第14話:葛飾
葛飾のスキル「トレード」自分の立ち位置と相手の立ち位置を一定距離に入ると入れ替えることが出来る。また、それはモノであっても可能である。
一種の瞬間移動極まりない上、それは壁があろうと、足場が無くても可能である。しかし相手の正確な立ち位置が分かっていないとトレードする対象にはならないことと、生物もしくは非生物の対象、大きさなどから移動出来る対象のモノが異なることもある。例えば猫と人間は同じ生物でも大きさから言って10倍近くかけ離れている。あまりにもトレードする対象のサイズが極端に違いすぎると、トレード不可となることも考慮に入れなければいけないので、使用する際は注意が必要であるということと、さらに一度発動したら10秒程使用できないタイムラグが発生するので、使用場面は慎重に考慮しなければいけないのである。
お互いに握手を交わし、金成は葛飾から「トレード」のスキルを分けてもらった。これで現在金成は4つのスキルを自在に扱うことが可能となったのだ。しかしその代償は大きいか小さいかは金成の器量次第にこの上ないことである。約束事として「バンド」を彼と組むことになったのだ。
金成は専らピアノを担当する。葛飾はギターだ。ボーカリストに板橋、ベースに荒川、ドラムを大田が担当。クラスのバンド「ルシファ」が形成されたのであった。
早速学校近くの音楽練習場にて音合わせをしている最中であった。
「金成、お前やっぱ上手いなピアノ」
「まあこれぐらいは1ヶ月もあれば弾けるよ」
金成はピアノを弾いたことはない。しかし彼は覚えが早かった点も大きくある。1ヶ月もあればある程度の音色を出せるぐらいの実力にまで上がっていた。その代り、その練習量は大きく上がる。1日5時間以上の特訓、就寝につくのはいつも深夜3時を回っていた。睡眠不足は集中力を大きく損なうリスクを伴うが、彼にとっては何事もない日常茶飯事であった。
ギリリリリルルルギリイイイイイ
隣ですごい五月蠅い音を出していた。誰が聴いても不快なほどに、しかし口出ししないままその音は延々と流れていた。
隣のバンドグループであった。チーム名「ライン」
「俺のロックンロールはあああああ、最高だぜえええええええ」
非常に喧しい音と奇声で周りを不快にさせる。
葛飾が言う。
「あいつらいつもうるせえんだけどなあ、あの音なんとかならねえのかよ」
「いつもあんな調子なのか?」
金成は疑問に思ったのだ。
「まあここんとこはずっとそうだね」
大田は溜息をつきながらそう言った。
「ちょっと行ってくる」
金成はチーム「ライン」のところに出向いた。
チームラインはボーカルの岸田、ドラムの増田、ギターの倖田、ベースの恩田の4名からなる。
「なんだい、さっきから高い音ばっかりだして。もう少し静かにというか、周りに不快な音を出さないように気遣えないものか?」
ボーカルの岸田がギターを片手に「ギイイイイイイイイイイイイイン」と音を鳴らした。
「俺のロックンロール、馬鹿にするんかお前?」
岸田は金成をガン付けた。
「いや馬鹿にしてるわけじゃないんだけど、ただ少し静かにだな」
「おう表出ろやこら、俺のソウル聴かせてやるよ死ぬまで」
親指を立てて、金成を舞台に促すように指示した。
金成は承諾した。貸家の叔母はいつも困った顔をする。
バンド同士の喧嘩はしょっちゅうであった。まあ機具の一つでも壊そうものなら弁償することがこの世界での常識である。彼らの喧嘩もまたその一環に過ぎないことであった。
行くぜ、俺の魂の叫び受けちまいな。
岸田が飛んだ。金成に飛び膝蹴りを喰らわそうとした。しかし金成は身のこなしで避ける。岸田はそのままバランスを崩すことなく、次のステップでさらにもう1発入れようとした。しかし金成がその膝を今度は足の裏で止めた。
「兄ちゃん、俺が使えるのは足だけじゃねえんだぜ」
拳を振り上げ、金成の顔面に向けて放った。しかしそれを軽くいなす金成。岸田は右回転をしながら、そのまま、左エルボを金成に向けた。金成は後ろにしゃがみ込み、ブリッチのような体勢からそのまま両足を蹴り上げて、岸田の顎に1発撃ち込んだ。岸田は少し怯み、その際に口を切り、口から血を流した。さらに金成はそのまま蹴りを岸田の顔に入れた。岸田は鼻血を出した。
ヒューヒューヒュー
チームラインの他3名が歓声を上げた。岸田の援護をする気はないらしい。もちろんチームルシファも金成と岸田の戦いを見ているだけだ。
貸家の叔母は呆れ顔で頬杖をついて、二人の喧嘩を黙ってみていた。
「おう兄ちゃんやるねえ、でも勝負はここからだぜ」
ギターを具現化した。
(こいつも能力者か。あのギターからして恐らく奴は音楽を使った何らかの攻撃を繰り出してくるな)
そう心の中で察知し、金成は構えた。
「ロックンロール第一小節:ロンド」
音楽が対象者を1人捕らえた。金成だ。
「なんだこれ」
金成は体の自由を奪われた。勝手に足が動く。
