第37話:蜜柑
自持思想論第10小節において「100円のみかんを100万円で売る方法」という記載が書物に転じてある。次のようなことが書かれていた。
「果物のみかん、値段はいくらか?
区切りよく100円と考えているが、その100円はどこから来たのか
おそらく大衆が最も手頃で手に入る価格としたのだろう
なぜならみかん自体、生産地は様々で市場にモノが溢れている
もしそのみかんを手にしているのが日本で自分だけだとしたら
そのみかんを一体いくらで売るだろうか?
1,000円で販売しても売れるのであれば1,000円で売るに越したことはない
もしくはみかんをお金に変えることだけでなく、別のモノに変える
つまり物々交換だ
ポイントはモノを「お金」に換金しないこと
もし1万円札に換金したらそれはもう価値は1万円でしかなく
それ以上に増えないからだ」
金成は1,000万円を入手することは限りなく不可能であった。しかし彼に勝算があったのは以前千鶴婆さんから受け継いだスキル「デスティニー」を使うことにより、その者の運命を知ることが出来る力を隠し持っていた。つまり、このことにより薬を使用する相手に果たしてその効能が有効であるかどうかが事前に分かる。
後は簡単であった。ビジネスの世界に於いてもっとも有効な手段は「交渉」であった。医師にとってもこれは嬉しい誤算であり、病院そのものの信頼を落とすことなく、患者の容体を正常化することに繋がり、結果としてこのことは内密にしていただくことを条件に「新薬」を金成に渡したのであった。
所詮はみかんと同じである。欲しい人は1,000円であろうが10,000円であろうが、たとえ100万円であろうがそのみかんを欲しがるわけである。ただしモノが溢れている時代に於いてはそれは難しいわけだが、現在未来の情報を知ることが出来るのは金成のみであるが為、彼に依頼するしかない状況に於いて価格決定権は彼に委ねられているのである。
金成は経営に於いてもかなり有利な状況で相手との交渉を進めることも容易なことに過ぎないのであった。
「断じて行えば鬼神もこれを避く」
金成は水を飛ばしながら渋谷にそう言った。
「なんだって?」
渋谷は炎で応戦している。炎VS水の戦いである。
渋谷の炎の攻撃をどれだけ水でかわしていけるかであった。
スキルマスター発動:ウォーターフール
金成の全身が水に包まれつつある。
それを放つ。それに対応して渋谷は炎を自身に包み込み、フレイムダンスを舞う。
水の前では炎は無力でしかないだろうか?果たしてそんなことが言えるかどうか二人は実践にて各々の能力の改革を枷に獅子奮迅しているのである。
「強い意志をもってやりゃ鬼だろうが神だろうが道を譲るんだよ」
水鉄砲を連射している金成であるが、炎は消せるものの火力が高い場合は水が一瞬で蒸発してしまうのである。渋谷の炎の精度も上がりつつある。
「成程な、これは失敗するだろうという弱い意志ならばその思い通りの残念な結果を招くだけという訳か」
「そういうことだ。自意識過剰になれとは言わないが、弱腰な姿勢で挑んでも成功なんて道はないんだぜ。ゲームでもビジネスでも恋愛でもな」
「でもそいつにその意志があっても力が無ければ意味がねえだろ。ただ根性だけで突っ込んでいっても燃え尽きるだけじゃねえか?」
渋谷の火柱を前に金成の水が止まる。
「喋ってるのもいいが戦いに集中しねえと火傷するぜ金成。ウォーミングアップとはいえ、お前の能力を高めるための修行なんだから手加減はしねえぜ」
「そうこなくちゃ面白くねえよ、俺はこの水だけでお前に勝つ。他の能力でカバーするのもあれだが、水が炎に負けるわけにはいかないからな。互換性にも程があるんだからよ」
「鬼神は避けても俺は避けれねえかもしれねえぜ」
「あほ言え。さっさと大技かましてこい」
渋谷が祈りを捧げた。炎の騎士を呼び寄せる召喚魔のような呪文である。
金成も水に力を籠め始めた。精霊を呼び寄せる勢いだ。
「いくぜ金成」
「かかってこい渋谷」
スキルファイヤー:炎の紅蓮騎士
スキルマスターウォーターフール:水龍
金成と渋谷の互いのスキルのぶつけ合いであった。
炎の紅蓮騎士は大きさ15m程であり、金成の呼び寄せた水龍は伸長30mほどであった。水龍が渦を巻く如く紅蓮騎士の辺りを水に包み込む。紅蓮騎士は水龍を剣で斬りつけるが体が液体の為すぐに再生する。炎の勢いを水が掻き消すか、先に水を蒸発させるかの戦いである。
金成と渋谷の互いに絞れるだけのスキルに力を掛けたまさに友情の証である各々の能力の批准を高める為の真剣勝負であった。勝っても負けても互いの力量・器は飛躍的促進されることはまず間違いないであろう。そう互いに意識し合うと自ずと戦いの最中2人は笑みを溢すことを余儀なくされたのである。
