第29話:八王子
警察ハントによるイベントは終結を迎えようとしていた。
八王子に肩を貸してもらい、そこに居座っていた金成であった。
あまり無茶は出来なかった。怪我をしていた為、病院に連れて行こうとしたが、それを拒んだ。彼にとっての執念はまさに「霞が関の秘伝術式」にあったからである。このために無茶をしてイベント会場を続行させるべく、一人戦いを挑んだわけである。あくまでも金成の狙いは1位を独占する「八王子」であった。ポイントは既に1500と金成の10倍以上を超えていた。八王子の優勝で決まりであろう。
2つのイベントが終了した。「カプモンDA」と「警察ハント」であった。
優勝は西高校1年八王子で決定だ。授賞式を行い、八王子は副賞として「霞が関の秘伝術式」を受け取った。
それを拍手で見守っていた。金成も見送ったわけである。
「やったな八王子」
多摩が言う。次いで武蔵野だ。
彼ら2人も常に八王子の側近として君臨しているわけである。
「イベントごとに於いて俺の能力に勝るものは早々いない。たとえ相手が十戒であろうとも」
八王子はちらっと金成の顔を伺った。
「それにもう一人・・・な」
「?」
2人は頭の上に?マークが泳いだ。
八王子は誰であろうとも負ける気はしない。しかしそこであえて金成の顔を見ながらそう呟いたのには、心のどこかで自分の存在を脅かすものが現れたことを心中察するに冥福を祈るかの如く古今東西しているわけであった。
「早速この術式使ってみようぜ」
「まあ慌てるなって」
八王子は2人を制止し、金成の処へと歩いて行った。
「なあ金成。来週土曜日に西高校の裏公園に来れないか?」
「問題ないがなぜだ?」
「そこで決着をつけよう。俺とお前とどちらが強いか」
思ってもない決闘であった。まさにタイマンである。
1対1は願ってもないが、この八王子の自信がなかなか解せない部分である。おそらく能力は1つのみ。もしくは自分のように武術も使ってくるつもりなのか?いずれにせよ年齢は一緒、マスターできる力に於いて個々の修練の限界というものがあることは金成も理解していた。
だが、わざわざ向こうから決闘を挑んでくる以上は、金成はそれを受けざるを得ないからだ。
「俺に勝てたならこの霞が関術式、お前にくれてやるよ」
「願ってもねえ」
1週間近くある。それまでの間に負傷した腕の怪我を治せる。
それを期に八王子と別れた。
来週の土曜日の出来事であった。
立会人は金成サイドは渋谷、池袋、原宿であった。
八王子は同じく武蔵野と多摩を連れてきている。
「勝ったものにはこの術式を譲る」
「それで五体満足だ」
「始め」
金成は構えた。八王子は妙に冷静だ。しかしゆっくり間合いを詰めて歩いてきている。
決闘とは名ばかりの試合はまさに文京の梁山泊「蒼天流」以来久しぶりの出来事であった。あの時もまさに油断ないし、戦いにおいての部訓が物語っていたのであった。
蒼いオーラが金成を包み込んだ。「蒼天流」であった。
次の瞬間金成が跳んだ。大きく接近、しかし体力と精神力のバランスを考えつつも、余力を後半戦余す勢いで挑んだわけである。
「蒼天流:逆鱗」
蒼いオーラが麒麟の形を催し、間合いを開けながらも一定の中距離からのオーラに於ける打撃であった。一気に麒麟の手足が4本、相手に襲い掛かる。衝撃は少な目である。せいぜい公園の芝生を多少荒らす程度であった。
しかし八王子を捕らえることは出来なかった。既にその場にはいなかった。金成でも眼で追うことが難しかった。まさに「光の速度」に近い。
八王子は一瞬で金成の背後を取っていた。しかしまだ攻撃はしてこない。
「いい技だな、金成。しかしその速度では俺にはついてこれんよ」
「上等だ。スピードには自信ありというわけだな。ならその速度落としてもらうぜ」
スキルマスター発動:グラヴィティ
八王子に一気に重力がかかる。八王子は膝をついた。
「へえ、結構いい能力持ってるじゃん」
「まあな。これで動くこと出来ねえぜ」
「どうだろうかな?」
八王子はどのような状況に於いても冷静に笑っていた。
武蔵野と多摩もニヤニヤしていた。
八王子の体の周りが突然黄色い光を放ち始めた。
いやこれは青、黄色、白、つまり電気。
バチバチバチと音を鳴らしている。
金成は一瞬戸惑った。
「こいつの能力はもしかして」
八王子が一瞬で目の前からまたも姿を消した。
金成の今度は真横についていた。
「お前の能力はもしかして」
「俺のスキルは:ライジングサンダー。相手の間合いに一瞬で詰めることは可能だが、何より恐ろしいのはこの圧倒的スピードと威力だ」