自我の欲求を音色に奪われてしまい、金成の脳の信号が足に上手く伝わらず、その足の行動の支配を岸田の奏でる音楽に奪われてしまい、本人の意志とは関係無く、足は前進した。
「ロックンロール第2小節:レクイエム」
ギターがこん棒のように突然鉄と棘の変わり、それを野球のバットの如く振りかざし、前進する金成に向けて殴り掛かった。
「やばい」
金成の足は言うことをきかない。しかしそれは下半身だけの話であった。
上半身は何とか動く。右手の親指と中指をパチンとならし岸田と金成の立ち位置を「トレード」した。
岸田はそのまま空振りした。次いで金成は右掌を岸田に向けて「グラヴィティ」を唱えた。手加減をする余地も無かったので、岸田の体は思い切り、重力が掛かり、そのままうつ伏せになる。
「ぐおおおおお、なんだこりゃ」
「これでもう動けねえぞ」
「何を、まだまだこれからだぜクソガキ」
ギターの形状が変わった。
「ロックンロール第3小節:隼楓」
すると、その形状を見たチームラインの3名が一斉に耳を塞いだ。いつの間にか岸田自身も耳栓をしていた。すぐにこの準備に取り掛かれるように前もって装着していたようだ。
ヒューン
高い金切り声の音を放ち、近くにいたチームルシファのメンバー諸とも両耳から血を流し始めた。遠くで見ている貸家の叔母には影響はない。どうやらこの攻撃範囲も限定されているようだ。
「ぐあ」
金成は平衡感覚を失った。耳の鼓膜が破れると一時期の間、視界も波打つことになるからだ。
「あばよ、ガキ」
ギターをそのまま金成の真上から直撃して、頭を地面に打ち付けた。
金成は額から血を流し、そのまま倒れ込んだ。
「俺のロックンロールを観客するのは100年早かったようだな」
金成は右手を付き、起き上がろうとした。血が流れている。平衡感覚もままならないので、そのまま動くことが出来ない。起き上がるのが精いっぱいだ。
(こんなところでやられてたまるかよ。俺はいつか日本を統べる。武藤とも約束したんだ。こんな奴にやられているようじゃ、この先王はおろか十戒にすら太刀打ちできやしねえ)
そう頭の中で考えてはいるものの、体は動かすことが困難に陥っていた。
「もう一発入れてやるよ。地獄へ落ちなベイベー」
岸田は舌で唇を舐めながら強くギターを握りしめ、そのまま第2小節へと変化し、こん棒に見立てて、再度振り下ろした。金成は素手でそれを受け止めた。
「な・・・なんだ、動かねえ」
金成の力は岸田を凌駕していた。岸田はピクリとも動かせない。
「この死にぞこないが」
突如金成の左手から炎が着火した。最初に貰ったスキル「ファイヤー」であった。そのまま岸田は顔を焼かれた。
「あぢいいいいい」
両手で顔を覆った。黒い煙が岸田の顔を覆った。金成は次いで近くにあるドラムセットを「マジカルトリック」で具現化し、それを宙に投げ飛ばした。それをトレードで本物のドラムセットと入れ替え、岸田の真上に来るよう設定し、岸田が顔の傷を気にしている間に一気にグラヴィティを掛けて、そのドラムセットを隕石の如くに変え、一気に岸田の体降り注いだ。
「ぐああ」
ドラムセットは石と違って脆く、そのまま穴が空いたりと威力はさほど出なかった。しかしそれでも岸田の肋骨と背骨を数か所折ることにより再起不能にはすることが出来た。
チームラインもこれはまずいと考え、岸田をドラムセットを退かして救い出し、そのまま逃げた。
「くっそ~、覚えてろよ」
まるで悪役が退散するかのように呆気ない幕閉じとなった。
他のチームルシファはようやく平衡感覚が少し戻りつつあり、金成の元へと向かった。
「大丈夫か?金成」
「まあなんとかな。あいつ死んでねえだろうか?つい頭の血が上ってカッとなってしまって、あいつに手加減なしでドラムセット落下させてしまったよ」
「金成の力も弱まっていったから骨折したぐらいで済んでたよ。息もあったし」
「にしても金成のさっきの連携プレイすごいな。どんだけスキル持ってんだよお前。普通1人1つまでだろ?」
「まあそういう能力にしたからな。しかしまあ、まだ俺自身もスキルに慣れてねえからな。あんなやつ相手にこの様だ」
「そんなことないよ」
貸家の叔母が傷薬とタオルを持ってきてくれた。
「あいつの音楽に嵌ると、ほとんどの連中が言いなりさ。それであのこん棒みたいなやつで滅多打ちされて、いつも他のチームは解散に追い込まれていたさ。あんたのおかげで当面悪さするようなやつは来ないよ。ありがとね」
傷を癒されながら、叔母から感謝を受けた。
ただのバンド組むだけが、とんだ災難であった。
後日、金成達チームルシファは無事バンドを成功させ、一時期の間ではあったが形成されたチームルシファはそのまま解散となったのだ。
次はどんな敵が金成を待ち受けているのか。超人離れした相手ではさすがの金成も気が滅入る可能性もある。
だからこそ彼はさらなる能力者探しの旅に出る必要があったのだ。
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