第43話:錬金術師

富里の鉄の武器を錬成させる錬金術の前では金成自慢の高速攻撃もカウンター技の前ではリスクが高い。

「やはりローリスクハイリターンを目指す為には、未来の情報が必要か」

金成にはスキルマスター「デスティニー」があるが、ライジングサンダーを使用中に果たしてこれが使えるかどうかが際どいところである。

しかもあのカウンター式の錬金術は金成の行動基準に合わせて性質変化をしている。一瞬の判断力の遅れが命取りになる。今のところデスティニーを使いつつ、相手を攻め立てる行動は悪手にしかならないわけである。

しかし地の利はいくらでもあるというわけである。

まず4人というフォーメーションを上手く活用することを最優先すべきと考えた。

いくら敵陣に飛竜が飛び込んでこようとも金2枚銀2枚いる状況では次の手で終了になる。

ただその為には誰かが犠牲にならなければいけないのであった。

「ハイリスクハイリターンはよくない」

金成の中でそれを考えつつも、相手の錬金術を攻略する術を思いつかなければいけないわけである。


「どうする金成」

「マーケティングに於いて3C分析の一つ自社分析。その中でも有名なのがSWOT分析というものが存在する」

「どういうことだ?」

「強み・弱み・機会・脅威。当然相手にもそれが存在する。我々の強みを生かしつつ、相手の弱みや脅威を分析しさえすれば戦場に於いて有利不利の攻守が逆転することは多々ある。俗に言う『下剋上』というものだ」

「俺たちは何をすればいい?」

「時間を稼げ。その間にマネジメント理論を突破しうる」

「金成、今はビジネスをしている場合じゃないぞ。殺し合いの最中だぞ」

「戦争でもサッカーの試合でもゲームでも、恋愛でもなんでも理論はそこに存在する。光と影もな。少しの間3人で頼むぞ」

金成は後ずさった。そして高台より高みの見物というところである。

金成は無謀に3人に戦を任せたわけではない。3人の実力・そして何より信頼していたからだ。仲間を信頼することは「チームワーク」が芽生えることである。そういった組織の力強さを金成は「自持思想論」を通じて知っていた。


「大将は怖気づいたのか?」

富里は歯を見せながら笑いが止まらない状況である。

「うちの大将は戦術家なもんでな。お前を倒すための戦術を披露してやるよ」

「くくく、まるで大手企業に喧嘩を売る名もなき中小企業のような存在だなお前ら。まあ皆殺しにしてやるよ」

「ほざけ」

原宿が2刀掲げ、富里に突っ込む。

池袋が背に持っていた弓を使い、矢を放つ。矢には「ジャッジメント」の札がついている。

しかし富里の錬金術の前ではその矢も全て粉砕されてしまう。

両腕で繰り広げた鉄の武器も即座に形を変えて戻し、富里も2刀で攻める。


ガン。ガン。ガン。


鈍い音が鳴り響く。

続いて渋谷が炎の拳で攻め立てる。

正面にて原宿が応対している最中、右往より渋谷が攻める。

しかし富里の視界に入っているため、渋谷の行動はお見通しであり、即座に対処する。

「これでも喰らいな」

右手に持っていた刀が突然鉄の鞭に変わり、リーチを伸ばして渋谷の右脇腹目掛けて直撃した。

「ぐはっ」

そのまま渋谷が吹き飛ばされた。

「渋谷」

原宿は驚愕を堪えた。目の前の敵に集中しなければいけないからである。

「ナイトメアスプリング」

闇が富里に襲い掛かる。

暗い靄が富里の自由を奪い、音も声も全てを奪い去るような感情無比なダークサイドであった。

「こいつは長く喰らうと結構やばいな」

富里は原宿を危険視し、突っ込んできた。

刀の形状を槍に変え、長さを生かして突進してくる。

ナイトメアスプリング発動時に便乗し、池袋が富里の背後に回っていた。弓矢を2発打ち込んだ。

両足に直撃し、富里の足から血が流れた。

「いてえ」

後ろを振り返ると池袋がいることに気付いた。

「んん?」

金成は富里の微妙な動きに違和感を感じた。

「この野郎」

血眼になり、武器の形状をまたも鞭に変えた。

今度は池袋の体目掛けて鞭を飛ばし、それに池袋が捕まる。

身体を鞭に覆われ、身動きが取れない。それを巨体の富里が軽々と池袋の体を持ち上げ、地面に叩きつける。

眼鏡が割れ、鼻を打ち、池袋は口から血を吐いた。

「原宿、後ろに下がれ」

金成は高台から立ち上がり、そう叫んだ。

すぐさま原宿は後ろに引き下がった。


スキルマスター発動:ライジングサンダー


金成の体が全身雷に覆われた。

直撃すれば膨大なる力を出せるこの技だが、相手の錬金術の前では力が届かないのが現在の課題である。

「疾風迅雷」

遠距離攻撃の電気ショックであった。しかし、

「俺の錬金術は鉄ではあるが電気までは通さないぜ。よって感電無し」

腕に鉄の防具を装着し、遠距離からの雷を全て弾き飛ばし、地面へと吸収させた。

「万策尽きたのか小僧?」

「いやこれからだぜ」

「?」

「電光石火」

超高速で富里目掛けて走った。

富里は目にも止まらぬ速さに思わず最初に繰り広げた全身棘人間にてカウンターを喰らわそうとしたが

「2度も同じ手喰うかよ」

そのまま富里を無視し、両サイドに吹き飛ばされている渋谷と池袋を回収した。

そして再度原宿の元に集まり、4人が同じ場所に終結した。

「大丈夫か二人とも」

ゲホゲホと咳き込みながら

「何とか無事だ。ただいてえ」

「それなら大丈夫だな。お前たちの力が必要だ」

「マーケティングリサーチは終了したのか?」

「まあそんなとこだな」

「一体何を見せてくれるってんだ?この俺様を本気で倒せるとでも?」

「まあ見せてやるよ。SWOT分析ってやつをな」

金成は自信満々にそう言うが、何を根拠にそんな勝機を言うのであろうか。

戦いはさらに続くのであった。

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