第28話:カプモンDA
スマホを翳し現実世界の風景に突如現れるモンスターをダッシュで追い、がちゃカプセルのようなものでモンスターを捕まえる。
それを無我夢中で追いかけて危険行為と見做し、追いかける警察官。
そしてその警察官をゲーム機を翳し、怒りマークをハントするプレイヤー。
既に2重尾行のような状態で勝たねばならないのであった。
昼になっていた。ぼちぼちモンスター集めにも飽きてきたプレイヤーが帰る頃、昼食をとる頃であった。金成も現在120程度ハントが終えたばかりであった。
意外と苦戦させられるゲームであった。何せどこかしこで暴動が起きたとしてもすべてに対応は出来ないからだ。もっと素早く、行動ができればいいのだが・・・。
現在の金成のゲーム成績の順位を確認した。
彼は現在7位であった。
1位は既に950も怒りマークを捕まえていた。
「化け物・・・」
金成は思った。自分もうまくやっていたつもりであった。しかし自分の成績を遥かに凌駕するものの存在に絶望を覚えるしかないわけである。
無い袖は振れない状態である。一体誰がどうやってこんなことに・・・?
1位のプレイヤーは名前が出ているのだ。
1位950 「西高校1年八王子」
インタビューがされていた。
「八王子さん、現在1位独占中ですが、今後の意気込みは?」
「正直まいりますよ、あまりの単純さに。でも僕が優勝する。ゲームでは負けたくないのでね」
警察官もそのインタビューには嫌気をさしている。自分たちがカモにされているからである。しかし特に何かしらの暴動を起こしているわけでもないので、迂闊に手は出せないものであった。
彼もまた一流のゲームプレイヤーなのだからだ。
「あいつは確か」
金成が霞が関に行く途中にすれ違った男であった。
金成は八王子のことを事前に知っている。相手から只ならぬオーラを感じたこともだ。
このゲームにはもう一つの公式ルールが存在する。
喧嘩ではなく、試合形式で相手からデータを奪う行為であった。
但し相手に怪我を負わせてはならぬ、相手を気絶させる程度であれば、それは暴力行為とはみなされず、合法的に相手からデータを奪うことも容易であった。
おそらく独占していくであろう。あの男は。
なんとかぎりぎりで相手からデータを奪うことが出来ればいいが、金成にとってはそれは想像もつかないことである。
相手から奪ってまで何かを得たいわけではないからだ。彼のスキルハンターよりスキルマスターを選ばせた道理はまさにそこにあったわけである。
しかしこのまま宝を相手にむざむざ譲る行為も気に食わない。
相手との試合形式はやはり避けられないものであると考えたのだ。
競争社会において「3C分析」というものがある。
それぞれの頭文字をとって「競合、顧客、自社」として3つの視点から分析することであった。
自分の手持ち能力、そしてデータを持つ顧客、最後に戦いを避けられぬ競合との戦いの3つを制したものが今回の優勝者となりうるだろう。
金成はさらにその中で自分の強み、弱み、脅威、機会の4つの視点「SWOT分析」も行った。
強み・・・多くのスキルを使用出来ること
弱み・・・まだ極めていないこと
脅威・・・自分より強力な相手には敵わない(十戒など)
機会・・・応用力を利かせれば相手を制することができる
今まで弱みや脅威は他者が1つしか使えないスキルのところを、自身は多くのものを応用することで相手に打ち勝ち、その度に条件としてスキルを分けてもらい、さらに自身を強化することが出来てきた。
今回は術式だけでなく、もし試合形式で相手に打ち勝てばその分、スキルを分けてもらうことも可能である。しかしこれだけの大衆の前で自身のスキルマスターの能力はあまり晒したくはないものでもあった。
まさに両天秤なのであった。
