第44話:富里
金成は3人を集め、会談した。
あまりその余裕を富里は与えてはくれぬが、会談とは重要な要素の1つなのだ。
ある企業はウィークリーマネジメントを行い、1年間で52回会議を行ったと記されている。
それは本部と現場とが共に意見を交換し合う場であり、そして情報が即座に行きわたるからである。当然、全国各地に散らばる「長」を集めなければいけないので、その費用は甚大だ。しかしその甚大なる費用をかさんでも、費用対効果が十分利にかなえばそれは大きな「リターン」を生むことを金成は承知している。
つまり「会議」と言った「コミュニケーション」のツールは、ビジネスに於いても戦争に於いても組織が結託する上では欠かせないことなのだ。
「時間稼ぎ、すまなかったな3人とも」
金成が安堵の息を吐いた。
既に2名負傷してしまってはいるが、まだ戦いは出来る。
「メガネが」
池袋が顔をゴシゴシしながら胸元に入れていたスペアのメガネを取り出した。
渋谷は脇腹を押さえながら顔を顰めている。
「奴の錬金術といい、体術といい、かなり強いぞあれは」
「ああ、だが相手にも影は存在するものだ」
「相手の弱点分かったのか?」
「大きな欠点が存在している。まあ他に何か隠し玉があれば話は別だが、とにかくやるぞ」
4人は構えた。
「何をするか知らんが、遊びは終わりだ。片付けてやるよ」
錬金術により武器を斧に変えた。
「俺は斧の武器が得意なんだよ。切れ味抜群の斬撃を見してやるよ」
頭の上で斧をぐるぐると回している。
「行くぞ」
「ナイトメアスプリング」
辺りを闇へと化した。
「ちっ、またそいつか」
だが容赦なく富里は突っ込んでくる。
「お前らなんか気配で分かるんだよ」
金成と渋谷目掛けて斧を降りかかり、振り下ろした。
金成と渋谷の首が飛んだ。
「よっしゃ、まず2匹」
金成と渋谷の首が地面に落ちたと同時に体ごとその場から消えた。
「?」
富里は途中固まった。
「なんだこりゃ?」
スキルマスター発動:マジカルトリック
金成の分身体が闇の中に潜めきあっていた。
「なめやがって」
次々と分身体の人形を切り刻んでは消していく。
だがその数はどんどん増える一方だ。
「どこだ!!どこにいやがる」
富里は怒りに身を任せていた。
「炎歌」
突然地面から炎が吹き上げ、富里の顔を直撃する。
「あちちいいい」
何と地面から渋谷の右腕だけが飛び出しており、真下から直撃した。
スキルマスター発動:スイミング
金成と渋谷は地面の中にいた。
金成に触れている間は渋谷も地面を海のように泳ぎ行き来できる。
その際に右腕だけを富里の真下からだし、能力を発動したのだ。
まさに連携プレイであった。
池袋が弓を3発放つ。しかし正面から行ったため、たとえ闇の中とはいえ、富里は瞬時に悟り、矢を3本とも砕いた。
「やろう」
「いいか、作戦通り一定の間合いを取れ」
「ああ、分かっている」
金成が3人に指示したのは間合いを取って中距離での攻撃をすることであった。
3人の戦闘にて富里をSWOT分析したところ、富里の錬金術は脅威であるが、どうやら手元に錬金を置かなければ使えない。よって銃や弓と言った遠距離攻撃が難しい能力となっているのが分かる。リーチを最も利かせる鞭を使用してくるのが良い証拠であった。
富里の錬金術は手元から離れることの出来ないことが一つの弱みであった。
そして脅威。これについてはいくつかの事例が存在した。まず1回目の戦闘に於いて金成自身が闇の中で富里の足を掴み、動きを封じたこと。そして池袋の弓が背後からであれば富里の足を貫いたこと。
以上のことから富里のカウンター式錬金術も「死角」からには対応できず、全て視認してから能力を発動することが分析の結果金成の中で瞬時に理解したのであった。
「灯台下暗しだな」
金成はクスッと笑った。
「こいつら4人共各々が間合いを取りながら、そして確実に俺の死角をついてきてやがるのか」
富里は少し冷静になったが、自分の状況がかなり不利であることが手に取るようにわかる。
「こんな時に香取がいりゃあ、こいつら分断して即効皆殺しなのによ。何してやがるんだあいつは」
「おっと他力本願なわけ?」
原宿が富里を煽る。
2刀の抜刀術をものともしない富里であるが、少しずつ息が切れかけてきている。
「この、このぅ」
「所詮自分の身は自分で守らなければいけないんだぜ。ましてや他人の力をあてにしているようじゃな。自分の命が危険にさらされている時に、110番なんて間に合うかよ」
金成がそう言った直後に発動した。
スキルマスター発動:ライジングサンダー
さすがの闇でも金成のライジングサンダーはよく光る。
「てめえの姿が丸見えだぞ小僧」
金成に襲い掛かる富里であるが、
「全員上空にて攻撃を放て」
原宿は自身の刀を投げた。
渋谷は炎を上空に向けてありったけの火力を出した。
池袋は矢を放つ。ジャスティス付きであった。
金成がその上空目掛けて自身の体を3人の攻撃の的になるように近づけた。
「何を・・・」
富里は後ろを振り返り様に上空を見上げた。
スキルマスター発動:トレード
パチンと右の親指と中指を鳴らし、富里と場所を入れ替えた。
富里は3人の攻撃を諸に受けた。
「ぐおおおお」
富里の体からは血が流れ続けた。
池袋のジャスティスにより動けない状態であった。
「電光石火」
富里に近づき、渾身の一撃で顔面を思い切り殴り飛ばした。
富里の頭蓋骨に罅が入るぐらいの勢いであった。
富里は口から血を流し、その場で気を失った。
「勝ったぞ!」
「ああ、俺たち4人の勝利だ」
4人の結束したチームワークにより相手の幹部を一人打ち破ったのだ。
「肉を切らせて骨を断つか」
「まあなかなか負傷しちまったが、随分俺たちも力上がったな」
「ああ、初めて国会議事堂に潜入して武藤のおっさんと闘った時以来だもんな俺たち4人でやったのは」
「渋谷、池袋。怪我は大丈夫か」
「まあなんとか行けますね」
「そうか」
援軍が来る前に4人はその場から立ち去り、次のステージへと向かったのだ。
富里の敗北は過大なる自身への評価。そして油断と弱点の克服を放置していたことであった。強すぎる大人だからこそ、キャリアをものいい、基礎中の基礎である地盤をしっかりと固めていないが為の敗北だ。
一流の戦士はいかなる時も基本を忘れずに「準備体操」など怠らないものだからだ。
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