「やべえ、俺術式よりそっちのほうが欲しいわ」
「俺に勝てたらいくらでもやるぜ」
「それ聞けて燃えてきたぜ」
拳を振りかざしたが、八王子には当たらない。
余裕でかわし、腹に一撃喰らった。
「ぐはっ」
一撃なのになんて重みのあるパンチ力。これこそ俺の求めていた力。
金成は極限状態におかされてもなお、自分が欲しかった能力を目の前にしてワクワクが止まらないのだ。欲しい能力2つを前にして、彼の闘争心は一層増した。
「こいつ、笑ってやがるな」
八王子は金成の覇気と執念に押されそうであったが、それでも八王子は自分の能力に過信していた。俺の速度には誰もついてこれぬ。
金成はライターを取り出した。
スキルマスター発動:ファイヤー
エンブレムを唱え、金成は炎に包まれた。自身の発する炎は熱くなくても、ライターの炎は熱い。だから自分に触れられぬような状態において炎をあまり近づけないようにしているのであった。
「攻守共に行える技か。こいついくつも能力が使えるのか」
「踊るファイヤー」
炎が踊りながら、八王子を襲う。八王子はそれを迎え撃つ。
「疾風迅雷」
強力な電気が瞬く間に炎を掻き消す。かなり卓越した力であった。
「電光石火」
超高速移動術であった。目にも止まらぬ速さで金成の周りを覆う。
(目で追おうとするな。感じ取れ)
金成は眼を瞑り、次の一手を考えた。
スキルマスター発動:ナイトメア
金成の周りに突如黒い霧が発生し、全員の視界を奪った。
原宿は「おお」っとここで自らの能力を使っているところに感心をした。
「こいつ何種類能力持ってんだ?」
八王子はいよいよ金成の本当の能力が分からない状態にある。
こんな奴は初めてだからであった。
黒い靄とは言え、自分の雷の前では光を差し込む如く、周りは照らされている。しかし金成の姿は見当たらない。辺りを電光石火の如く、高速移動し、金成の背後を見つけた。
「くらいな」
金成の後頭部を思い切って殴りつけた。
それと同時に金成の姿も消えた。
「なに?」
金成が既に発動していたもう一つの能力:マジカルトリックであった。
既に自分の分身体を闇に紛れさせていたわけである。しかも何人も何人もそこには存在していた。
「こいつ分身の術も使えるのかよ。かなりの手練れだな」
しかし八王子にはお構いなしだ。彼には電光石火と疾風迅雷の二つがある。闇の為、目視が難しいが近づけば自分の光により相手を視認しやすくなる。ここはあえて遠距離型の疾風迅雷より接近型の電光石火の方が彼にとっては都合がよく、しかも高速移動するため、相手に正確な位置を悟らせない目的であった。
わずか1秒足らずで10人の金成の分身を消し去った。そこで彼は気づいた。
「いない・・・?」
金成本人は消えていた。それもそのはず。彼は闇に紛れてスキルマスターを発動し、地面の中にいたからだ。
スキルマスター発動:スイミング
彼においてこの手順は至ってシンプルにありながらも、相手を攪乱させるのには持って来いの手順である。
そしておなじみの手順であった。
スキルマスター発動:トレード
ナイトメアに於いて相手の位置はある程度分かるのであった。
しかし誤算がここで一つあった。彼はあまりにも動きが速すぎた。
そしてこの闇は危険であると悟り、一瞬にして金成の術範囲から除外したのであった。
「やっぱ、はええな」
金成はそのまま地面に浮上し、ナイトメアも消した。
「八王子、やっぱあんたつええな」
「いやいや金成、お前の能力の豊富さにびっくりだよ。なんなんだお前の能力は?」
「俺はスキルマスター。相手の能力を分けてもらい、それをストックすることで自在に他人の能力を使いこなす」
「マジで!?すげえよさそうな能力だな」
「そうでもないさ。まだまだ能力が足りなくてな」
「でもまあ、いい能力だが、欠点があるな。その能力、まだ使いこなせてないな?」
「その通りだ」
前にも言われたことであった。まだまだ能力の使い方、実戦経験が浅い金成に於いて、所詮質より量での攻め。量より質を行う八王子の実力の前にはなかなか歯が立たないのも事実である。
しかしそれでも能力には相性というものは存在する。相手の好む型や嫌う型が存在し、無意識の呼吸の中に相手のしぐさや癖を分析し、その中で相手の死角を見つけた時に相手を捕らえることが出来るのだ。
材料はほとんど出尽くした。あとは池袋の能力「ジャッジメント」ぐらいだが、これは果たして雷の鎧を纏った八王子に使うことが出来るのか?と金成は考えたのだ。
だがものは試しだな。金成は攻めた。
