第35話:練馬

「お?」

王直属の戦士十戒の一人「阿修羅」が素戔嗚の傷を見て疑問を投げかけた。

「どうした素戔嗚?誰かから敵襲を受けたのか?」

阿修羅は顎に右手を添え、不思議そうに素戔嗚の顔を見た。

「子供相手にちょっとな」

「子供?そんなに強かったのか?」

「ああ。だが始末した。俺の最強奥義でな」

「おいおい、八岐大蛇を出したってのかよ。それほどまでの相手だったのか?」

「不思議な奴だ。次々と色々な魔法を使ってきやがる。明らかに系統違いの技の数々。王でもない奴が何故あれほどの多くのスキルを使用出来たのか道理が全く見境ないが、危険分子と見做し排除した」

「見てみたいものだったな。どれほどの使い手だったのか」

「さあな?今となっては手遅れ。骸を拝むことなくこの世から消してやったよ」

「やはりお前だけは敵に回したくないな」

阿修羅が微笑みながらそう言った。

素戔嗚はやや疲れ気味であった。

「少し休む」

阿修羅の肩に手をポンっと乗せ、そのまま背中を向けて立ち去った。

(素戔嗚をそれほどまでに追い込める相手・・・そう簡単に死んだのであろうか?)

阿修羅の予想ではおそらく相手は死んでいないなと考えていた。しかし万が一にも備え、そういった数多くのスキルを使うものが現れた時のことを考え、今後の動きに警戒は必要であるなと考えたのであった。

何故王直属の戦士十戒に挑んだのか?命知らずな相手とは到底考えないわけである。どんな馬鹿でも十戒と「東西南北」最強の4つの盾に喧嘩を挑む者はいないと考えているからである。おそらく敵のしたかったことは大方の予想がつく。

「自分自身の器の計測。そして我ら十戒の力量を自身を物差しにして図るため」

阿修羅は薄く笑った。こりゃ面白そうだ、と。いつ自分の目の前にそういった輩が来るかも楽しみにしている処遇であった。


金成は学校へと向かった。

渋谷がバスから降りてきた。

「おはよう金成」

「おはよう渋谷」

お互いに手を上げ、活気よく挨拶を行った。

「最近どうよ?」

「いやあ、どうもこうも。ボロ負けだぜ」

「誰と戦ったんだ?」

「王直属の戦士十戒だ」

「マジ!?十戒相手によく生き残ったな」

「品川のスキル:スイミングのおかげでな。なんとか難を乗り切ったよ。マジであぶねえところだったぜ。でもああいうスリルを多少は求めてしまっているんだから、自分自身もっと飛躍しなければいけないなと感じたよ」

「ほお、随分スキルマスターさんも技の数々覚えてきたんだな」

「そういうことだな」

「最初は俺の能力しか使ってなかったのによ。俺の能力、もう古い本だなに閉まったりなんかしてないよな?」

「当たり前だ。お前の能力は最高だぜ。毎回使わせてもらってるよ」

「おお、そりゃありがてえ」

「後は何とかお前の能力で相手の火も操れたらいいんだけどなあ」

「無茶言うぜ。そりゃあ相手よりも実力が上ならいけるのかもしれねえけどな」

「そんなもんだろうか?とにかく相手の炎で焼き尽くされるかと思ったぜ全く」

「そうなると水の力なんかも身に着けておくといいかもしれねえな」

「水・・・か」

金成はうーんと悩んだ。水の力を出せる者はいたものか。

「東高校にそんな能力者いたっけ?」

「まあ分からんが、東の高校数百ある中から特に東高にのみ能力者や実力者の多くが集うからな。一番能力集めには適している高校だとは思うぜ?」

「まあ探してみるかな」


教室の扉をガラガラと開けた。

「おっすおはよう」

「おっはー」

池袋が本を片手に近づいてきた。

「金成随分やつれてなくないか?」

池袋が顔を覗き込むなり、疑問に感じた。

「おう、分かるか?」

「ああビタミンが足りていないな。野菜不足とかじゃないか?それに睡眠不足も感じられる」

「毎日もりもり野菜は食べてるぜ。まあ睡眠不足は生まれつきかな?」

「あんまむちゃすんなよ。若いうちから体壊すとろくなことないぞ」

「ああ、アドバイスサンキューな」

金成は席に着くなり辺りを見渡した。

(他に能力者なんて誰かいたものだろうか?)


