第47話:美姫

雪が降りしきる中、金成一行は東門へと進んでいた。

「金成、雪が降ってきたぞ」

渋谷が後ろを振り返りながらそう言う。

「積雪寒波だな」

吐く息が既に4人共白くなっている。

「風邪を引かないように」

「金成の家は薬屋さんだったっけ?」

「そうだな」

「こういう時は何がいいんだ」

「風邪を引くのは喉の粘膜が乾燥する時、そして四肢末端が冷えを伴う時だ。手洗い、うがいはウイルスを体内に侵入させない術であって、実際はこの2つの防御機能が低下することにより、インフルエンザやノロウイルスに影響を与える。」

「やべえ、俺冷え性かもしれない」

原宿が鼻をすすりながらいう。

「俺も冷え性、というか鼻炎アレルギーがあるのが困難だ。冷えた時は生姜湯が温まる。高齢者や女性に特に人気だ。だが近年は高麗人参など注目されている。高麗人参はサポニンが豊富だから、免疫力アップは勿論のこと、体の芯からポカポカするので、高齢者にはアンチエイジングでも人気が高い」

「ひええ、よく知っているなぁ」

「まあ、うちのおかんがよくそう言っていた」

雪は4人の体力を容赦なく奪う。

今のところ前方に敵兵がいない為、無駄な戦闘はしなくてよいため、楽と言えば楽なのかもしれない。


一方、王直属の戦士十戒の一人「美姫」が陣形を取る場所において。

「さっむううう」

赤い口紅が際立つ金髪女性、よくお水系と言うオヤジに出くわす度にその身を切り刻んだ棘のある赤い薔薇のような女性、彼女は東京国に於いてトップを占める女性戦士の一人だ。

「おい暖かいコート持って来い」

隊長の一人に指示を出した。

「美姫様、こんな寒波の日に何でそんな派手なドレスきてらっしゃるんですか?」

よく見ると美姫は赤いドレスに身を纏っているだけで、どちらかというとパーティードレスのようなスタイル。これでは寒波の来る深夜の冷感にはさすがの王直属の戦士十戒と言えども寒さを凌ぐことは出来ないのであった。

「うるせえな、女性はいつだって綺麗に見られたいものなんだよ」

「千葉国の敵兵に・・・ですか?」

「うるせえボケ、運命の出会いってのはいつどこであるんかわかんねえんだよ」

これがもしネットの2ch掲示板なら即座に「糞ビッチじゃんwwww」や「DQNのヤリマン」だとか「ヤンキーカップルにいそう」など書きたい放題、それを自重することなく、オープンにしているのはやはり彼女が低能だからであるのか、それともこれは女優としての演技力なのか、いずれも女子力に関しては落とそうという意志は無く、戦闘に於いても華麗に美しく舞うつもりなのだろうか。

しかし既に敵陣は周りにいるにしてもこの緊張感の無さは一体どこから彼女のその余裕さがあるのか分からないものである。

大学4回生が就職活動中、まだどこの会社からも内定を貰えず、3月の卒業間近まで迫っている状況でのんびりしたことを言うのと同じと考えた方が道理なのか定かではなかった。


ギロッと鋭い眼差しを闇の空へと向けた。

「雪降ってるじゃん、降るんじゃねえよ」

大粒の雪が彼女の頭にハラハラと落ちる。

「傘」

「かしこまりました」

単なる我儘なお嬢様にも見えてこないことはない。

しかし何度も伝えるが、ここは戦場である。倶楽部に来ているわけではないのはそこにいた衛兵全員が理解しているのであった。


ズドドドドド


発砲の音が近くまで迫ってきた。

「ふぅ、来たみたいね」

千葉国よりその数100人足らずが一気に押し寄せてきた。

「美姫様、こいつら」

「銃など防ぐためのシールドってわけね。鉄壁すぎるのもいいけど、完璧じゃないよねああいうダサい男達」

「近づいて斬りつけるしかないかもしれませんよ」

「その必要ねえよ」

「え?」

「私一人でやるわ」

美姫が前に一人出てきた。

ハイヒールな上に足場のスリップがしやすい状態であるにも関わらず、重心は真っ直ぐ、バランスを取りながら前へと進んでいく。

「女ひとりか・・・?」

「後ろの兵士は怖気づいたか?」

「へへへ、見ろよいい女だ」

涎を垂らす変態な親父みたいな発言をするような奴もいる。本当に衛兵というものはただの筋肉バカが揃うだけかどうか、しかし世も末であった。

教師の不祥事や警察の不祥事が最近多いと思ったら、衛兵にもどうやらそういった低い志を持つ輩もいないとは言い切れない世の中なのかもしれない。だが、そういった輩は必ず痛い目を見ることになることをしっかりと肝に銘じなければいけないというわけである。

「むさい男どもね」

「なんだと!?」

「一瞬で全員死んじまいな」

美姫は黒い扇子を開いた。

「雪は嫌い、桜は好き」

「?」

「千本桜の舞う花びらはそれは華麗なる如く、それを一瞬に白い雪は赤色へ。さあ舞い踊りなさい」


サウザンド・スプリング


突如美姫の持つ扇子から無数の花びらが舞い込む。それは鋭い刃の如く、敵兵の持つ盾を一瞬にして切り刻んでいく。

「盾が破られた」

と、叫んでいる間にも次々と千葉国の兵士が切り刻まれていく。

「ほんともろい男達ね。この程度の刃を自分のオーラで止めきれないなんて。ミンチになる只の豚以下ね」


ズバズバズバズバ


白い吹雪が桜吹雪と化し、それが一瞬で鮮血で赤に変わる。

自国の兵士達も固唾を飲む。これが王直属の戦士十戒の実力か。

100人はいたはずの衛兵をほぼ全滅させた。相手側が身に纏う鎧や盾にばかり重点的に装備をし、見せかけの防御力を誇っていただけであり、そういったまやかしは実力者の前では無力も当然というわけであった。

「ああ、さっむううう」

コートをすぐに着込んだ。

「結局いい男いなかったわね。いたら生かそうと思ったのに」

「生かしてどうするんですか?婿にでも?」

「奴隷に♡」

「・・・」

美姫率いる衛兵達はその場で千葉国侵入を制止していたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る