どうせ間合いを開けていても一手で相手は間合いを詰めてくる。ならば此方から動くしかあるまい。蒼天流を使い、その中で自分のスキルマスターを駆使して、相手を抑え込む作戦であった。
しかし彼のスピードに果たしてついていけるかが心配であった。
わずか1秒の出来事。
金成は17発喰らった。血を吐いた。
「ぐっ」
八王子もいよいよ本気になった。相手の力量を認めた。
油断しているといつ自分の喉元に牙が届くか分からないからであった。
金成は倒れ込んだ。速い。そして威力が重い。
雷の力を使っているので速度と威力が桁外れに高い。そして
「疾風迅雷」
電気ショックを浴びせられた。金成の体は痺れて仕方がない。
「汝は我の前に如何なる能力も出してはならぬ」
「?」
札を見せた。ジャッジメント能力の発動条件を満たすためであった。金成は動けない。腕だけを動かすのが精いっぱいだ。
彼に触れねば効果は発動しない。しかし体を起き上がらせることが出来ないのであった。
「何の能力か知らんが、もう動けないぜ」
金成は右指でパチンとならした。
スキルマスター発動:トレード
立場を逆転させた。八王子が地面に仰向けになり、金成がその場に立った。しかし足元が崩れ、そのまま八王子に倒れ込むようにして八王子に札を付けた。
「たいしたやつだな」
しかし八王子の強力な雷の鎧の前にその札は燃え尽きた。
ジャッジメントは発動条件に満たなかった。
そのまま蹴飛ばされた。数mはとんだ。
いよいよ戦いの終わりを告げようとしていた。
「金成、覚悟」
金成は息を切らして目をつぶり、倒れ込んでいる。今にも意識が飛びそうであった。
八王子が間合いを接近し、金成に殴り込もうとした。
金成の体から突如黒い霧が発生した。これは先程のナイトメアだろうか?
八王子は既に金成の手の内を把握している。この靄がただの目くらましであることも知っていた。
そのまま突っ込み、金成を殴りかかろうとした。
しかし突然、八王子の腕が押しつぶされるかのように闇に浸食された。
雷の力が抑えられた。
「ぐああ」
八王子は急いで金成から離れた。
右腕が紫色に内出血を起こしていた。
「なんだ・・・?」
金成は無意識に何かをやったみたいだ。しかし当の本人に意思はあまりない。
金成は視界が掠れるのを感じながら、最後の力を振り絞った。
八王子に手を翳し
「真空刃」
八王子に真空刃が襲う。八王子の体中が裂けた。雷の鎧を一部剝がされてしまい、傷は深い。しかしそれでもある程度は雷の効果でダメージを軽減できた。金成はそのまま倒れた。
八王子は息を切らし、自分をここまで追い詰めた同級生に深い慈愛を持って感謝の祈りを捧げたのであった。
「そこまで」
武蔵野が終了の宣言を告げた。急いで二人の手当てを行った。
金成の意識が無くなったものの、もし戦いが続行していたら、八王子は動けなかったかもしれない。まさに熾烈な戦いであった。
30分後に金成は意識を取り戻した。
「俺は・・・?」
「金成よく頑張ったな。あとちょっとだったけどな」
渋谷が励ました。
「八王子に負けたのか」
「いい線言ってたぜ」
原宿も便乗した。あの黒い靄はなんだったんだろうと考えながらもそれを払拭できずに、疑問を抱きながらも金成の体調を気遣う。
「金成、俺はあんたに勝てた気がしない」
「え?」
八王子から意外な言葉が出たことに金成だけでなく、武蔵野や多摩も疑問に思う。
「この試合、引き分けということにしてくれないか?お互い負傷してしまった」
八王子は金成に「霞が関の秘伝術式」の入った箱を差し出した。
「お前に預ける。俺を超えた時にその能力を使ってくれ」
金成は箱を預かった。
「いいのか?」
「ああ、俺を超えし時に使ってもらえたらいい。今の俺はお前とは当分戦いたくないと感じた。いい線いってたぜ。お前のそのスキルマスターとかいう力、興味持っちまった。俺の能力も使いながら、どんな技を繰り広げてくれるのか楽しみになったぜ」
「ああ、お前の能力は俺の中で5本の指に入る」
「交渉成立だ。その術式はまだ使わないでほしいが、俺の能力、お前も使いこなしてみて俺を超えてみろ」
「ありがとな」
お互いに握手を交わし、八王子のスキル:ライジングサンダーを金成は習得した。
2人はその後病院に運ばれ、手術をした。
その場にいた誰もがまだ解せないあの金成が無意識に出した闇の能力。あの時何が起きたのかが未だに謎が解明されていないのであった。
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