第114話:鳳凰⑤

 金成は鳳凰に捕まった。考えた末の行動か?それとも悪手か?

「そんじゃあ俺と鬼ごっこ始めよっか」

「金成ー!」

 渋谷が叫んだ。しかしもう遅かった。金成は「デスorアライブ」の対象者となった。上空に死神が現れ、3分以内に鳳凰を殺さなければいけない。

 金成の持つ最強のスキルとは一体なんなのか?自分なりに考えたのだ。


光速に動けるライジングサンダーか?

殺傷能力の高いヤマタノオロチか?

一瞬で相手の死角をつけるテレポートか?

未来を視ることが出来るアルティメットアイズか?

それとも……


 今までのゆとり世代なりに考えてきた行動を持論した。

「鳳凰、いちおう聞いておく」

「なんだい?」

「お前本当に死なないのか?」

「俺のスキル:フェニックスは首を飛ばされようが、心臓を指されようが再生する。再生速度が追い付かないぐらい攻撃すれば別だけど、そんな奴は今まで見たことがない」

「鳳凰、君の望みをかなえてあげたい。俺はお前と鬼ごっこをして、お前を殺す。勿論死なないんだろうが、もしそれが成功したら俺と握手をしてくれないか?俺の持つスキルマスターは相手と握手を交わすことでそのスキルを使うことが出来るんだ」

「ぷっ、なんだよそれ!お前夜叉と同じタイプなの?握手でスキルが使えるようになるってなんだよwwwそんなことで相手の能力が使えることになるの?制約軽すぎない?夜叉と同じく相手の命を奪ってスキルを得られるものじゃないのかよww笑っちまう」

「ああ、だから鬼ごっこをして望み通り殺してやるから、それが叶ったら俺と握手をしてくれ」

「いいよ別にwww最後のお願いぐらい聞いてあげるよ。しかし絶望を前にした人間の表情って面白いよね。君今すごい面白い表情している」

「時間がない。鬼ごっこ始めるぞ」

「いいよ」


スキルマスター発動:ライジングサンダー&ヤマタノオロチ


 金成は最大限の殺傷能力で一気に鳳凰を殺しにかかる計画だ。

「電光石火」

 超速度で移動、そして

「九頭竜:十束の剣」

 鳳凰の心臓を一気に貫いた。

「ぐほお」

 血を吐きながら倒れ込む鳳凰である。しかし、

「再生するんだよな~」

 みるみる傷が癒されていく。

「確かにスキル:フェニックスというものは嘘ではないみたいだな。怪我が治っていく」

「俺は不死身」

「そのスキル、やっぱ欲しいわ」

「殺して奪ってみな☆」

「一気に行くぜ」

 雷の速度で十束の剣で連続斬りをかます。

鳳凰の身体はズタズタに引き裂かれていくが、それでも鳳凰は死なない。

デスゲームの中、両者は楽しみあっているようだ。負ければどちらかが死ぬゲームというのにだ。

 金成はライジングサンダーとヤマタノオロチを解いた。

「合技:ブラックホール」

 黒い靄が一気に鳳凰の身体を押しつぶす。

「ぐええ、これは苦しいな」

 メリメリと鳳凰の身体を押しつぶすが、これでもなお鳳凰はピンピンしている。

再生スキルに特化し、ほとんど戦闘をせずに受け身でいる分、3分で戦闘がほとんど終了してしまうせいか、メモリ容量が明らかに他者とは違うのであるなということは金成は戦闘中に理解をした。

