第33話:素戔嗚②
戦いが続く中、お互いの力量が見え隠れしている。
しかし相手は王直属の戦士十戒の一人、さすがの金成も油断するわけにはいかないわけである。
戦闘に於いては圧倒的実戦経験の不利さが物語っている。
「戦術は相手にとって後天的。長引けば相手の方に此方の手立てを伝え、あらゆる対策から術を講じてくるというわけか」
「なかなか子供にしては面白い技持ってるではないか。十戒の一人である私に本気で勝てるとでも?」
「やってみねえで分かるかよ」
蒼天流奥義:螺旋拳を繰り出す。金成オリジナルの蒼天流である。
独自で技の開発も怠らず、その威力を今後の判断材料に使うために、ぶっつけ本番で、しかも格上相手に使用してみるわけである。
素戔嗚はものともせず受け流す。しかし連打するごとに徐々に相手の点を打ち抜く姿勢を怠らない。
しかし蒼天流奥義継承戦に於いて体力の限界を相手からの攻防により知ることもできた。だからと言って間合いを開けながら長引くのも御免被りたいものであった。
金成はベストな条件で戦いに挑んだ。ヒット&アウェイであった。
「所詮は喧嘩慣れした感じだな」
素戔嗚が笑みを溢しながら戦いを楽しんでいる。
「しかし、遊びはここまで。俺も忙しいのでな」
「じゃあ大技見せてくれるってわけね」
「そういうことになる」
「汝なれど余の言葉に従いし者に於いて、一切の行動を禁ずる」
スキルマスター発動:ジャッジメント
札を見せて、相手に宣告した。
後は相手に触れるだけである。
「電光石火」
超高速に於いて金成の右に出るものは早々いないわけである。
瞬く間に素戔嗚に札をつけることに成功した。
「なんだこれは」
素戔嗚が身動きが取れなくなった。
「一切の行動を禁ずると言っただろ?動けねえよ」
「成程」
「動かせるのは口だけだぜ?技も繰り出せまい」
「俺をこれで拘束したつもりか?」
「ほかに何か手があるとでも?体が動かないんじゃ能力は使えないぜ」
しかし突然素戔嗚の周りに緑色のオーラが放たれ始めた。
(なんだ・・・?)
「勘違いしているな。俺たち十戒は何も体の自由が奪われようとも戦闘を止めることはないぜ。俺たちが戦闘を止めるときは死ぬ時だ」
みるみる竜の絵が描かれていく。
「これは・・・」
「八頭龍:八岐大蛇」
八岐大蛇の突如の出現に金成は戸惑うしかないのであった。
(神話に出てくる化け物事態をこの世に転生できるとでもいうのか、この男は。)
そう金成が思うのも無理がないのである。明らかにデカすぎる。
直径にして奈良の大仏ぐらいの大きさがあってもおかしくないぐらいであった。
八頭がそれぞれ金成を襲う。牙にやられては一たまりもない。
スキルマスター発動:ファイヤー
「焔」
炎の弾を1頭に食らわし、動きを封じる。しかし次いで2頭3頭が襲う。
最初に放たれたのは有無を言わさぬ「咆哮」であった。金成も動きを止められ、あまりの音の衝撃に平衡感覚を失う。目が霞み始めた。
「すげえクラクラしやがる」
「あれを喰らって意識を保つとは大した小僧だな」
5頭6頭と襲い掛かる。攻撃を喰らい、地面に伏せてしまった。
口からは血を流し、意識が遠のき始めた。最初にやったはずの1頭も再生していた。
「そろそろ終止符を打つとしよう」
八頭全てが上空を見上げ、そして金成を次いで見下す。口を開き、一斉に炎を出した。
「八岐大蛇最強技:劉淵獄」
高濃度の炎が金成を襲い掛かった。金成は身動きが取れない。
「さらばだ、小僧」
地面は紅蓮の炎に焼き付かれていった。
20秒間程その炎は続き、辺りの野原を一斉に焼き尽くし、灰と化した。
金成の姿は消えていた。
「札が消えたか。これで動けるな」
素戔嗚は辺りを見渡したが金成の姿が見えない。
殺気も何も気配を感じられない。完全にこの世から消滅したのであった。
「なかなか楽しませてくれた小僧だ、いい運動になった」
素戔嗚もさすがに大技を繰り出した為、金成の生死はこれ以上問わなかった。
もし次会うことになれば、最後の技を見してもいいぐらいに考えていたからであった。
素戔嗚はそのまま立ち去って行った。
金成の姿が見当たらない。
彼はどこに行ってしまったのか?
咄嗟の考え、彼は身動きが取れないわけである。しかし彼は炎の届かないところにいた。そう、地下であった。
金成は無意識のうちにスキルマスターのスイミングを発動し、地面の中に潜み、難を逃れたわけである。
金成はそのまま意識を失ってしまい、意識が失うと同時にスイミング効果が無くなり、地面に浮いてきたのであった。
やがて誰もいない灰と化した草原に金成は体を浮かし、姿を現した。
相手との距離は近づいたのであろうか?いやしかし、あれだけの大技を初戦で出させただけでも上等とでもいうべきなんだろうか?
だが彼は満足していない。十戒の圧倒的な強さの前にまだまだ自分が無力なものであるとさえ感じ、涙を流す程である。
しかし次は勝つ。そう誓うわけである。
日も完全に落ち、辺りが真っ暗になっていた。外套が付き、金成の姿をくっきりと光が照らした。大の字になって眠っていた金成だが、虫の音の色と蛍の光が目を閉じていてもうっすらと光が差し込むのを感じ取り、金成は起き上がった。
身体の震えがまだ収まりそうもないが、平衡感覚も少しずつ戻り、ようやく金成は動ける状態へと回復した。
「油断したな。相手が動けなくなればこちらのものと考えたのがダメだった」
圧倒的準備力の足りなさと相手の力量の深さを知らなかったのが今回の敗因であると考えるわけである。今までジャッジメントが成立すれば大抵の相手は自分の意のままに操れるものと考えていたわけだが、今回の相手のように具現化されてしまえばたとえ本人が動かなくても別のものからの攻撃に備えなければいけないことを学習したわけである。
「戦うまで分からないものだな。相手のことというものは」
しかし金成の参照基準点というものは比較的上昇したわけである。
彼にとっての目標値がまたさらに高く上がった。バスケットボールのゴールの適正なる高さがさらに1.5倍~2倍の高さに上昇したごとく、それに向けてボールを投げ、高みを目指す志を持つ良い教訓と成りえたわけであった。
彼の今回の戦いに於いて命が助かっただけまだよかった、それが最善の策。神はまだ彼を見捨ててはいなかったというわけであった。
「帰ろう。久しぶりにあの基地にでも出向くとするかな」
金成はよろけながらも足を自宅まで運ばせた。
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