戦いは引き分けに終わる。互いの召喚魔が同時に消滅した。尽力を出し切る程の大技であるが、息切れはあるものの疲れを微塵とも感じないのであった。互いに握手し交わし、礼を捧げるのであった。
「金成、いきなり手に入れた技なのにもうそんな大技使えるようになったのか」
「わからねえ。思いつきだな」
「思いつきで龍とか出せるものか?」
「分からねえ、ただ十戒との闘いで相手の龍を一度目にし、敗れた。それ以来かな、相手の龍に勝るものを呼び寄せたいという強い思いからかもしれない」
「まさに鬼神をも避くわけだな」
「なんでも成し遂げられるビジョンを描くことだろうかな。次は十戒を前にしても勝てる意志で挑んでみせるさ」
2人は東区のうどん屋で飯を食っていた。
金成はきつねうどんが好きであった。揚げの甘味に魅了され、彼はカップラーメンでも天ぷらうどんなどは食べず、きつねに拘るわけである。
「うどんは美味いな。コシがあってもちもちしている」
「確かにここのうどんは美味い。俺もよくはまっている」
座敷に座って寛いでいる2人である。水が切れた。
「すいません~。お水ください」
「はいはい~」
店員さんが水を持ってくる。それを渋谷が注いだ。
「水ね~。水ってよくよく考えると不思議だよな」
渋谷が水を飲みながら呟いた。
「どうしたんだ急に?」
金成が疑問に思った。
「だってさ水って形がないじゃないか。色も無く、透明。しかしそこに絵具でもなんなり入れてみな。色は赤にも青にも変わる。しかしその水はもう飲めない。無害から有害に変わる。味も場合によっては変わる。しかし人間の口にしていいモノと混ぜ合わせると水はこんなにも美味しい出汁に変わる。うどんの出汁と同じくな。しかし炎は混ざり合うことは出来ない。間にフライパンだの鍋だのを置くことにより水をお湯に変えることも出来る。水って不思議だなって思うよ。この水が無ければ人間は生きていけないんだなって思ってな」
「まあ本来の水の役目は生きていくための手段だからな。それだけじゃないだろ。洗濯にも使えるし風呂にも使えるしな」
「なんだか水の哲学みたいになってきたな」
「くくく」
2人は笑いあった。何をそんな今更水のことで議論をしているんだと。
しかしこの世の摂理では水というものは不可思議なものであることは事実である。水は形を持たないし、液体から固体へ、そして気体へと変わることも出来る。
ウォーターフールを手に入れてから2人の水への関心が高まったのである。
「こら、食事中にお外に行ってはいけません」
「だって、レアモンスターが逃げちゃう」
「危ないからこっちいなさい」
ぷくーっと膨れるのは小学生4年生ぐらいの男の子だろうか。手にはスマホ、ゲームは以前金成も参加したイベントのものだろうか?
カプモンDAであった。世間では飽きやすいということからも人々はだいぶアプリをアンインストールしたが、それでも根強いファン客は多いという。最近のアップデートで新モンスターが続出し、カプモンに於いても「第一世代」や「第二世代」というものが分かれるのであった。
プレイしていた若者のほとんどがカプモンの第一世代であったが、最近「第二世代」がプレイしていた頃のモンスターが出現するようにもなったのだとか。
今の子供たちに於いては何世代なのかは不明であるが、いつの世界に於いてもその世代に流行ったブームやゲームなどが存在し、それを懐かしむべく大人達がゲームの世界で別の自分を演じていることも屡あるのである。
「ビジネスも不思議だよな」
「ん?」
「一度ヒットさせてしまえばさ、ゲーム機など変えたりキャラデザインなど変えたりすると絵は微妙に違うようでもヒットが生まれるんだもんな」
「まあ確かにな」
「新しいキャラクターなどは出なくてもその愛されていたキャラやモンスターがどういう登場の仕方をするかによってそれがまたヒットしたりするもんな」
「まあ問題はどの世代に於いて人気なのかにもよるよな。団塊の世代、バブル世代、ゆとり世代、さとり世代など今はもうなんだよさとりって・・・」
「何をどう悟るんだっつうの!」
ゲラゲラと笑いまくりの2人に対して周りの目線は冷たかった・・・。
その頃、東京国中央区に於いて。秋葉王の築く牙城にて。
「速報!秋葉王様はいらっしゃるか?」
衛兵の一人が息を荒げて走ってきた。甲冑の音がギシギシと喧しいが、しかしそれ以上に喧しいのは息遣いであった。おそらくこの身なりにして全速力で走ってきたのであろう。中々アニメの世界に混沌を置いているだけあって、時代風景に似つかない姿である。
「何事だ?」
黒タキシードの執事がお通しをする。
「すぐに報告したいことがある」
「先に言え」
「千葉王国が我が東京王国に宣戦布告を出してきた!」
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