第30話:書斎
月日が経つのが速く感じてきた。
早くも開門の日。この日は1日であった。金成は来年には17になる。
前回のマフィアの襲撃を受け、一層互いの両国の国境は強化された。
十戒が出回るところが4ヶ所。主に埼玉国、千葉国、茨城国、山梨国。各4か所にそれぞれ十戒が2人と東西南北を連なる王最強の盾4名がそれぞれの外交を眼下の元見守る中、関税及び為替など取引が行われる。
金成のスキルマスター:スイミングを使えば地下から門を潜って行けるものかと想定してみたが、意外と地下も結界が張られており、確実に通るならばこの門が開かれし時のみと断ずるに屈してしまうことこの上ないものであった。
先日、西高校1年八王子との決闘の末、勝敗は引き分けに終えた中、金成の将来性に期待すべく投資をした八王子は金成に自身の能力「雷」を渡した。それは金成にとって欲しい能力の内の5本の指に入る程のものであった。身近に、しかも決してそんな簡単に得られるべくものではないものと思っていたが、彼の信念がまさに転機したものである。禍福は糾える縄の如しではないが、まさに巧妙不可思議にしてこの世は顛末に生粋であった。金成は持論を打ち出し、まさに書斎に耽るのであった。
他国へと移民を受け入れることには膨大なる資金と審査、資格が必要となるのだ。資金という資金は彼にはまだ持ちえない。高校生である以上は時給も知れている。しかし彼の持つ「自持思想論」には以下のような記載があったことをふと思い出したのであった。
自持思想論第5小節「人生はゲームそのものである」
RPGなどに於いて魔王を倒す時、通常攻撃や防御、色々な魔法やブレス攻撃、回復などはしないだろうか。結果は魔王を倒す、プロセスはどうやって魔王を倒すのかの攻撃手順を考える。この時に目的に辿り着くまでに選択肢が多いことは幸せである。
現に彼の持つスキルマスターは応用が効く。尚且つ戦闘に於いて相手の弱点などをついて攻めることも出来る。今回大きな収穫を得たのは彼の能力を最大限生かすべく「速度」と「威力」の両立であった。それだけ「雷」の力は彼の身体能力を大きく引き伸ばす。後は使いこなせるかどうかだけであった。
そして今回の自持思想論において「人生ゲームには攻略本というものはこの世に存在せず、自らが創るしかない」と記載されていた。
つまり、自分と同じ思考を持つ人間がいたとして、環境、体質、性格全てが十人十色である以上、その人間の通りの行動を行ったとしても同じ結果がその瞬間に一寸狂わず得られるのかというと、そういうわけでもないということであった。
書店に行き、書斎を只管立ち読みして本を漁る。
「1日5分で2万円稼ぐ。楽して月収60万を目指せ」
見るからに胡散臭い内容の本だとは感じたが、やはりどういうやり方なのかは気になる。自分にはその状況に於いて不可能無いし行動科学上、費用関数の法則に従って雲泥の差は著者との立ち位置は感じる余り、その一切の内容は内的要素と外的要素に別れられ、交わること不全足るものの、この諍いは処遇に絶対的教唆に習うと慮り、俄然真似事に過ぎない行為でおこぼれ頂戴するぐらいであった。
書いている内容に「偽りはない」。そう考えるのが自然の道理であった。
大半は疑いの眼が掛けられる。しかし著者も話を盛っているわけではないのは分かる。しかし中には自分の偶々の成功を上手く利用して「商法」をするという荒稼ぎも一つの手段としては考え抜かれることはある。これにおいて騙されるものは早々いないものと考えたいところだが、現在の東京国の住民税が全てを物語っている。
見える世界ではどれだけの負債があり、見えない世界ではどれだけの負債があるのか、この2つの世界から互いの範疇を見据えなければ、簡単に人は心に付け込まれ、悪の傀儡は連鎖として鳴りやまないのであった。
十則がある。その中の一つを金成は思わず考えた。
「目先の利益に囚われない」であった。
