第34話:自持思想論②

傷も癒えた。修復は人より早い方である。ターンオーバー周期の常識を覆した金成は当初通っていた秘密基地へと向かった。

以前は小一時間は掛かっていたはずのものも今では10分足らずで行けるようになったのだ。ここ数か月で目まぐるしい成長を遂げた金成であるが、日本統治はまだまだ遠く感じた。王直属の戦士十戒の一人「素戔嗚」相手に惨敗であった。

しかし負けることが恥ずかしいことではない。そこから成長することが出来る者、自らの成長を止めることが悪であると考えているのが彼の思考であった。

彼はいよいよ本気になってきたのであった。普段は幼児との相撲や赤子の手をひねる行為であったとしてもそれは自信の経験値を底上げすることが出来ず、常にRPGでは同じ街の周辺地域をうろうろして適当にモンスターを狩り、微量な経験値を貯めているにすぎないのである。自分の成長はなかなか伸びないものである。

実技を上げる為にはやはり家に引きこもっている場合でもないのである。より多くの人と触れ合い、そしてそこから学び、感じ取らなければいけないのだ。

彼はそのためにもう一度、秘密基地へと向かったのであった。


基地は洞窟の奥であった。

「相変わらず誰も立ち寄っている様子はないようだな」

奥の部屋の寝巻の横に古びた箱がある。その箱の中身を空けた。


『自持思想論』であった。祖父の遺物でもあるこの思想論はよく宗教の類に感じられるが、少し違う。誰もが自分の持っている思想というものがあるものである。

だからこれは強制させる必要などないわけである。何物にも囚われない考え方。まさに「仏に出会えば仏を殺せ」のような考え方であった。

要するに在るがままに「自由」に生きてゆくがよいという考えだ。

金成は久しぶりにその本を手に取り、読み返してみた。

内容は大きく分けて『第29小節』から連なっている内容になるのだ。その都度話の流れで説明はしていたが、大まかに言うと29項目になる一冊の本であった。

そのうちの一つである今回は「第7小節」について読み返してみた。


『実は一流大学と二流大学では一流大学に通っている人が有利である確率が高い』

自持思想論第7小節である。そこにはこう記されている。

「一流大学には教師をはじめとして、優秀な学生も多い。類は類を友を呼ぶという言葉の通り、かなりレベルの高い知り合いが出来ることも多い。努力が実り、結果を出した同期と同じ時間過ごす為、自然と自分の能力も引き上げることが可能である。将来社長の言う『金の卵』に出会える可能性も高い。そんなチャンスを一流大学に通うことにより得られることが可能である」


金成は考えてみた。やはりレベルの高い、それこそもう少し実力を高めることが出来るところに自分は身を置くべきかどうかと考えるわけである。

しかし現実は厳しい。まず親の説得など到底難しい話である。特別変わった社長室など構えているわけでもない。経済的困難という程のものでもないが、転校するにしてもやはりお金が掛かり、修行に出るにしてもやはり塾代にしろなんにしろお金はかかるものである。

要するに「お金」という悪が金成の「自由」を束縛しているわけである。

これでは自分の持つ思想など到底叶えようがないではないか。

ではどうするか?彼はまだ高校生の為、資本主義など所詮は活動的に限られている。問題は経済民主主義である。そこを働きかけることにより、今の生活の状態から一流大学のような限りある資源を手に入れるように働きかける必要性が彼にはあるとすれば、やはりそれの理に適うのは「相手の期待値を底上げする行為」それに対する「ピグマリオン効果」というものも心理学的に必要な内容となるだろう。

「この洞窟も、本当は誰かの土地、所有物なんだろうか?」

そう考えながら金成は深く蹲った。今の状態では十戒すら倒すことは出来ない。しかしかといって全員応対するにしても多勢に無勢では戦いに於いて勝ち目は到底あるはずもないのだから、まずは足並みを揃える必要もあるだろう。


優秀な仲間が必要だ。しかし自分にはやはりリーダー気質はなかなか存在しないものである。リーダーが求められるのは環境整備であるが故、彼の自由気ままな性格上はなかなか追い求めることはやや困難であるからだ。

しかしそれなりのコミットメント力の高い組織に就く必要はやはりある。

しかも尚且つお金を掛けずに・・・となると、これはいよいよ彼の個性的な真似できない能力というものを発揮する以外に術はないということだ。

彼の能力は特異体質であるが故、誰にも真似できない。そのメリットを大きく生かすしかないというわけである。


彼は洞窟を出た。やはりこの秘密基地を時間をかけてくる理由の一つは「原点」に帰れるからである。道に迷えばまっすぐ突き進むのではなく、一度来た道を戻り、最初の出発地点に戻り、そこから方向性を導き出すのが社会での一般常識だ。戻るのが困難、一度上った階段を下りることには大きな勇気が必要だ。しかしその先にもし出口がないのであれば、取り返しのつかないぐらい高いところに登る前に、さっさと降りるべきなのである。目先の利益に囚われないお金だけではなく「時間」というものに目を向けるならば、やはり一番は「原点」を知る、基礎というものの大切さが人生に於いて物語っていたのであった。


金成の目標は「日本統治」その為のステップとしてはまずは個人の能力を高める「スキルマスター」能力の多さと応用力からかなりの多様性を導き出すことが可能である。次のステップとしてはやはり仲間集めであった。

彼にとって仲間は渋谷や池袋、原宿などでしかいない。組織的に動くとするならばやはり大きく動かなければいけないわけである。リーダーは努めずあくまでも参謀としてなら承ってもいいぐらいの考え方ではある。

彼は自分の家に戻り、まずはやはり自分の高校生のクラスメイト達を知ることが大事であるとは考えたのであった。

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