だが、金成はふと思った。自持思想論であった。
自持思想論第三小節「椅子取りゲーム」にはこういうことが記載されていたのを思い出した。
『負ければ椅子に座れない、勝てばその椅子は守られる
しかし誰もがその椅子を狙っている以上気を緩めることはできない
椅子を取られることは人生において死を意味するだろう
競争を知らないものに果たして椅子取りゲームの重要さが分かるのだろうか
椅子の量は既に決まっている
誰よりも先に奪い合うだけ
しかしどうも最近の日本人は危機感が無さ過ぎる
自分にもちゃんと年と共にその椅子が回ってくると思っている
そんなものは残念ながら保障されていない
椅子は譲られるものではなく奪うもの
だから椅子取りゲームという名前がついたのだ』
これは術式を奪い合うゲーム。大丈夫。スキルマスターは分けてもらえる考え方。今回の方式は大会である以上、勝者は1人なのだ。皆それを理解して参加している。
優勝の座の奪い合いは競争において当たり前なのだ。何を躊躇う必要がある。
金成の中で何かが吹っ切れた。優勝を狙う。
とにかく金成はぎりぎりの時間が来るまで粘った。とにかくカプモンDAに夢中のプレイヤー達を発見し、警察が追う。まさにその瞬間を狙うわけだが、それを辞めたのだ。
金成は精神統一した。最終的に皆目指すゴールは同じというわけである。
それよりもっと合理的なやり方がある。
「西高校の八王子に勝負を挑み、勝利する」
おそらく奴はほとんどのプレイヤーからデータを奪って堂々と1位を狙うだろう。最後試合終了ギリギリまで粘り、相手との闘いに俺が勝てばいいだけなのだ。と、金成は深く考えていた。
卑怯とは言わさぬ、これは列記とした必勝法だ。出来る限り「戦わずして勝つ」がベストだが、相手の求めに対してそれ相応の対価は此方が準備できるものでなく、相手側の条件必ず汲むことを要所要所に理解せねばならないのが少しばかりハンデに思えるところでもあったのだ。
しかし事態は予想もしない展開へと発展した。
突然イベント中央で悲鳴や流血が飛び交った。そう、こういったイベントには「テロ」が引っ切り無しに行われる。
相手は40代ぐらいだろうか、たった一振りで会場にいた13人を食いちぎったのであった。
おそらく奴は能力者で間違いないだろう。
「げへへへ、堪らねえな。こういう幸せそうにしている奴らを不幸に陥れる瞬間ってやつをよ」
警察官が銃を発砲する。しかしそれが当たらない。奴のスキルの前では一般銃は役に立たないということであった。
「俺のスキルはクロコダイル。手を巨大な鰐に変えることにより、相手に襲い掛かり、その肉を食いちぎることが出来る。さあ叫べ。絶望と共に」
男の手が鰐に変わり、その顎が警察官10人に襲い掛かる。あっという間に手を食いちぎられ、銃を奪われてしまう。
その銃を手に今度は男が市民に放つ。流れ弾で家族連れの親子が被害を被った。まさに地獄絵図のような光景に人々は逃げ惑った。警察官ではなかなか歯が立たない状況であった。
主催者も青ざめ、息をのんだ。まさに殺人狂、殺すことが楽しみなんだと瞬時に悟ったわけである。
皆、ゲームどころではない。必死に逃げ惑っていた。しかし男は容赦なく襲い掛かる。抵抗する能力者も数名いたが、奴のスキルの方が一枚上手だ。ことごとく腕を千切られ、なすすべもない。
金成は考えた。奴を倒し、この場で英雄になるか?いやしかし、西高校の奴との闘いをも制したい。
考えがまとまらないが、金成は即座に決断した。市民の命が第一優先だ。躊躇っている場合ではないだろうと考え、前へ進んだ。女子供関係なしに、奴は相手の肉を千切り、血を舐めている。表情が既に薬で吹っ飛んでいる状態で目が死んでいた。
金成は前へと立ちふさがった。男の注意を引きつめるためにだ。
