれにお金に価値がない者と判断したものもいるのが十人十色の世界である。色々な文化、宗教が存在し、価値観の違いなども存在してしまう以上、お金だけですべての人間を縛ることは到底できない。

 では第2の矢はどうやって人間の心を縛るのか?それは誰もが欲する「愛情」である。この愛情をもってして、相手の心の中に悟りを開かせ、自尊心ある強い兵団を築き上げるのが秋葉王の国家戦略の一つであった。


「愛情か…」

 金成は呟いた。確かにこれは少しまずいかもしれないと考えた。

お金というものはそもそも経営者から貰うものではなく、自ら稼ぐものと考えていた為、お金に溺れることはなかった。しかし純粋な高校生であれば、周りが同級生と付き合っていたりすると、嫉妬するのは珍しい話ではない。そこに愛情があるかどうかは置いておいて、恋愛の一つに興味が無いわけではないので、こちらについての克服策は特に考えてはいなかったのだ。

「第2の矢は受けない方がいいのかもしれんな」

 攻撃される前にケリをつけたほうがよいと金成は判断した。


スキルマスター発動:ライジングサンダー


 全身を雷で覆う、そして勢いをつけ攻撃を繰り広げる。

秋葉王は剣を取り出した。

「私は何もスキルだけに頼ってきているわけではないんだがな?」

 剣を振りかぶり、斬りつける。太刀筋が見えない程の速さ、居合などにおいては達人クラスと言ったわけか。

 金成はぎりぎりで交わし、頬を少し霞め、血が流れる。

剣を構える秋葉王に対し、ぎりぎりと間合いを詰めていく。


スキルマスター発動:ジャッジメント


 札に何かを書いている。

「秋葉王、あなたはこの札をつけられたら一切自身のスキルを発動させることは禁止とする。従わなければ全身麻痺を引き起こすだろう」

 視覚と聴覚は成立した。後は秋葉王につけるだけであった。

「何の冗談だい?そんな札で俺の行動制止できるっての?」

「試してみるか?」

「いいや、茶番に付き合う暇などない。それよりこういったものはどうかな?」

 秋葉王は銃を取り出した。やはり裏社会にも繋がっている国王ともなれば、簡単に兵器を取り出すことも可能というわけだな。

 発砲するも金成の雷の速度であれば十分に交わせる速度であった。究極の両目は使わなくとも、まず当たる心配はないと踏んだ。

 少しずつ間合いを詰め、王手を指す。それで王の動きは制限されると考えた。

天井にはりついたり、壁を蹴っては近づいては逃げ、ヒット&アウェイを狙う。

「身のこなしも素晴らしいな。余程あの札を俺に付けたいのだろうか?」

「電光石火」

 速度を一気に雷速度にまで上げる。さすがの秋葉王もついてはこれまい。

秋葉王はにやりと笑った。

 なんと銃口を片隅で見ていた渋谷に向けた。

「お前に仲間を見捨てられる覚悟はおありかな?」

「しまった!」

 金成は急いでジャッジメントの能力を解き、テレポートしようとしたが、間に合わない。


パン!


 渋谷を目掛けて発砲。そこを金成は自身を盾にした。いくら雷の鎧を纏っていたとしても、金成の能力ではまだ、完全な鎧には出来ておらず、体は弾を貫通させた。

「ぐほぉお」

 金成は血を吐き、体からは大量の血を流す。

「金成ー!」

 渋谷が叫んだ。


スキルマスター発動:フェニックス


 鳳凰の力を使うことにした。これがなければ正直危ないところであった。しかし回復に少し時間がかかるようだ。その隙を秋葉王は逃さなかった。

「アキバミクス第2の矢始動:愛情に溺れよ」

 矢を放ち、再生している金成に目掛けた。金成はその矢を喰らい、息を潜めた。


 愛情。これは自分で手に入れるものと違って他人から貰うもの。俺は母親に愛されていたのか。ふとそこからの疑問に入るわけである。

 生まれはそう、薬局からの始まりだ。母は家にいなかったことはない。つまり母親から愛情が無かったわけではない。元々俺は愛されていないわけではない。つまり、俺は愛情を欲するまでも無く、既にいただいていたと過程してよい。

 歪んだ愛情でもなければ偽りでもない、これは紛れもなく本物であった。金成の頭の中の確信は近づいて行った。

 しかし、ある出来事が思いを巡らせた。


 初恋のあの人に…手紙を下駄箱に送り、そして振られた。

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