どれだけ好条件であってもそれに対するリスク、そして長い目で見た時にそれは自分にどう影響を与えるかを考えるという戒めであった。
最初は金利などによくある単利と複利に差はないことを既に知っている。しかし10年経てば単利と複利では複利が断然有利になる。つまり資本形成に於いて複利は年率数%に於いても、それは塵も積もれば山となるのだ。
スキルマスターも最初は他の人よりも断然不利である。能力が一切使えない状態から始めなければいけず、自分の思い通りの能力がいつ当たるかも分からない恐怖と不安とがあり、彼の神経質な性格にはなかなか意にそぐわないことも多々あるからである。
彼は不眠となることが多い。だから考えないようにするのだ。「目先の利益に囚われてはいけない」
数分で簡単に副業で稼げるならば誰でもやってはいる。しかし利潤率の低下は商売上どこにでも起きうることである。簡単で誰でもであればそれこそ「差別化」は無くなり、競争力が増してしまい、新規介入は瞬く間に全国に広がり、旨味が無くなってしまうからであった。
金成は書斎の中で気になるものを発掘した。
行動科学マネジメントの教科書であった。「知識」と「技術」は別物であるとそこで初めて知った。
知識とは別名「形式知」とも呼ばれ、魔法で言う「能力の良さ」である。
雷の力は移動速度の速さと力学的要素から行くと速力を加えることにより従来の力を数倍上げることで「威力」を上げることが出来る。
これらは単なる知識でしかなく、実際に速度と威力をどう使いこなすかは分からないものである。
それに対し技術とは別名「暗黙知」とも呼ばれる。知識だけでは理解できない「感覚」というものがそこにはあった。どれだけ優れた能力があっても、実戦でいざ使ってみると状況に応じて使えない日もある。優れた火薬爆弾も「雨の日」という状況においては全く使い道がないわけである。威力が低下してしまうからだ。ならば水に反応して爆発力を高める火薬を作らなければ戦争で勝てないというのであれば、そういった技術力を身に着けるしかないわけである。単なる知識だけではいざ現場に立った時、それらは実技では全く生かせないことなんてことは学校でも社会でもよくあることである。それが新人教育などにも置ける「行動科学マネジメント」というものであると金成は考えたのだ。
「君、高校生かい?四季報とか読むの?」
金成は振り返った。禿げ頭が目立つ白シャツ黒ネクタイの中年男性が金成に声を掛けた。
「まあ企業とかで気になるところがありまして」
「へえ、就職活動でもするのかい?大学は?」
「いえ、特にまだ考えていません。俺まだ高校一年なんで」
「一年かい?それで四季報とは驚いたな。うちの息子は今年で高校3年なんだが、相変わらず漫画ばっかり読んでいるよ」
「まあ普通はそういう年ですから、漫画や読書とかじゃないですかね?」
「まあそうなんだけど、いい加減勉強も頑張ってくれないと将来に影響があるからねぇ」
「将来ですか・・・」
「まあそうだな。やっぱり大学に出てもらった方がいいんだけどな」
おじさんとはそういった進路について少し話をして、そのまま書店を後にした。
将来か。
あの人達の世代は「学歴」や「資格」が企業では生かされたんだろうな。そして願わくば「魔法」や「科学」「武術」「忍術」将来は国王に遣わす傭兵として才能を認められれば、王国に住むことも出来、生まれによっては貴族として育つことも可能である。
しかし凡人には出来ることはやはり学歴と資格ぐらいではあるが、近年どこの日本の国に於いてもそれらは後回しされることが多いのを痛感している。以前金成はニュースで見た。
「慶翁大学」と「早稲汰大学」のエリート学生達が40社受けても尚就職先が決まらなかったというインタビューを。
彼らは学歴を謳い、大手企業に挑んだが、落選したことについては文句しか言わなかったという。
「何故3流大学が受かり、我々エリートが落とされたのだ!全く持って不条理である」