 自分が使う場合はここまでうまくはいかないんだろうなと。


「ほらほら、あと1分もないよ?もうギブアップ?」

「本当に死なないんだな」

「へへへ、最後にもう1回大技食らわしてくれたら握手してあげるよ」

「いいだろう、最後の一撃だ」


スキルマスター連携:ライジングサンダー&グラヴィティ


 超マッハ速度で一気に鳳凰の身体を殴りつけた。

普通の人間ならば臓器が一瞬で損傷し、即死である。

しかし桁違いの再生速度でそれをカバーした。

「今のすげえ効いた。マジで死ぬかと思ったよ」

「俺の負けだな」

 金成はドサっと倒れ込んだ。

「完敗だ」

 手を差し伸べた。それに鳳凰は応じた。

「ほいほいっと、あんたよく頑張ったよ。まあこんなことで能力渡せないと思うけどね、いちおあんたにこの能力分け与えれるぐらいなら分け与えたいぐらいだよ」

 金成と鳳凰は握手を交わした。金成はニヤリと笑みを浮かべた。

「じゃあそろそろ時間だ。バイバイ」

「ああ」

 金成は密かにスキルを発動していた。


 その瞬間であった。上空にいた死神が二人を鎌で襲い、金成と鳳凰は首が飛んだ。鮮血が走る。

「金成ー!」

 渋谷がその光景をみて叫んだ。そして目を背ける渋谷であった。

両者の身体が倒れ込み、空間と死神は消えた。

 ふと鮮明に渋谷と話し合っていたことを今となって思い出していた。


「5つ能力が欲しい。未来を視る眼、再生能力、雷の速度で動く、空中などを彷徨える靄、時間を止める力」

 目の前に再生能力を使える相手がいる。それは金成からしたら喉から手が出るほど欲しい能力の一つであると、原点を振り返ったのだ。

 自分自身の持つ最強のスキル…原点。


 鳳凰は起き上がった。

「ふう、中々面白いバトルだった」

 肩をゴキゴキと鳴らしながら、金成を見た。

だが、そのあり得ない光景に鳳凰は驚愕を隠せなかった。

「なんで…?」

 金成は鳳凰より先に起き上がっていた。

「俺の最強スキル、原点は『スキルマスター』だ。相手の能力をコピーできること自体が最強だったと確信したよ。鳳凰、あんたの持つ再生スキル:フェニックスの威力、確かにこの眼で見届けた」

「マジで…?マジであんた俺の能力が使えるのかよ!?夜叉のように殺して奪うんじゃないのかよ?」

「だから言っただろ。相手の望みを叶えて、相手が承諾して握手を交わすってな。これが相手の能力をコピーする条件だ。まあその前にスキルマスターの説明をいれないといけないからな。大抵の相手は納得しない限り警戒する。だが、鳳凰、お前は子供過ぎる。危険な能力を持つが故、こうやって時には騙されやすくもなる。まあ最も俺は騙していないがな、勝手に出来ないものと勘違いされていたみたいだからすんなり再生スキルが身に付いたというわけだ」

「そんな…」

 鳳凰はがっくしした。

「んでお前はどうなるんだ?このデスorアライブ」

「初めてだよ、あんたみたいなやつ。俺が殺せなかった人間なんて今までいなかったのに」

「お前のウリはその小学生の身なりからしての『油断』だったよな?俺もそうだ。一番恐ろしいのは『そんなことありえない』と考えることだ。だが残念ながら、これが科学でも証明の出来ない現実ってやつだ」

「人の心理に付け込む、いじめの集団や宗教、政治ってそんなものなのかな?」

 鳳凰は涙を流した。しかし、ゆっくりとではあるが、足音が近づいてくるのを理解した。

「なあ俺死ぬのかな?死神に魂を抜かれるのかな?」

「自持思想論~2つの世界にはな、光と影が存在するんだよ。光が差すところに影は必ず出来る。お前のデスorアライブはかなり大きな力を指していたみたいだな。一体その光で何人の命を奪ったのかは分からないが、その分の苦しみは恐らく影の部分で補われるだろう。おそらく今まで受けてきた何倍もの苦痛が死神によってお前に訪れるだろう」

「嫌だ嫌だ嫌だいやだいやいあhかl;lv」

 鳳凰は突然胸を抑え、泡を吹きもがいた。死神が命を奪いに来たのだろう。目には見えないが、心臓麻痺のような現象が起き、鳳凰を苦しめた。

 そしてそのまま鳳凰は息を引き取った。


 かつて誰も殺すことが出来なかった鳳凰の能力に打ち勝つ力、それを金成は身につけていた。いくら他者からの影響があろうと、自分が考えた原点こそが最強であると確信した瞬間である。

「俺の一番強い力は他者の力ではなく、自分のオリジナル能力だったわけか」

 金成は経営学だけでなく心理学についてもかなり熱心だ。相手の弱み、油断につけこみ、交渉する。まさに常に一歩先を進み、先見の眼で優位に持っていくカリスマ性であった。

「この世の中にハイリスクハイリターンを感じる人は多い。だが、ローリスクハイリターンなんて存在するはずがない、そう考えることが間違いなのか。ローリスクハイリターン、それがもしあるとするならば、光を受けた者の代償として負の遺産として生まれた影を、誰かが肩代わりすることなのかもしれないな」


 FXの世界では1人の人間が億万長者になる代わりに、100人もの破産者を生み出すという。見えない世界だからこそ、誰にも文句が言えない。しかしそれは完全自己責任で行われている。もし目の前にそんな人間が現れたら、自分の身はどうやって守れるのかということだ。

 金成は知っていた。鳳凰は知らなかった。それだけの違いで生き残りを賭けた戦いに両者の結果は大きく変わっただけであった。

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