第122話:秋葉王⑤

「溺れる者は藁をもつかむとは言うが、溺れる者はそのまま溺れてしまえばいいと考えている」

 金成の持論であった。金にも女にも、そして酒や薬など数多くの魔の手が存在する。そんな魔が差すようなものに手を出せば、たちまち芸能人ならばマスコミのネタにされてしまう。

 つまりそれらが自身を貶めるというのであれば、最初から断ち切ってしまっておけば魔の手が忍び込むことも少なくない。

 いずれにせよ、心の隙間に悪魔が潜むからこそ、魔が差してしまうのである。

「第1だけでなく第2までも屈しないとは、中々驚かされたよ」

 SSランクであるはずの秋葉王が1人の高校生に押されている。本来ならば屈辱で仕方ないであろう。しかしその場にいる全員を処刑できれば、何の問題もないわけである。執事のみがその真実を知っていたとしても、口の堅さと信頼性は圧倒的であるからだ。

「見守るということはもう辞めだ」

 突如秋葉王が矢を取り出した。

「最後を見してくれるってわけか?」

「まあそういうところだな」

 金成が構えた。さすがに王のダイヤモンドコートがあるとはいえ、あれだけの衝撃を与えてもなお立ち上がってくるというのは王直属の戦士を束ねるだけはあるということである。


 アキバミクス第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」


 本来ならば規制緩和を行い、民間企業や個人が真の実力を発揮することのできる社会へと後押しするのが役目であるが、秋葉王のアキバミクスは少し違った。

「個人の真の実力をというものを発揮するというわけだ」

「つまり…?」

「ここからがSSランクの恐ろしさをお見せできるというわけだよ」

 ブスッと秋葉王はその矢を自分自身の右膝に刺した。するとみるみる身体能力が成長し始める。

「これは」

「アキバミクス第3の矢とは他人に向けて放つのではなく、自分自身に使うもの。この矢が俺自身の能力の成長に繋がり、劇的に飛躍した能力発揮を促す。つまりは武道の達人クラスにまで一気に身体能力を成長させる」

 まるでRPGのボスキャラが第2形態を使う変身技を見ているようであった。秋葉王の姿がみるみる変わっていく。黒いオーラを放ち、まるで国王というよりかは魔王に近いレベルである。

「こいつ、本当に人間か?」

 金成がそういうのも無理が無い。初めての体感、これがSSランクを目の前にして戦いを挑む経験値不足の勇者の末路なのかもしれないからだ。


 成長戦略を遂げた秋葉王が突如、剣を振りかざし、それを降ろした。

すると飛ぶ斬撃が放たれ、一気に地面を切り刻み、それを金成に向けて放つ。金成は瞬発力で交わし、その斬撃は城壁へあたると、粉々に砕けた。

「あれは即死に近いな」


スキルマスター発動:テレポーテーション


 秋葉王の背後に回り、一気に蹴りをつけにいく。

しかし秋葉王の洞察眼も飛躍し、金成の動きが先読み出来てしまっていた。

 膝蹴りを金成は食らわされ、吹き飛ばされる。

「ぐほぉ」

 吐血し、壁にひびが入った。

「奴にも未来が見えてしまうのか?」

 話す間もなく、また斬撃が飛ぶ。

金成はテレポートで交わす。天井へと張り付くと、2度斬り、斬撃が飛ぶ。

 城内が斬撃によりガタガタに崩れていく。最終局面にしてはかなり派手な戦い方をしている。

「まず秋葉王に近づくこともできないのか?」

 すると秋葉王の周りに矢が5本ほど錬成された。

「あれはアキバミクス?」


スキルマスター発動:アルティメットアイズ


 究極の両目で見極める。どうやらあれはアキバミクスの矢ではなく、本物の矢のようだ。成長ホルモンを使いすぎたせいかは不明だが、錬金術まで使えるようになったと過程したほうがよさそうである。

 秋葉王の矢が放たれた。


スキルマスター発動:アリストテレス


 斥力を使い、矢を弾き飛ばす。しかし、これも追尾式で何度も追ってくる。

「破壊するしかないか」


ファイヤー&グラヴィティ合技:メテオ


 隕石を発動させ、一気に矢もろとも秋葉王に向けて放つ。

矢は破壊できたが、秋葉王の斬撃により隕石は粉々に砕けた。


スキルマスター発動:ブロックチェーン


 見えない鎖で秋葉王を拘束しようとするが、やはり未来が見えているのか、此方の手の内が既にばれており、かかることはなく、交わしながらも斬撃を繰り広げる。金成は足元に雷を宿し、速度を一定以上早めてはいるが、

「かなり長期戦を強いられたせいで息がそろそろ切れてきたな」

 スキルマスターの発動回数や時間によって負担もかなり強いられる。多くのストックは出来たとしても所詮媒体は金成の身体一つでしかないから、鳳凰のフェニックスをもってしても傷は治せても体力の回復だけは十分な休息と睡眠が必要であるからだ。

 長期戦はかなり不利ではあるが、おそらく秋葉王との戦いを一瞬で終わらせることは到底不可能であると考えてはいた。

 だが体力にも限界がある。一気に蹴りをつけにいくために、多少のリスクは取らざるを得ないと考えていた。

 これが最終ステージであるからである。

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