言いたいことは分からないこともないが、この世に於いて絶対なんてことはないのだと考えたのだ。
彼らには見えていなかったのかもしれない。学歴とはまた別の「世界」というものが。
金成は商店街を歩いていた。中華まんが有名な店で200円出して、それを食べながら歩いた。この世界に於いて、「学歴」が絶対か「魔法」か、それとも「王族の血筋」なのか。
考えるだけ無駄であった。先は分からないのだ。
彼のスキル:デスティニーを使えば1週間先まで未来は分かるが、それは使わない。知らない方が面白いこともあるからである。退屈はしたくないからであった。
しかしこの国の暴動も酷いものだと感じた。弱肉強食がまさに横行していることも去ることながら、得られなければ奪えばいいという考えであった。金成の前に早速現れた光景、それはコンビニ強盗であった。
覆面の男2名が店員を脅し、黒い鞄に金を入れろということであった。
店の周りには野次馬が20名近く殺到していた。呑気なものであった。
もしも強盗が出てきた時に、捕まえるような素振りもなく、ただ興味のところからそこに集るなど、もしものことがあったら護身は出来るのかと思うばかりであった。現金を奪い、そのまま店員に銃を放つ。店員は血を流し、倒れ込んだ。この国もいつから銃国家へと変わったのやら。
外に出てきた強盗が次々と乱射。近くで見ていた野次馬達は一斉に逃げるが背中を撃たれ、負傷者が数名出た。それに伴い、近くで待機していたタクシーに駆け込み、運転手に銃を突きつけ脅しかける。そのまま逃走した。
警察というものはいつも遅い。駆けつけた時には既に犯人が過ぎ去った跡地でしかなかったのだ。
「まあこれもゲームの一環だとするならば退屈にはならぬ。それにちょっとした実践はまた知識と技術の相違であるな」
行動科学マネジメント通り、まだライジングサンダーは知識までしかない。如何にして使いこなせるかで、金成の能力は伸びるものであったのだ。
スキルマスター発動:ライジングサンダー
金成は電気に覆われた。電光石火
超高速で移動を始めた。時速60㎞で走る車がまるでミニ四駆の走る速度のようであった。あっという間にタクシーに追いつき、助手席の窓ガラスを破壊し、覆面の男を引きずりおろした。
男は全身強打し、唸っているようであった。犯罪者にはとんだ神の報いであった。もう一人の男は後ろに座っている。当然男は焦った。
突然何が起きたんだと思うばかり。金成は信号機の上に登り照準を定めた。速度が遅すぎて見える見える。車体を吹き飛ばし、運転手を救うことが自分を占うまでもなく、思うが儘に出来そうな予感がしたのであった。
「蒼天流秘伝奥義:真空刃」
それは雷の速度も加わり、風切りが余計に風速を上げて一撃で車体を乗り上げ、簡単に反転させた。それと同時に車の助手席に一瞬で乗り込み、運転手をシートベルトごと引きちぎり、救助した。後ろの男は反転する車の中に閉じ込められたまま、そのまま車が倒れ込み、大きな地鳴りを起こした。
数台の車を運悪く巻き込んでしまったが、逃走を阻止した。運転手に姿を見られるわけにはいかなかったので、その場で置き去りにし、超高速で建物敷地についている防犯カメラを意識しつつも、自分が映らないように精一杯の努力をし、公園付近で待機した。
後に救急車が走り、犯人2人は病院に搬送され、そのまま回復を待って逮捕となった。供述は突然何が起きたのか分からないと漏らし、運転手もあまりの奇想天外に言葉を失うばかりであった。
金成は正義の味方というわけでもなく、また目立とうとも考えていないので警察の眼を盗んでそのまま帰路についたのだ。
書斎に記されている「外伝」では「嵐は突然にやってくる」とある。
忘れた頃に現れるのが最も恐ろしい、だから対岸の火事と思わぬことが大事なんだとそう思うのであった。
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