第45話:浦安

千葉国の浦安の物を宙に浮かせ、それを対象者に向けて武器とする能力「スカイウォーク」は非生物対象であれば動かすことが出来る。

成田の呪術は主に非現実世界の否定だ。具現化したものや魔法は一切無効となる。化学兵器や武器の前ではその能力は意図を伴わないが、いずれにせよ魔法使いとの戦いに於いてはかなり厄介な存在ではある。


それに対し、東京国王直属の戦士十戒の阿修羅はテレポーテーションを使い、瞬間移動能力を持つ。

素戔嗚は神話の竜「八岐大蛇」を具現化する力を持つが、成田の前では無効化される。

いずれにせよ曲者同士、Aランク同士の対決となると周りの建物などの崩壊は到底免れないのである。

一斉に隊長達も危機を感じ、兵士に避難勧告を出す。

この戦場に立ち会うならば、命がいくらあっても足りないからである。


ビジネスに於いてもそうだが競合店との闘いに於いて当然顧客から注目されるのは「商品の価格」である。いかに値段が安いか、もしくは税抜き・税込みであるかも多くの店の広告を確認し、それを主婦は買い求める。そんな中ポイントカード〇倍というものや〇%オフの日、シニア割引、ジュニア割引など数多くの販促が繰り広げられ、その中で顧客の奪い合いが行われる「レッドオーシャン」であるが、当然固定客からの支援を受けられなかった企業に於いて、生鮮食品がある店は廃棄を促され、それは実質店舗のマイナスにも成り得るのである。

またファッション業界に於いても夏物冬物などシーズンが過ぎ去った時、それらはほとんど半額セール以上に陥る。期間の終焉、まさに女性の大敵「クリスマスケーキ理論」成らざる「年越し蕎麦理論」も然りであった。


勝者が生まれるならば敗者も生まれる。

それが戦いというものだ。戦いは常に利益の温存、キャッシュフローが決めてとなる。成田と浦安、阿修羅と素戔嗚両者の戦いは先程も述べた「レッドオーシャン」にて行われる上下関係の無いギリギリの死闘を求められるわけだ。


「素戔嗚」

「なんだ?」

阿修羅の呼びかけに素戔嗚は応える。

「銀行って相手に融資をする時、何を見ますかね?」

「そりゃあ、社長がどういう人物であるかとか、結婚していてリスクを伴わないかなどじゃないのか?」

「いえいえ、それもそうですが」

「なんだよ?」

「決算書みません?」

「まあ会社の経営によって倒産しないかどうかは重要だよな」

「粉飾決算という不正会計に働く企業も存在するのは事実ですが、大抵そういった企業は心に闇が出ていますね」

「つまり?」

「正しくないというわけですよ。嘘つきのね」

「それがどういう関係性伴ってるんだ、この状況と」

「さあ?」

「なら無意味な質問するんじゃねえ」

阿修羅と素戔嗚が構えた。


「成田、気を付けなければいけないのはやはり阿修羅だ。奴の瞬間移動能力はお前の呪術でも防ぎようがねえ。あれは俺の能力で近づけさせないようにする以外に方法がない。しかし素戔嗚の八岐大蛇は俺の技でも防ぎようがない。あいつが能力を使った時はお前が抑えるしかない」

「了解した。しかし俺は何も呪術だけが取り柄ってわけでもないんだがな」

「ああ、あれ使うんかい?」

「そうだ」

「ならちょっと耳塞いどかないとな」

浦安は耳栓をした。成田が何かを仕掛けようとする。

「そんじゃあやりますかな」


阿修羅が動いた。

素戔嗚は自身の能力が成田の前では使えないことを考え、接近戦にて浦安に挑む。

浦安はナイフを10本手元からだし、それを地面に落とした。

それと同時にナイフが動き出し、それを阿修羅と素戔嗚2人目掛けて襲い掛かる。

阿修羅は自身のテレポートでそれを難なく交わす。素戔嗚は剣でそれに応じる。

「あれが素戔嗚の十束の剣か?」

浦安は素戔嗚の名剣を見ていた。

「まあな。俺を殺したらこいつはお前にやるよ」

「ふーん。まあいらねえけど」

瓦礫や武器など次々と宙に浮かび始め、攻守を浦安がこなす。

「近づけば蜂の巣になるぜ」

ぐるぐると円を描くように守りを固め、離れたところにいる2人を攻撃する。

阿修羅は華麗にそれを交わし、飛んでくる剣に賺さず触れ、

「お返しいたします」

武器を浦安の背後に飛ばした。

しかしその武器も浦安が操っている別の武器により弾き飛ばされる。

「やっかいですねえ、その武器の数々」

「辺り一面が俺の戦闘に於ける道具よ」

「やはりまず叩かねばならないのは・・・」

次に成田に標的を変更した。浦安の能力はこの地理に於いてはかなり有効な立ち位置にいるからだ。

「コンビニなど立地条件は車の出入りがよいところに吸い寄せられると言いますからね。よほどコンビニの種類に拘りのないマニアでもなければ」

「ならお前は出入り困難なところに建てたコンビニか?」

「まあ通い方にもよりやすからねぇ」

「お喋りはそこまでだ」

素戔嗚が成田に突っ込んでいく。

「一頭龍:龍刃」

武器を粉々に砕いていく。

これならば成田にも攻撃が届く。


オオオオオオオオオオオオオオ


突然の轟音に素戔嗚の攻撃が止まる。

「これは」

成田の自慢の呪いの歌。しかし酷い声である。

「集中力が欠けますね」

「立ち止まる暇あるんかい?」

浦安が素戔嗚に標的を変えた。

斧などが次々と素戔嗚の体に突き刺さる。

「ぐっ」

ギリギリで交わしたとはいえ、数か所の傷を負った。

「あの変な歌をなんとかしなければいけないな」

「耳障りですね。耳栓でももってこればいいですが、今は両手で耳塞ぐしかないですね」

「耳でも塞いでな。その間に殺してやるよ」

浦安は両手に銃を持ち、それを阿修羅に放つ。


ドンドンドン


阿修羅のテレポートの前では意味をなさないが、戦闘に於いて埒が明かない。

完全に相手側に攻め立てられており、まるで赤字経営をしているかのようだ。いつ利潤が下回り、キャッシュが回らなくなり、店を撤退しなければいけないぐらいの状況下に侵されるかは時間の問題だ。


「素戔嗚、この状況を解くならばどうします?」

「相手の不得意な販促をするしかないんじゃないか?」

「そうですね、思いがけないような」


物理的攻撃と守り、そして魔法の無力化と雑音による集中力低下。

この難題を熟さなければ、阿修羅と素戔嗚に勝ち目はない状況であった。

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