金成は授業を受けていた。

ボーっとしているなり、教師に指名される。

「金成君、次のページを読んでください」

「はい」

椅子を足で引き、席を立つ。国語の教科書を手に、読み上げた。

「『光は何処。私は今闇の中にいる。暗い。助けてほしい。』彼女はそう泣き叫びました。世界が覆う暗闇の中、彼女の刹那な願いは儚い夢物語でしかありませんでした。しかしその命運を変えし一つの運命の出会い、それが1人の男の存在。彼こそが彼女のメシアであった。国を追われ、突如となく魔物に襲い掛かった彼女の最後の希望である。彼は幾度となく闇と戦い、その度に己を殺し傷つけた。しかしそれが出来たただ一つの理由『彼女を守りたい』そういう一心で彼の力は増幅させることが出来た。人は1人では生きてはいけない。そして愛する者を守る力を高めんばかり、彼は決して闇に屈することは無く、世界の平和に向けて剣を振るったのであった。彼にとっての人生は・・・」

「はい、そこまででいいですよ金成君」

「はい」

金成は着席した。

「いいですか皆さん。自分の力で立たなければいけません。彼女は最終的にメシアにより救われています。しかしこの世の中にそんな救世主はどれぐらいの数がいるでしょうか?結局のところ自分の力でなんとかしなければいけません。他人に頼ることなく、その為に知識をこうしてつけ、将来自分は何になりたいのかを考えなければいけません。女の子の皆さんも結婚や専業主婦など道は多い。しかしこんな時代だからこそ、女性の社会進出もしっかりと視野に入れなければいけないのです。女性が男性を引っ張ることもそう遠くない未来にまでなってきているのです」

キーンコーンカーンコーン

授業が終了するチャイムが鳴った。

「はい、今日はここまでです。次回またこの章についてやっていきますので予習復習を忘れずに」

休み時間となった。教室はガヤガヤし始めた。


3時限目は理科であった。実験室に皆移動した。

「今日は化学反応による炎色反応について実験していきましょう。アルカリ金属や銅などを炎の中に入れてどのように炎の色が変わるのかを見てみましょう」

「そういえば何で火は赤色が主に多いのに、ガスコンロなどは青い炎なんでしょう?」

一人の生徒が疑問に思ったのだ。

「熱エネルギーによって試料が解離し、原子化することにもよりますね。まあそんなことはいいんでちゃっちゃとやっていきましょう」

なんだか楽天家な先生であった。結構どうでもよさそうである。

「ただ火が使えりゃそれでいいような気もするんだけどなぁ。炎の色なんか変えてどうしようってんだい」

渋谷が呟く。

「まあ花火なんかも着色があると色鮮やかじゃない?」

江戸川は花火が好きであった。花火のような豪華な広がりにも美を感じるが、あの美しい色にも目が釘付けであるからだ。

「まあ、炎の実験てのも楽しめそうだな」

早速ガスバーナーなどで火を起し、そこで化学反応を起こし始めた。

銅を混ぜると不思議と炎の色が緑へと変わる。ほんと化学の世界というものはどういう原理になってこういうことが起きるのか金成にとっても疑問であった。

「魔法だけじゃなく、科学や化学についても知るべきか」

自分の限界にまで挑戦してなお、多くの能力に分散することはメリットにつながるかどうかはさておき、火の色を変えまくることがこのクラスでは大盛り上がりであった。

しかしガスバーナーなどの取り扱いは難しい。たまにガス漏れなどが発生し、炎上する事故が多いとも聞くからだ。取り扱いには細心の注意を払わなければいけないわけだが。ガス栓を上手く閉めることが出来ない生徒も数少なくいるわけである。

内気な性格の女の子の目黒であった。

彼女は少しおっちょこちょいな性格である。ガスの栓を閉めるつもりが逆に大きく見開きすぎてガスが漏れだした。

「わわわわ」

実験室がガス臭くなってきた。

「おい目黒何やってんだ?」

葛飾が怒鳴った。

「目黒さん落ち着いて。左に回すのよ」

「うん」

手元に置いてあった下敷きに衣服が擦れてしまい、静電気が発生する。

軽い火花ではあったが、しかしそれが点火の原因となってしまった。

「キャッ」

一気に炎が燃えたぐり、机を焦がした。

「危ない」

黒い煙が一気に発生する。一酸化中毒での死亡が多い。注意が必要。しかしその前に、これでは火傷による負傷者もでる。

実験室はパニック状態だ。

「金成、どうする」

「炎を押さえることをするしかない」

「待て金成、今能力を使うとさらに炎上が増す。水をかけて消した方が速い」

「皆さん落ち着いて避難してー」

教室から出る生徒たちであるが、そんな中一人の少女が立ち上がる。

「どいて」

黒髪で短髪の彼女は炎の元に近づいた。彼女の名は「練馬」であった。

「練馬さん、危ないから避難して。直ぐに消火器持ってきます」

「必要ないわ」

練馬が自身を腕で抱き、祈るように目を閉じる。

瞬時に彼女の体が透明の水に包まれ、それを放つ。

「ウォーターフール」

水が一気に炎を掻き消した。実験室は今度は水浸しになったが、怪我人はほとんどいなかった。目黒が軽い火傷をした程度であった。

「ごめんなさい、私のせいで」

「いいの、気にしないで。さ、モップを持ってきて。教室を掃除しましょう」

「ありがとうございます練馬さん、助かりましたよ」

拍手が皆から練馬へと送られる。

その様子を金成はじっと練馬を見つめた。偶然か運命か?

まさかこんなにも都合よく、水を操れる相手がクラスにいたなんて。

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