「やめろ。俺が相手をする」
「ああん?なんだお前」
スキル対決はこれで何度目だろうか。しかし相手の能力、明らかに人を殺すための能力だ。自分の手札で相手を殺す能力など手持ちなどあるはずがないのだ。
「邪魔するなよ。ぶっ殺されてえか?」
それでも金成は引けない。引くわけにはいかないのだ。
「上等」
「あっそ。ならさっさと死にな」
クロコダイルが金成を襲う。スキルに頼らなくても自分には秘伝奥義がある。
拳を前に高速で突きつけ、瞬時に風切りを呼び起こす。
「真空刃」
クロコダイルがズタズタに引き裂かれていく。まさに金成が梁山泊で教えを乞うた技「蒼天流」であった。
先手必勝、次々と技を繰り広げようとしたのであった。
「いてえなおい」
地面を殴りつけた。すると金成の足元から鰐が突然出てきた。金成は即座に足元にスキルを使用。
スキルマスター発動:グラヴィティ
鰐の顎を超重力で一点に集中させ、押しつぶし、自分の腕に重力を掛けてその鰐を殴りつけた。鰐は瞬時に姿を消した。それと同時に金成も姿を消した。
「小僧、どこいきやがった」
スキルマスター発動:スイミング
つい先日品川から借りた能力、地面の中を自在に泳ぐことが出来る。たとえ能力を解除しても浮かび上がる程度、なら深く潜り込み、10mぎりぎりの範囲内なら連続でスキルを使えると確信していた。
スキルマスター発動:トレード
右指をパチンと鳴らし、男と場所を入れ替えた。男は当然地面に埋められた状態。押しつぶすことは出来なくてもそのまま窒息死を狙うことができる。拘束完了であった。
金成は息をついていた。連続でのスキルの使用はやはり負担が大きいものでもあった。
周りからは歓声と拍手が飛び交った。金成は笑みを溢した。
しかし地面の土が大きく噴水のように吹き飛んだ。奴のスキルは地面の土をもかみ砕く、奴を本気で怒らせてしまったようだ。
「てめえ、舐めたことしてんじゃねえぞ」
デカい。デカすぎる。真空刃で吹き飛ばすも範囲が広すぎる。これでは食いちぎられるどころか丸のみされてしまう。
スキルマスター:ファイヤー発動
炎を出すも鰐は所詮具現化されたもの。熱など感じないものであった。
このままではやられる。
鰐の歯が止まった。
何が起きたのか分からない。金成は死を覚悟したが、金成の隣に立っていたのは西高校1年の八王子であった。
「よう、また会ったな」
「お前は・・・」
「くそ、なんだこいつ動かねえ」
男は必死にかぶりつこうとするが動かないのであった。
いや、動けないのだ。全身麻痺が起きているような状態だ。
「見事な戦い方だったぞ。遠くから見ていたが、感服致す」
八王子は消えた。
そして一瞬にして男の背後に立っていた。
「てめえ」
「悪いがご退場願いたい」
疾風迅雷。
男は数メートルは吹き飛ばされた。物凄い威力であった。意識は飛び、重症となった。
その後警察隊に拘束され、男は無差別殺人容疑で現行犯逮捕され、現在は医療事務にて治療されていた。
「立てるか?」
「ああ」
金成はゆっくりと立ち上がった。
「あんたつええな」
「君もね。あんな殺人鬼相手に突っ込むような奴初めてみたよ」
「手合わせ願いたいが、勝てそうもないな」
「クスッ」
金成は右腕が痙攣していた。グラヴィティを掛けた状態で鰐を押しつぶす為とはいえ、地面に躊躇なく拳を叩きつけた代償が今頃に伝わってきた。
「医務室に送るよ」
「すまねえ」
八王子は金成に肩を貸し、医務室に運ばれていった。
彼は後の金成のライバルと成り得る存在になるのか、また能力はどういったものなのか、とても気になる存在であったのだ。
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